福田正博 フットボール原論■Jリーグは2023シーズンに向けて各チームが始動。現在は連日のように選手移籍のニュースが出て…

福田正博 フットボール原論

■Jリーグは2023シーズンに向けて各チームが始動。現在は連日のように選手移籍のニュースが出ている。そうしたなか、福田正博氏は今季どのチームに期待しているのか。話を聞いた。



昨年優勝の横浜F・マリノス(写真)や上位陣を脅かすチームは今年出てくるか

【補強の本気度が見られる鹿島】

 この6年間、Jリーグの優勝争いは、川崎と横浜F・マリノスという神奈川県の一部地域だけで繰り広げられている。これではやっぱり寂しいと言わざるを得ない。

 今シーズンも横浜FMと川崎がJ1を引っ張っていきそうだが、それでも例年ほど走ることはないと見ている。

 川崎はDFラインからCBの谷口彰悟が海外移籍(アル・ラーヤン)で抜けた。柏レイソルからCBやMF、サイドバック(SB)でプレーできる大南拓磨を獲得したが、川崎の場合は、昨季のチャナティップの例もあるように、やっているサッカーが特殊なためにフィットできるかは蓋を開けないとわからない部分がある。

 攻撃陣でも世代交代をふくめてチームを作り変える時期に差し掛かっているだけに、鬼木達監督がどうチームに手を加えていくのか。そこは楽しみでもあるが、心配な面でもある。

 オフの補強で目立ったのは、鹿島アントラーズだ。

 鹿島が最後に国内タイトルを獲得したのが2016年シーズンで、Jリーグと天皇杯の2冠を達成した。この時に守備陣を支えたセンターバック(CB)の昌子源(ガンバ大阪)と植田直通(ニーム)の両選手を獲得した。単なる古巣への復帰というだけではなく、昨季はCBの層の脆弱さが課題で、補強ポイントと合致している点が期待感を膨らませてくれる。

 攻撃陣にもFWに川崎フロンターレから知念慶を完全移籍で獲得し、右サイドアタッカーにはサンフレッチェ広島から藤井智也を加えた。知念は川崎ではレアンドロ・ダミアンや小林悠の影に隠れることが多かったが、昨季はキャリアハイとなる7ゴールを決めている。前線からの献身的なプレスもできる選手なので、チームにフィットすれば得点はさらに増やせるのではと見ている。

 藤井は立命館大から広島に進み、3年目の昨季は、夏場以降は体調不良や守備力の課題などで出番を減らしたものの、27試合に出場。スピードを生かしたプレーで右サイドで存在感を発揮した。

 補強面は鹿島の今季にかける本気度が表れている気がする。昨季はシーズン開幕前にレネ・ヴァイラー監督を招聘したものの、夏場には監督交代に踏みきった。ヴァイラー監督の入国前のリーグ戦4試合、カップ戦1試合に代行として指揮を執った岩政大樹監督が引き継いで最終的には4位になったが、内容的としてはいまひとつ。

 それだけに、今季は岩政監督も目の色を変えて臨むはずだ。クラブはしっかりと補強をしただけに、監督の勝負に対しての腕の見せどころでもあるし、楽しみにしている。

【気になる関西勢の奮闘】

 優勝争いから遠ざかっている点で言えば、ガンバ大阪にも頑張ってもらいたい。

 今季は昨季まで徳島ヴォルティスの指揮官だったダニエル・ポヤトス監督を迎えた。スペインのエスパニョールやレアル・マドリードでのユース年代の指導経験が豊富なポヤトス監督が、低迷するG大阪をどう変貌させるのかは楽しみなところだ。Jリーグのなかでは能力の高い選手が揃うチームなだけに、新監督の指導がフィットすれば結果はすぐに出る可能性もあるのかなと思う。

 関西勢で言えば、セレッソ大阪が昨季の勢いをどう昇華させてくれるかも楽しみな点だ。昨季は小菊昭雄監督がプロ選手としてのキャリアを持たない指揮官として注目されたが、今季は監督3シーズン目。能力も経験値もある選手は揃っているし、若手にも楽しみな逸材はいるだけに、勝負にこだわってシーズンを戦い抜いてもらいたい。

 サンフレッチェ広島は、ミヒャエル・スキッベ監督のチームマネジメントがどう出るのか気になっている。昨季のスキッベ監督は、選手たちにピッチ外でも自由を与えて伸び伸びとやらせたのが奏功して結果につながった。

 ただ、これが通じたのは前任者との対比で変化があったからという側面もある。スキッベ監督の率いたチームの成績を振り返ると、初年度がもっとも成績を残し、そこから下降線をたどって3年目あたりでチームを去っているケースが多い。

 当然ながら、そうした監督を招聘したのをクラブも理解しているはずで、狙いは必ずあるはずだ。それだけに自由にやることに慣れた広島の選手たちが、今季はどういう戦いをするのかはしっかり見ていきたい。

 浦和レッズは、3年前に立てて実現できなかった計画からスケールダウンした目標を掲げている。リカルド・ロドリゲス監督は就任2年で去ることになったが、それほど悪かった印象はない。監督の仕事は責任を取ることも含まれるが、監督だけの責任だったわけではないだろう。

 Jリーグが盛り上がるためには、日本でもっとも熱いサポーターのいる浦和の躍動は不可欠だ。ポーランド出身のマシエイ・スコルツァ監督がどういうサッカーを志向するかはまだわからないが、選手の動向もふくめて今後は興味深く追っていきたい。

【選手たちのクオリティーをどう上げていくのか】

 2022年はカタールW杯で日本代表が躍動し、サッカーに興味を持つ人が増えた。だが、現状ではそうした人たちが、すぐにJリーグへと足を運んでくれたり、試合を視聴してくれるかといったら、難しいと言わざるを得ない。

 なぜなら、日本代表としてワールドカップで活躍した選手たちのほとんどは、Jリーグでは観られないからだ。とても残念ではあるが、これは海外でプレーする日本人選手が増えた頃から始まっていたことでもある。

 その流れのなかで、Jリーグは2024シーズンからJ1、J2、J3のすべてのカテゴリーが20チーム制を取る(2023シーズンはJ1が18、J2が22、J3が20チーム)。これによって、Jリーグがさらに活性化されるのを期待しているが、そこに向けてひとつ提案したいことがある。それは外国籍選手の出場枠の撤廃だ。

 日本選手の出場機会を守ることも大事だが、いまJリーグに必要なのは選手のクオリティーでもある。日本代表クラスの選手たちが海外リーグを主戦場としているなかで、いろんな取り組み方のJリーグクラブが存在したほうが、多くの人に興味を持ってもらえるのではないか、と思う。

 たとえば、チームの大半が外国籍の選手というクラブがあってもいいだろう。そうしたチーム構成にすることが、クラブとしての利益追求につながる可能性があるからだ。全国各地のクラブがその土地にフィットするチームづくりを進める。そのためにアイデア出し、具現化できるようなルールにしてもらいたい。

 チームづくりの部分では、サガン鳥栖のように若手を育てて成績を残す、独自カラーを持つクラブが出てきている。同様に経営面でも縛りを撤廃することで、各クラブが独自の強みを持てるように努力する。これが魅力あふれるクラブの増加につながり、ひいては日本代表の成績に左右されずにスタジアムに足を運ぶサッカーファンの獲得にもなるのではないか。

 2023年は、日本代表にとって次のワールドカップに向けたスタートとなるが、Jリーグにとっても重要な一年である。そんな今シーズンに、多くの人たちをサッカーの虜にさせるような試合が増えることを期待している。

福田正博 
ふくだ・まさひろ/1966年12月27日生まれ。神奈川県出身。中央大学卒業後、1989年に三菱(現浦和レッズ)に入団。Jリーグスタート時から浦和の中心選手として活躍した「ミスター・レッズ」。1995年に50試合で32ゴールを挙げ、日本人初のJリーグ得点王。Jリーグ通算228試合、93得点。日本代表では、45試合で9ゴールを記録。2002年に現役引退後、解説者として各種メディアで活動。2008~10年は浦和のコーチも務めている。