久保建英(レアル・ソシエダ、21歳)が、着実な成長を見せている。 カタールW杯での久保は、左サイドで消耗品のように使わ…
久保建英(レアル・ソシエダ、21歳)が、着実な成長を見せている。
カタールW杯での久保は、左サイドで消耗品のように使われていた。ディフェンスで相手サイドバックに食らいつき、必死にプレスバックし、リトリートで持ち場を守った。しかし攻撃面では、ほとんどよさを出せていない。
「前半で交代させられないような結果を出したいです」
スペイン戦後、久保は無念さを押し殺すように語っていた。
レアル・ソシエダでの戦いから、森保ジャパンは「久保の使い方」を学ぶべきかもしれない。
昨年最後の試合となったオサスナ戦で、久保は攻撃の旗手になっていた。ポジションにこだわらず、変幻自在。ボールプレーヤーとして躍動している。
「レアル・ソシエダの三大テノール(かつて世界三大テノール歌手のルチアーノ・パヴァロッティ、プラシド・ドミンゴ、ホセ・カレーラスの共演ですばらしい芸術作品が作られたことから、トリオでのハーモニーの比喩に使われるようになった)」
スペイン大手スポーツ紙『マルカ』は、そのうちのひとり(他はダビド・シルバとこの試合で得点を決めたブライス・メンデス)に名を挙げるほどだった。
久保の傑出したサッカーセンスが湧き出るのは、優れたボールプレーヤーたちとコンビネーションを使った状況にあるだろう。人がスペースに湧き出て、そこにボールが流され、ハイスピードのプレーが展開される。そこで卓越した技術やビジョンを生かせる。
いくらでもディフェンスもできるのだろう。献身性も目立つようになった。その結果、プレスのタイミングや強度も上がってきた。

アルメリア戦で2得点に絡む活躍を見せた久保建英(レアル・ソシエダ)
今年最初の試合となった1月8日のアルメリア戦でも、開始直後からプレスの先鋒になっていた。その鋭さとしつこさが相手にストレスを与えていたのだろう。久保は敵陣でGKのパスミスを拾い、この試合でファーストシュートを放っている。惜しくもわずかに右へそれたが、守りを堅く固めた相手に対し、粘り強い戦いを見せることができていた。
その成果は攻撃で発揮された。
【ポテンシャルの高さを引き出されている】
後半開始直後、右サイドに素早く流れると、すでに消耗を見せていたアルメリアの先手を取っていた。そしてダビド・シルバとワンツーする形で好機を作り出す。右からややマイナス方向に折り返したパスは、阿吽の呼吸でスペースに出したもので、そこにダビド・シルバが走り込み、もつれあう形になって、シュートが決まった(VAR判定でゴールが認められている)。
その5分後にも、久保は右サイドで幅を作ると、食いついてきた相手選手を周りに集め(瞬間的に3人をひきつけていた)、ミケル・メリノにパス。自由にプレーすることができたメリノは、がら空きになっていたディフェンスラインの裏に出した。これを受けたアレクサンダー・セルロートが持ち上がって、切り返しから左足で鮮やかに叩き込んだ。
攻守一体となったサッカーのなか、やるべきことが明確だからこそ、選手も成長を遂げている。ボールプレーヤーたちがコンビネーションを深めているだけに、攻撃に再現性もある。その自信があるから、安定して結果を出せる、理想的な状況にあるのだ。
レアル・ソシエダを率いるイマノル・アルグアシル監督は、今や欧州で指折りの指揮官と言えるだろう。
アルグアシルはソシエダの下部組織で指導を続けてきたが、一貫した戦い方を継続することで、トップチームでも強固な戦いができている。ボールを持てる時間を増やすことで、仕掛ける回数を増やし、失敗することも含めて精度は必然的に高まっている。さらに、土台が能動的なサッカーにあることで、常に自分たち次第の戦いができる。攻撃のためのプレス守備の練度も高く、極めて合理的と言える。
久保はそのチームで、ポテンシャルの高さを引き出されている。今シーズンは、数字にはつながっていなくても、スペイン挑戦以来、最も多くの得点に関与しているのは間違いない。守備面でも綻びになっていない。2トップの一角のようなポジションだけでなく、左右のアタッカー、トップ下、右ハーフなど、チームの中で自らのテクニックを生かせている。
「休養を与えた」
アルメリア戦の後半26分の交代は、『マルカ』紙もそう労ったように"お役御免"だった。そこまで頼りになる存在になっているのだ。
ただし、少しでも気を抜けばポジションを失うことになる。ケガから戻ったミケル・オヤルサバルは本来、エース的存在だし、後半途中から出場したパブロ・マリン、ロベール・ナバーロは期待の新星と言える。そんな競争環境にいることも、久保には大事なことかもしれない。
久保は試合を重ねるたび、進化を遂げていく。チームは現在、リーガ・エスパニョーラで3位につけており、ヨーロッパリーグ、スペイン国王杯もベスト16進出を決めている。戦う場は数多くある。世界の猛者たちを相手に、あとはゴールが決まってくれば......。レアル・ソシエダの久保の前途は明るい。