1月16日、オーストラリアラグビー協会はオーストラリア代表の新たなヘッドコーチ(HC)として、世界的名将エディー・ジョーンズ氏と契約を結んだことを発表した。 1月30日で63歳となるエディーHCは、最後のチャレンジの場を"第二の…

 1月16日、オーストラリアラグビー協会はオーストラリア代表の新たなヘッドコーチ(HC)として、世界的名将エディー・ジョーンズ氏と契約を結んだことを発表した。

 1月30日で63歳となるエディーHCは、最後のチャレンジの場を"第二の母国・日本"ではなく、"生まれ故郷"オーストラリアを選んだ。契約期間は5年で、2027年のラグビーワールドカップまで指揮を執る。

 再び「エディージャパン」誕生を期待したファンも多かったが、それは実現しなかった。



エディー・ジョーンズが選んだのは日本ではなく豪州

「オーストラリア人の誇りを持つ者として、代表チームを率いることができるのは大変光栄。オーストラリアに戻り、ワールドカップで母国を率いることができることは、私にとって本当にすばらしい機会です」(エディーHC)

 2015年ワールドカップで日本代表を率い、南アフリカ代表を下す「ブライトンの奇跡」を起こすなど、今やエディーHCは世界屈指の知将として知られる存在だ。2016年からは「ラグビーの母国」イングランド代表のHCに就任し、2019年ワールドカップでは準優勝。当然ながら2023年ワールドカップでも引き続き指揮すると思われていた。

 しかし昨年12月、ワールドカップまで残り9カ月というところで、エディーHCまさかの解任。就任後7年間の勝率は過去最高の73%を誇りながら、2022年の成績が5勝6敗1分と低調だったことが要因として挙げられている。

 だが、真の解任理由はわからない。周囲のコーチに厳しくあたっていたこと、東京サントリーサンゴリアスの指導や書籍の出版など副業に精を出していたこと、さらには外国人指揮官だったことなどが理由ではないかと、現地メディアは推測している。

 イングランド代表の次の指揮官には、2015年ワールドカップでエディーHCの片腕として日本代表FWコーチを務めたスティーブ・ボーズウィックが就任。2023年ワールドカップでは、予選プールで同組に入った日本代表と対戦する。

【W杯で9割近い勝率を記録】

 一方、"ワラビーズ"の愛称で親しまれるオーストラリア代表も、この9カ月でチームを再構築しなければならない。しかし、サンゴリアスでもプレーした元オーストラリア代表の「レジェンド」マット・ギタウは、語気を強めてこう語った。

「ワールドカップは、エディーが一貫して正しい結果を出し続けてきた大会だ」

 たしかにエディーHCの真骨頂は、ノックアウトトーナメントのワールドカップにこそある。

 2003年はオーストラリア代表を率いて準優勝し、2007年は南アフリカ代表の戦術アドバイザーとして優勝(7勝0敗)に貢献。2015年は予選プール敗退となったが日本代表を率いて3勝1敗、そして2019年はイングランド代表を率いて準優勝。指揮官として15勝2敗(アドバイザーを入れれば22勝2敗)と、9割近い勝率で無類の強さを誇っている。

 そんな"希代の勝負師"を、世界のラグビーシーンが放っておくはずがなかった。イングランド代表解任のニュースが流れると、すぐにフランスのプロクラブ、アメリカ協会、ジョージア協会などがエディーに接触したと報じられた。

 サントリーでエディーとともに戦ってきた土田雅人氏は現在、日本ラグビーフットボール協会の会長を務めている。エディーは「(土田会長と会食の予定は)ないです」と否定したが、2023年ワールドカップ後の指揮官候補だったことは容易に想像された。

 昨年12月中旬、エディーは自身の今後について「プロクラブはない。ナショナルチームで(指揮する)。2~3週間で結論を出す」とキッパリと断言した。1996年に東海大でプロ指導者のキャリアをスタートさせた日本か、それとも母国オーストラリアのいずれかで最後の指揮官になる心づもりをしていたようだ。

 短い"浪人中"でも、エディーは日本人指導者に対するセミナーやサンゴリアスで指導するなど、コーチとして足を止めることはなかった。しかし最終的には、オーストラリア協会との5年契約を選んだことが発表された。

【エディーが大激怒した日】

 現地報道によると、エディーは当初、ワラビーズ指揮官の前任者ニュージーランド人デイブ・レニーHCを監督する「ディレクターオブラグビー」に就任し、2023年ワールドカップ後に直接指導する予定だったという。ただ、レニーHCがエディーの下で指揮するのを断ったため、2023年ワールドカップでも指揮することになった。

 イングランド協会との契約に『2023年は他国で指揮をしてはならない』という条項がなかったことも、ワラビーズHC就任を後押しした。また、エディーHCは女子代表チームの強化にも積極的に関わっていくという。

 忘れもしない出来事がある。

 2015年9月、日本代表がワールドカップを戦うためにイングランド・ブライドンに入り、地元自治体による歓迎セレモニーが開催された。その冒頭でワールドカップを振り返る映像のなか、2003年オーストラリア大会の決勝で敗れたエディーが大きく映し出されると、それを見て大激怒。負けず嫌いのエディーにとって、母国開催の決勝で負けたことは大きな屈辱だった。

 母国を率いてワールドカップを獲得すること。エディーHCにとって、それはどうしても叶えたいラストミッションだろう。しかも、チャンスは2023年と2027年、2度もある。

「オーストラリアラグビー界にとって(この5年間は)非常に重要な時期となる。ワラビーズには才能ある選手が豊富で、選手層も非常に厚い。コンディションがよければフランス(ワールドカップ)で24年ぶりの優勝ができると確信している」(エディーHC)

 日本代表は予選プールDで、エディーが指揮するチームと対戦することはなくなった。だが、もし予選プールを2位で勝ち上がり、エディーHCが率いるワラビーズが1位で予選プールCを通過すれば、両国は準々決勝で激突する。

【リーチ マイケルとエディー】

 ブレイブルーパス東京の日本代表FL(フランカー)リーチ マイケルは、エディーがオーストラリア代表HCに就任したことに関して、かつての指揮官との対戦に思いをはせた。

「イングランドであってもオーストラリアであっても(ワールドカップで)対戦できればうれしい。ワラビーズとやれるのは面白い。ですがその前に、ボーズウィックが率いるイングランドをやっつけないと!」

 本番まで残り9カ月、エディー・ジョーンズがどんなチームに仕上げてくるのか──。9月の開幕直前まで、ワラビーズは世界中から大いに注目されることになるだろう。