菊池雄星インタビュー(後編)インタビュー前編を読む こんな高校生に初めて出会った――。そう思うほど、インパクトのある…
菊池雄星インタビュー(後編)
インタビュー前編を読む
こんな高校生に初めて出会った――。そう思うほど、インパクトのある言葉だった。今から8年前、岩手・花巻東高3年生だった菊池雄星はこんなことを言っていた。
「勝てない不調のときこそ、インターネットの掲示板を見ます。掲示板を見て、批判されていることに対して『よしよし、もっと言え』って思っていました。『見るな』という人もいますけど、自分としては見たほうがいい。勝てないときはだいぶ悪く言われましたけど、それがエネルギーになっていましたから」

高校時代から10年以上も「野球ノート」を書き続けているという菊池雄星
すでに全国に名前が知れ渡っていた高校3年の秋だった。菊池は毀誉褒貶(きよほうへん)にさらされた1年を思い起こすように、静かな口調で語った。菊池の内に潜む芯の強さを見たような気がした。
プロ入り後にインタビューすると、さすがにもうインターネットの掲示板を見ることはないという。プロともなれば、アマチュア時代とは批評される規模が桁外れになる。「自分がコントロールできないことは考えないようにしている」と、成熟したアスリートへの階段を上がっていることがうかがえた。
それでも、その後もインタビューするたびに菊池が言っていたことがある。それは「僕は『あいつはもう終わった』と言われたこともある選手ですから」という、自虐とも恨み節とも取れる言葉だった。
プロ入り当初、左肩痛やチーム内のトラブルに巻き込まれ、数々の心ない言葉を浴びてきた。その悔しさ、反骨心はいまだに菊池の根底にあるのだろう。
プロ8年目を迎えた菊池は、こんな言葉を口にする。
「もう怖いものは何もない。失敗してもいいから、高いものを目指してやっていきます」
今季は開幕からカード初戦で先発するケースが続いている。相手もエース格をぶつけてくるなか、勝ち星を重ねていくことは容易ではない。それでも、菊池は強い決意でマウンドに登っている。
「僕は涌井さん(秀章/ロッテ)や岸さん(孝之/楽天)のような『あれがエースだ』という存在を見てきていますから。監督、コーチ、選手、ファンを含めて、エースらしいと納得してもらえるピッチングをしないといけないと思っています。そのためには、年間通してローテーションを守って、信頼を勝ち取らないといけない」
過去7年での年間最長イニングは昨季の143回。勝敗以前に、この程度のイニング数では「エース」と呼ばれることはないと自覚している。
「去年も5試合くらい(ローテーションを)飛ばしているので、投げていれば170~180イニングくらいいったかもしれません。まずはケガをしないこと。その上でローテーションを守り抜くことを考えています」
毎日、自分の体との対話をした上で、トレーニングや食生活に取り組む。プロ7年間の蓄積を生かせるかは、これから後半戦にかけて菊池の課題になるだろう。
そして、もうひとつ。菊池がエースと呼ばれるための大きな鬼門がある。それは「ソフトバンク」だ。
ソフトバンク戦には通算15試合に登板して、0勝10敗。好調が続く今季も、ここまで喫した2敗はソフトバンク戦のものだ。優勝を争う上で、どうしても避けては通れない相手でもある。
菊池にソフトバンク戦について問うと、表情を変えずにこう答えた。
「ソフトバンクに勝たないと上位に行けませんから。でも、それほど意識があるわけではありません」
前回登板は勝負どころで勝ち越しタイムリーを浴びたとはいえ、8回2失点。内容はこれまでよりも格段によくなっている。昨年からスライダーの変化量を抑え、スピードを上げて打者の手元で小さく曲がるようにモデルチェンジしたことも効力を発揮している。あとは結果を残すだけだ。
「今年は手応えがあります。粘り強く投げられているので、あとはもっとリズムよく投げれば、野手のリズムもよくなるはず。(勝てていないことを)言われるのはしょうがないので、早めに勝っておきたいですね」
とはいえ、負けが込んでいること自体、面白いはずがない。ソフトバンク戦に限らず、菊池に「気持ちを切り替える方法」について聞くと、苦笑交じりにこんな答えが返ってきた。
「勝たないと切り替えられないですね。どんなにいいピッチングをして、粘れた実感があっても、負けたら引きずります」
そして菊池は「でも……」と言って、こう続けた。
「負けて引きずって、悪いところを探しそうになるんですけど、そこで変えてしまうことが悪いのだと思います。普段からいかにして自分を俯瞰して見られるか。生活するなかで考えすぎないことも大事だと考えています」
ところで、菊池といえば高校卒業と同時にメジャーリーグに挑戦する希望を持っていたことが知られている。今は西武のエースを目指して邁進しているとはいえ、今も菊池にメジャー志向があることは間違いない。西武のある選手は「雄星は英語をよく勉強していますよ」と話していた。
「英語は毎日勉強しています。1年くらい前から英会話の教室に行っています」
チーム内ではブライアン・ウルフと会話することが多いという。ボールを自在に動かしてゴロを打たせる、典型的な「グラウンドボールピッチャー」であるウルフは、快速球を持つ菊池とは投球スタイルが対照的だ。そんなウルフから学ぶことも多いという。
「ウルフとは通訳を介さずに2人で食事に行くこともあります。彼は頭がいいので、力の抜きどころとか参考になります。私生活からスマートで、考え方がシンプル。そういった部分がピッチングにつながっていることを勉強しています」
貪欲に学ぶ姿勢は高校時代から何も変わっていない。日々に起こった出来事をつづる「野球ノート」は、高校時代から足掛け10年以上も書き続けているという。
菊池に改めて聞いてみた。自身が描く理想像に対して、今の自分は何パーセントの域まで到達しているのかと。すると菊池はしばらく考え込み、「うーん、70パーセントくらいまできてるかな」とつぶやいた。
「とんとん拍子にここまでこられればよかったんですけど、ケガとかバッシングとか、いろんなことを早い段階で経験できたことは逆によかったと思っています。今の年齢でケガをするより、1年目でケガをしたことで早くから体に興味を持って勉強ができた。これからの自分に生きてくると思いますし、どこまで上に行けるのか自分自身に期待があります」
菊池雄星という投手は、高校時代から「不器用」を自認していた。ドラフトの目玉と呼ばれた逸材にしては「亀の歩み」だったかもしれない。だが、コツコツと積み上げた技術と思考は、ちょっとやそっとの逆風ではびくともしないはずだ。
(おわり)
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