2023年の箱根駅伝駒澤大の3冠で幕を閉じた。スポルティーバでは大会直前、識者3人にトップ10を予想してもらったが、実際の順位と比べながらレースを総括。10校の顔ぶれは予想と似た顔ぶれになったものの、細かい順位の違いが出た理由、予想通り・…
2023年の箱根駅伝駒澤大の3冠で幕を閉じた。スポルティーバでは大会直前、識者3人にトップ10を予想してもらったが、実際の順位と比べながらレースを総括。10校の顔ぶれは予想と似た顔ぶれになったものの、細かい順位の違いが出た理由、予想通り・予想外のレースを見せた大学などを振り返った。
箱根駅伝の2区でデッドヒートを繰り広げた、(右から)中央大の吉居、駒澤大の田澤、青学大の近藤
【青学大はいやらしいほどの勝負強さが影を潜めた】
■佐藤俊(スポーツライター)
【予想順位】 【実際の順位】
1位:駒澤大 駒澤大
2位:青山学院大 中央大
3位:國學院大 青山学院大
4位:順天堂大 國學院大
5位:中央大 順天堂大
6位:創価大 早稲田大
7位:法政大 法政大
8位:東京国際大 創価大
9位:東洋大 城西大
10位:早稲田大 東洋大
今年の箱根駅伝予想は、1位の駒澤大と7位の法政大が当たった。5位以内のチームは予想の5チームと同じ顔ぶれだったが、順位をピタリと当てるのはやはり難しい。
優勝した駒澤大は、出雲駅伝、全日本大学駅伝に続いてノーミスだった。区間賞は6区の伊藤蒼唯(1年)のひとつだけだったが、全員が区間5位以内という安定した走りを見せ、駅伝力の強さをまざまざと見せつけた。
総合2位の中央大は、往路の2区と3区で区間賞を獲り、そこで一気に流れが優勝モードになった。吉居大和(3年)・駿恭(1年)兄弟を軸に強化が進められた成果が結果に反映された。一方、3位の青山学院大は"山"の2区間のミスが響いた。出雲、全日本ともにミスで負け、今回は箱根での調整力が問われたが、選手変更の穴を他選手で埋められず、駒澤大の前に出られないままレースを終えた。今季は無冠に終わり、以前のいやらしいほどの勝負強さが影を潜めた感じだ。
いい意味で予想を裏切ったのは早稲田大だ。1区で出遅れたが、2区以降は3区の井川龍人(4年)らで巻き返して往路を5位で終えた。復路は、順位がややデコボコした駅伝になったが、それでも6区終了時に3位に上がるなど、花田勝彦監督の指導が結果に結びついた。
城西大も5区の山本唯翔(3年)の区間賞で往路を9位で終え、シード確保が見えるなか、復路は我慢の駅伝を続け、9区10区でまとめて9位をキープした。逆の意味で予想を裏切ったのは、東京国際大だ。目立ったのは4区で区間新を出したイェゴン・ヴィンセント(4年)だけで、昨年のような3本柱の丹所健(4年)、山谷昌也(4年)に続く選手の踏ん張りが見えなかった。
10位以内の予想には入れていなかったが、明治大も予想外の結果だった。ここ数年、1区の出遅れが響いて停滞したが、今回は1区の富田峻平(4年)が区間賞を獲り、最高のスタートをきった。その後、7区で杉彩文海(3年)が区間賞を獲って10位のシード圏内まで押し上げたが最後にうっちゃられた。3年連続で同じことの繰り返しになったため、チームに大きな変化が必要な時かもしれない。
【駒澤大は予想以上の完勝。中央大も「完璧」】
■酒井政人(スポーツライター)
【予想順位】 【実際の順位】
1位:駒澤大 駒澤大
2位:國學院大 中央大
3位:青山学院大 青山学院大
4位:中央大 國學院大
5位:創価大 順天堂大
6位:順天堂大 早稲田大
7位:東洋大 法政大
8位:東京国際大 創価大
9位:城西大 城西大
10位:早稲田大 東洋大
駒澤大の総合優勝は展開を含めて予想通りになった。ただ、全日本8区で区間賞の花尾恭輔(3年)とスーパールーキー佐藤圭汰が欠場。田澤廉(4年)が12月初旬にコロナに感染しながら、完勝するとは予期できなかった。特に田澤は、状態さえよければ2区を驚異的なタイムで走っていたと思う。また、1年生コンビが務めた"山"も想像以上の強さだった。
國學院大は4本柱のひとりである主将・中西大翔(4年)が欠場。青山学院大は山で崩れたのがマイナスだった。結果的に青学大の順位は的中して、國學院大も4位に入ったが、4位と予想していた中央大は完璧に近いレースができた分、順位が上がった。何より吉居大和(3年)の2区快走には驚かされた。
5位と予想した創価大は8位だったが、5位でレースを終えた順天堂大との差は37秒。創価大はフィリップ・ムルワ、嶋津雄大、葛西潤の4年生トリオが本調子でなかったのが残念だった。早稲田大と東洋大は2区以降に順位を上げてくると読んでいた。展開は予想通りになったが、両校の2区終了時のタイム差(早大が10位、東洋大が19位で2分16秒差)が順位に影響した印象だ。
城西大の順位は的中。こちらもほぼイメージ通りの展開になった。東京国際大は往路(7位)でもう少し順位を上げておきたかった。10位以内に予想していなかった法政大はシード権争いをするだろうと思っていたが、総合7位は「お見事」としか言いようがない。
【想像を超えた中央大の快走】
■折山淑美(スポーツライター)
【予想順位】 【実際の順位】
1位:駒澤大 駒澤大
2位:青山学院大 中央大
3位:國學院大 青山学院大
順天堂大 國學院大
創価大 順天堂大
6位:中央大 早稲田大
7位:東洋大 法政大
法政大 創価大
東海大 城西大
明治大 東洋大
予想外だったのは、2位と予想していた青山学院大の"山"の2区間の失速と、6位予想で2位だった中央大の快走だ。特に中央大は、1区・区間5位の隙のない走り、それを受け継いで完全に流れを作った2区・吉居大和(3年)の粘り強い走りが想像以上だった。
中央大の1区は、1年生の溜池一太。出雲では5区区間2位で、12月3日の日体大記録会の1万mで28分26秒77と自己記録を大幅に更新していたが、ハーフマラソンは経験がなく未知数の選手でもあった。レース前、順天堂大が確実に先手を取るために三浦龍司(3年)を1区で起用することも考えられたが、そうなった場合はハイペースの展開にうまく対応できるのか、という心配があった。
実際には三浦が2区に回ったため、1区の展開は少し違ったものになった。まず関東学連の新田颯が飛び出して、その他は牽制。10km通過は30分19秒という少し遅めの展開だった。1年生にとっては難しい展開であったはずだが、冷静に走って2位の駒澤大とも9秒差で中継した。
そこから、2区の吉居は1km過ぎで駒澤大の田澤廉(4年)に追いつき、前に出る積極的な走りをしたが抜き返された。そこからズルズルと差が開くかと思われたが、青学大の近藤幸太郎(4年)の力を借りて盛り返し、最後は田澤と近藤に3秒差をつけた。
そのわずかな差があったことで、3区の中野翔太(3年)も1万m28分00秒86のスピードを生かして区間賞獲得の走りができ、5区も経験者の阿部陽樹(2年)が区間3位の堅実な走りで2位を確保と、狙い通りの展開になった。
藤原正和監督にとって1区の展開は想定通りだっただろうが、大事な区間に1年生を配置した勇気と、選手の資質を見抜く眼力はすごい。2区も吉居を信頼して起用し、遅れ始めたところでも的確なアドバイスをして区間賞を獲得させた手腕には脱帽。藤原監督の思惑がすべて当たった結果の2位だった。