「世界一タフな競技」と言われる冬の自転車競技、シクロクロス。スタートゴールが含まれるホームストレートには舗装道路が使われるが、泥、草地、林間、砂など様々な路面を組み合わせ、しかも「その一部は自転車に乗ったまま走破不可能なものとする」というル…

「世界一タフな競技」と言われる冬の自転車競技、シクロクロス。スタートゴールが含まれるホームストレートには舗装道路が使われるが、泥、草地、林間、砂など様々な路面を組み合わせ、しかも「その一部は自転車に乗ったまま走破不可能なものとする」というルールに基づいて設営されたサーキットで開催されるオフロード競技だ。男子エリートの競技時間は60分。ぬかるむ泥の上で、重いペダルを踏み込んだり、自転車を担いで走ったり、無酸素と有酸素運動の境界線を行き来しながら、60分間限界まで追い込む厳しさは、他の競技にはないと言われている。

河川敷、公園など、コースを設営しやすく、運営もしやすい。高速レースになりにくく、路面もやわらかいため、参加者の大怪我のリスクも少ない。「大人のどろんこ遊び」などと呼ばれ、日本国内においても、MTBでも走れるビギナーカテゴリーの開催も増え、一般層の愛好者を増やしてきた。この2022-23シーズンは、早いところでは9月に開幕し、熱戦が繰り広げられている。

シクロクロスレースには、複数の種類がある。北海道から九州まで、全国にシリーズ戦を開催する「関西シクロクロス」「シクロクロスミーティング」「東北シクロクロス」のような複数の団体があり、それらの団体がつながる「AJOCC(日本シクロクロス競技主催者協会)」が、情報発信や調整などを行っている。シーズン中は無数の大会が各地で開催されるが、AJOCCが日本全国の大会から選び設定した「JCXシリーズレース」は順位によるポイントが付与され、シリーズランキングも発表される重要なレース。その中でも、UCI(世界自転車競技連合)が認定したレースでは、世界からの参戦を受け入れるため、レベルは上がるが、上位者にはUCIポイントが付与され、世界選手権などの出場枠にも関わってくる。



女子レースもレベルが上がっており、熱い戦いが繰り広げられている

ここでは、近年見応えのあるレースが展開されている、JCXシリーズレースを振り返っていきたい。
JCXシリーズの第1戦は、茨城シクロクロス第2戦土浦ステージ。10月10日に茨城県土浦市のりんりんポート土浦と川口運動公園周辺の特設コースで実施された。ここは、前年12月に2021シリーズの全日本選手権が開催された場所でもある。



サイクリングの休憩施設「りんりんポート」を核に開催された

設営されたのは、1周2.5kmのコース。りんりんポートとは、土浦のマリーナ近くに作られたシャワーなども完備されたサイクリングの休憩所であるが、コースはりんりんポート南部の芝生エリアをメインに、川口運動公園の陸上トラックの周辺などを利用する。



芝生エリアに這うように設営されたコース。ほぼフラットだ。降り続いた雨の影響で、雨を含んだ路面が広がる

当然、コースは平坦基調のものととなり、最大標高差は3m。舗装道路区間のホームストレートも長く、高速レースになることが予想されていた。



水を含み、重くなった路面。パワーが求められるレースになった

だが、このレースの前日まで雨天が続き、雨を吸った泥は重く、サーキットは、パワーが必要なコンディションに。レースは年齢や実力順にカテゴリー分けして開催され、この日は朝8時15分スタートの男子U15と、ビギナー向けのカテゴリー4から始まった。そして、午前中には、マスターズとカテゴリー3が開催された。
女子は全日本チャンピオンの渡部春雅(明治大学)が小川咲絵(AX cyclocross team)を振り切り、独走で優勝を決めている。



小川咲絵(AX cyclocross team)らが先頭を追うが、及ばなかった



拳を突き上げフィニッシュする渡部春雅(明治大学)

※難しく重い路面の中、午後の部がスタート→

午後からは男子のジュニア、カテゴリー2、男女のエリートと、スピードが上がることが予想されるレベルの高いカテゴリーが開催される。朝からウェットコンディションだった路面は、予想に反し、午後になっても乾くことはなく、さらに午前のレースの走行跡が刻まれ、クセのある難しい路面になってしまった。上位カテゴリーのレースはコントロールの難しい重い路面で開催されることになった。



男子エリートのスタートライン。10月上旬の開催にもかかわらず、トップ選手が集結した

この大会は3戦開催されるJCF(日本自転車競技連盟)の公認大会の一つで、全日本選手権への出場権がかかるJCFシクロクロスランキングを決めるポイント付与が行われる。男女エリートのトップ選手は、グリーンシーズンはロードやMTBを走っており、いずれの競技種目も、10月上旬は大きな大会が続くシーズンの真っ最中である。だが、重要な意味を持つことになり、最難関の男子エリートには78名がエントリーした。

スタートラインには、シクロクロスの国内トップ選手が並ぶ。曇天で、気温は16度。運動量の多いシクロクロスにとっては、暑さは非常に厳しく、10月の開催が懸念されたが、「走れる」気温に恵まれた。
シーズン初戦とあり、互いの調子や仕上がり具合もわからないが、それぞれの選手にとって、マークすべき選手の見極めに加え、自分自身の調子を確認する場という意味合いもあるようだ。

号砲が鳴り、一斉に選手たちが飛び出した。最初に飛び出したのは、日本チャンピオンジャージを着た小坂光(宇都宮ブリッツェン)だ。小坂は前年の同会場で開催された全日本選手権で優勝しており、このコースと相性がよい。



スタートの号砲とともに、選手たちが飛び出した。先頭は全日本チャンピオンジャージを着た小坂光(宇都宮ブリッツェン)だ

序盤から転倒が発生したが、小坂に加え、沢田時(TEAM BRIDGESTONE Cycling)と織田聖(弱虫ペダルサイクリングチーム)の実力者3名が集団から抜け出し、前方を走る。



織田聖(弱虫ペダルサイクリングチーム)、沢田時(TEAM BRIDGESTONE Cycling)らも抜け出す

2周目に入り、先頭のペースが落ち着いたところで、織田がじわじわとペースアップし、2名を置き去りにし、独走態勢に入った。2名は織田を追うが、3周目に小坂が転倒。幸い大きな怪我や、メカトラはなかったものの、再スタート後も、うまくペースアップすることができず、先頭復帰は叶わなかった。
織田は障害物もジャンプで飛び越え、順調に先頭を行く。沢田と副島達海(大阪産業大学)が織田を追うが、差を詰めることはできなかった。



先頭を独走する織田

織田は独走のまま最終周回まで走り切り、余裕のガッツポーズでフィニッシュラインを越え、初戦優勝を飾った。



初戦は織田が独走優勝



善戦した沢田と握手を交わす

織田は昨年、一昨年と開幕戦で優勝しており、今季も優勝し、3年連続での開幕戦優勝を狙う強い思いを持っていたという。独走に入ってからも、冷静に状況の判断ができ、後続とのタイム差を聞きながら、焦らず自分のペースを刻み、落ち着いてタイム差をキープし、先頭を走り切ることができたそうだ。



織田、沢田に続き、副島達海(大阪産業大学)が3位に入った

初戦では織田が圧倒的強さを見せ、主要選手たちも今季の健在ぶりを見せてくれた。今季は全日本選手権の開催が例年より1カ月遅くなるため、コンディションの調整方法も変わってくるだろうか。引き続きここからも、主要レースを見ていこう。

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【JCXシリーズ第1戦】
【結果】茨城シクロクロス第2戦土浦ステージ
男子エリート
1位/織田聖(弱虫ペダルサイクリングチーム) 1:01:35
2位/沢田時(チームブリヂストンサイクリング)+0:42
3位/副島達海(大阪産業大学)+1:18
4位/小坂光(宇都宮ブリッツェン)+1:37
5位/中島渉(弱虫ペダルサイクリングチーム)+1:41

女子エリート
1位/渡部春雅(明治大学) 38:49.8
2位/小川咲絵(AX cyclocross team)+0:14
3位/小林あか里(弱虫ペダルサイクリングチーム)

画像:Satoshi ODA