100年以上の歴史があるバスクダービーでは、激しい攻防が繰り広げられてきた。そこで勝利者になった選手は、「戦士」として…

 100年以上の歴史があるバスクダービーでは、激しい攻防が繰り広げられてきた。そこで勝利者になった選手は、「戦士」として尊敬される。肉も骨もぶつかり合うインテンシティのなかで、真の存在価値が問われるのだ。

 1月14日、アスレティック・ビルバオとのバスクダービーで、日本代表の久保建英(21歳、レアル・ソシエダ)は、「ゲームMVP」に選ばれている。鮮烈なゴールを奪った後、ユニフォームを脱いで咆哮を上げる姿は雄々しかった。ダメ押しのPKも誘い、決定機阻止で、相手のひとりを退場に追いやっている。これで3-1という勝利の立役者となり、文句なしの選出だった。

 スペイン挑戦4年目、久保にとってのベストゲームだったと言えるが、その可能性は広がり続ける。
 



アスレティック・ビルバオとのバスクダービーでMVPに選ばれた久保建英(レアル・ソシエダ)

 アスレティック戦、久保は試合を通じ、あらゆる局面でアスレティックの選手を凌駕していた。

 開始直後から、ふたりに囲まれながらボールを収めると、ダビド・シルバに落とし、ブライス・メンデスに渡ったボールを駆け上がって再び受け、すかさず左のアレクサンデル・セルロートにはたく。リターンをもらいに猛然とゴール前に走ると、遅れた敵ディフェンダーに手や足を使って倒されている。ファウルにはならなかったが、コンビネーションを使った攻撃は「止められない」勢いがあった。

 カタールW杯後の久保は心身のコンディションがすこぶるいい。ボールプレーヤーたちとパス交換を重ねるたびに、自信を漲らせ、覇気に満ちていた。その相乗効果によって、守備のリズムも好調なのだろう。守るためのディフェンスではなく、攻めるためのディフェンスで、合理的な動きができるからだ。

「守備が足りない」

 これまで久保はそう指摘されることがしばしばだったが、それはサッカーコンセプトの問題だった。「守りありき」のチームでは、特性が十分に生かされなかっただけだ。

「タケ(久保)はこれまでもクオリティの高い選手で、このチームでやるべきことを理解することで、そのよさが出ているのだろう。守備面の協調性も瞠目に値する」

【切れ目ない動きで今季3ゴール目を決めた】

 レアル・ソシエダを率いるイマノル・アルグアシル監督が語っているように、今はディフェンス力もチームに活力をもたらしている。

 アスレティック戦の久保は、誰よりも鋭い出足でプレスをかけ、カタールW杯の日本戦でもミスをしたスペイン代表GKウナイ・シモンを苦しませ、パスミスを誘っている。24分の先制点も、その流れだった。パスミスから押し込み、相手がどうにか弾き出したボールを味方が押し戻し、エリア内でセルロートが収めて左足で叩き込んだ。

 そして36分、久保にとって自身、今シーズン3得点目もウナイ・シモンへのプレスとパスミスが"予兆"だった。ウナイ・シモンからのフィードを受けた選手が、やや強引に持ち出そうとしたところ、ダビド・シルバが巧妙に奪い返し、そのパスに久保が素早く反応。遅れてきたディフェンダーの股を抜き、GKとの1対1を完璧に制し、ニアを撃ち抜いた。

 久保は攻守が途切れなかった。激しいプレスをかけるだけでなく、味方が奪い返した直後のパスに準備ができていた。間断のない動きで、アスレティックの選手を上回った。

 後半59分にPKを奪ったシーンはその典型と言える。

 相手が自陣内で囲まれて滑り、焦ったところだった。バックパスにいち早く反応していたのが、前線の久保だった。パスを奪ってゴール前に突入し、絶好のライン取りのドリブルでエリア内に入ると、後ろから来たジェライ・アルバレスに倒されている。アスレティック陣営からは「ダイブ」と抗議を受けたが、完全なPKで、アルバレスはレッドカードだった。

「ベンチからは接触があったかどうかは見えなかった。しかし、もし接触がなかったら、タケは倒れたりしないだろう。なぜなら、十分に2点目を狙える状況だったから」

 アルグアシル監督の冷静な証言がすべてだろう。

 久保が勝負の決着をつけた。相手を10人にし、反撃の余地を与えなかった。チームはリーガ・エスパニョーラで3位を堅持。おまけに膝の前十字靭帯のケガから復帰した主将、ミケル・オヤルサバルが得意のPKで315日ぶりに得点する舞台まで作った。

 75分、久保は"お役御免"でダビド・シルバらと一緒にピッチを去っている。過密日程が続くだけに、無理はさせられない。主力の証だ。

「このチームは今までとまったく違う。ボールを持てるし、それが僕をいい選手にしてくれる。だから、僕もチームメートをいい選手にしたい」

 久保はそう語っているが、チームの中で自分が生かされることで、味方も生かす循環が生まれている。そこに生まれるエネルギーは巨大で、バスクダービーでヒーローになったのは必然だった。スペイン大手スポーツ紙『マルカ』も『アス』も、両チームを通じて最高で唯一の星三つ(星0~3の4段階評価)だった。

 1月17日、レアル・ソシエダはスペイン国王杯で、ホームにマジョルカを迎える。久保にとっては古巣との一戦だが、ノスタルジーに浸るよりは勝利の雄叫びで応じるタイプだろう。ヨーロッパリーグも含め、タイトル獲得も照準内だ。