皆さんは、「本番になると緊張で思うように結果が出ないこと」や「パフォーマンスにムラがある」などの悩みはありませんか。多くのアスリートが練習では発揮することのできるパフォーマンスが、本番では発揮できないことに悩んでいます。そこで…

 皆さんは、「本番になると緊張で思うように結果が出ないこと」や「パフォーマンスにムラがある」などの悩みはありませんか。多くのアスリートが練習では発揮することのできるパフォーマンスが、本番では発揮できないことに悩んでいます。

そこで今回は、本番力を高めたいアスリートへ向け、科学的な海外論文を用いてスポーツ心理学的な観点からピークパフォーマンスについて解説していきます。ピークパフォーマンスとその高め方を取り入れる事によって本番でのパフォーマンス向上に期待できるかもしれません。

【関連記事】【スポーツメンタル】瞑想って脳科学的に効いているの?科学的な裏付けを解説

ピークパフォーマンスとは

アスリートがここ一番という場面で「ゾーンに入った」や「動きがスローモーションに見えた」などと語る時があります。スポーツ心理学的に見ると、これは、「ピーク・パフォーマンス (Peak Performance) 」と呼ばれる状態で、自分の持っている能力を適切な場所で最大限に発揮している状態の事を指します。

スポーツにおける「ピークパフォーマンス」は、心理学的に「フロー」とも呼ばれます。「フロー」とはアメリカ・クレアモント大学の心理学者であるハイ・チクセントミハイ博士が提唱した心理状態の事で、「自分のタスクやパフォーマンスに完全に集中し、自己や時間などを忘れるほど没頭している状態」の事です。時間を忘れて何か特定の行動に没頭していた状態は誰でも一度は経験があるでしょう。

ピークパフォーマンスに達すると、アスリートは自分の持っている全ての能力を出し、究極のパフォーマンスを出すことが可能になります。よって、動きがスローモーションに見えたり、自分の頭で考えていたイメージが正確に体現化されるなど、日常の練習では得る事の出来なかった感覚を本番で発揮することができます。

ピークパフォーマンスを発揮するには

アスリートは毎回大事な場面でピークパフォーマンスを発揮したいと思うものの、ピークパフォーマンスは、プレッシャーのかかる場面での環境や、試合前に既に積み重ねられている自己効力感(やれば出来るという感覚)等のメンタル面での準備が大切です。

それでは、どのようにすればピークパフォーマンスを発揮する、もしくは出来る限りピークパフォーマンスに近い極限に没頭した状態を作り出すことが出来るのか。効果的な手法を紹介いたします。

ルーティン
ルーティンは、ピークパフォーマンスの状態へと導く助けとなります。

試合前の食事はいつもカレーを食べ、打席前に同じ動作を繰り返し行う事によって最大限の力を発揮してきたイチロー選手。ラグビー・日本代表の五郎丸選手が行うキック前のルーティン(五郎丸ポーズ)も一躍有名となりました。

ルーティンは多くのアスリートによって取り入れられているため、その効果は周知の事実ですが、実際のところ、ルーティンとして取られている行動(キック前の行動や食事の設定)に直接的な技術の向上との関連性はないものの、パフォーマンスに影響を与えられているのが興味深い点です。

なぜ本番の行動と直接関係のないルーティンが「ピークパフォーマンス」へと導くのか。ドイツ・ケルン大学が行った研究を見てみるとルーティン(儀式)とパフォーマンス向上の関連性が示唆されています。

「幸運を祈る」等のフレーズが実験タスク前の開始合図とされるグループと、特に何も言われず普通に実験タスクを行うグループを比較すると、タスクの前に特定の意味を持つ儀式(ルーティン)などが行われる場合の方が、特に何も指示されないよりもパフォーマンスが向上し、本番力向上に繋がるといった研究もあります。

この研究から分かるのは、ルーティンなどのある特定の行動を本番前に行い、準備が整う感覚を持つことによって、パフォーマンスが上がり、「ピークパフォーマンス」へ繋がる可能性があるといえそうです。

自己効力感
前述の通り、試合で最高のパフォーマンスを発揮するには、「自己効力感」と呼ばれるメンタル的な「やればできる」という感覚が重要です。

「自分には試合やこの勝負に勝つことが出来る能力を持っている」といった感覚が無く、自信のない状態では、「ピークパフォーマンス」に達することが難しいのは明白です。

先ほどのドイツ・ケルン大学での研究では、「幸運のお守りを付ける」等のルーティンでも記憶力を測る研究タスクのパフォーマンス向上と、自己効力感の上昇が示唆されています。

マインドフルネス瞑想
マインドフルネス瞑想もピークパフォーマンスを高めるのに有効といえるでしょう。

本番中や本番前、プレッシャーのかかる場面で「ピークパフォーマンス」を発揮するには、不安や緊張などのネガティブなマインドを切り離し、全集中を目の前のパフォーマンスに向ける注意コントロールが必要不可欠となってきます。

その点、呼吸などの「現在起こっていることに注意をむける」マインドフルネス瞑想で注意コントロールを鍛えることによって、本番でもプレッシャーに悩まされることなく自分のパフォーマンスに集中することが可能になります。ぜひ参考にしてみてください。

参考文献:
https://www.researchgate.net/publication/44638847_Keep_Your_Fingers_Crossed

[文:スポーツメンタルコーチ鈴木颯人のメンタルコラム]

※健康、ダイエット、運動等の方法、メソッドに関しては、あくまでも取材対象者の個人的な意見、ノウハウで、必ず効果がある事を保証するものではありません。

【関連記事】【スポーツメンタル】「賞金」がメンタルを左右する?

【関連記事】「大きな目標の前に小さな目標を立てる」女子ボクシング・並木月海流 メンタルヘルスの整え方

【関連記事】「たまたま出た結果」をスポーツメンタルコーチはどう捉えるか?

一般社団法人日本スポーツメンタルコーチ協会
代表理事 鈴木颯人

1983年、イギリス生まれの東京育ち。7歳から野球を始め、高校は強豪校にスポーツ推薦で入学するも、結果を出せず挫折。大学卒業後の社会人生活では、多忙から心と体のバランスを崩し、休職を経験。
こうした生い立ちをもとに、脳と心の仕組みを学び、勝負所で力を発揮させるメソッド、スポーツメンタルコーチングを提唱。
プロアマ・有名無名を問わず、多くの競技のスポーツ選手のパフォーマンスを劇的にアップさせている。世界チャンピオン9名、全日本チャンピオン13名、ドラフト指名4名など実績多数。
アスリート以外にも、スポーツをがんばる子どもを持つ親御さんや指導者、先生を対象にした『1人で頑張る方を支えるオンラインコミュニティ・Space』を主催、運営。
『弱いメンタルに劇的に効くアスリートの言葉』『モチベーションを劇的に引き出す究極のメンタルコーチ術』など著書8冊累計10万部。