(C)CoCoKARAnext 東京五輪で金メダルを獲得した2人のアスリートが、同年に現役引退を発表した。ソフトボールの山田恵里とボクシングの入江聖奈。1984年生まれと2000年生まれという歳の差はあれど、「同年に引退した金メダリ…

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 東京五輪で金メダルを獲得した2人のアスリートが、同年に現役引退を発表した。ソフトボールの山田恵里とボクシングの入江聖奈。1984年生まれと2000年生まれという歳の差はあれど、「同年に引退した金メダリスト」という共通項を持ったトップアスリートの思考にはシンクロする部分も多かった。3回に渡ってお届けする豪華対談の第2回は、オリンピックという大舞台での「プレッシャー」について語ってもらった。

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   ◆   ◆   ◆

ーーソフトボールとボクシング、それぞれの競技で一番緊張する場面について教えてください。

山田 守備だったら、点を取られたら負けちゃう場面は気持ちが入りますね。でも、ボクシングは常に集中するでしょう? 勝負所が常にあるから大変だと思う。

入江 やっぱり流れはあるので、「ちょっと今は相手の流れだな、やばいなあ」と思ったりしますよ。それに、「自分の流れになってる」とか感じるものなので、そこでいかにポイントを積み重ねられるかが大事ですね。

山田 ゾーンに入る感覚ですか?

入江 それが私、ゾーンに入った経験が人生で1回しかなくて、しかも残念なことに練習で来ちゃったんです。もうどんなパンチが来るか分かりました。でも、試合ではないんで、本当にもったいなかったですね。恵里さんは?

山田 すごいピッチャーと対戦する時の方が入りますね。何が来ても打てる感覚がありました。

入江 団体競技だといろいろとプレッシャーもすごそうですね。何で緊張しないんですか?ボクシングは自分の失敗は自分だけで収まるんです。団体スポーツはより緊張するのかなと思うんですけど?

山田 ミスしたらだいぶ重いですね。

入江 自分のせいで負けたらどうしよう、とか考えないですか?

山田 自分の状態が良くないと、あんまり考えないですね。でも、東京オリンピックは緊張しました。プレッシャーが大きすぎて。メダルがかかった試合でサヨナラヒットを打てたんですが、それまではもう絶望的にパフォーマンスが悪くて……。エラーはするし、打てないし。

ーープレッシャーで潰されそうなところを打破したのが、メダルがかかった試合というのはすごいですね。

山田 試合の前の夜にイチローさんの映像を見て気持ちが切り替わったんです。それまでは、「私のオリンピックは終わったな」と思っていたんですが、イチローさんがWBCの予選でずっと不調で、最後に決勝で打ったのを思い出して、その映像を見て「自分も明日から大丈夫だ」みたいに開き直れました。やっぱり勝手に思い込んで気持ちがつらくなっていただけで、吹っ切れてからは楽しめました。

入江 かっこいいー!めちゃめちゃ主人公ですね。

山田 そこまで苦労してきた分が、その1本で報われた感じはしましたね。

ーー山田さんは2008年の北京オリンピックで金メダルを取り、その後にソフトボールがオリンピック種目から外れて、また種目に復活した2021年の東京五輪でキャプテンで金メダルを獲るドラマチックなキャリアを送りました。

山田 東京五輪はすごくプレッシャーがかかりました。自国開催で金メダルを獲って当然という雰囲気があった。それで打てなかったから、余計にプレッシャーを感じてしまったというか。

ーー大会が始まるまでは「経験があるから大丈夫」だろうと思っていたけど、逆にその経験が「怖さにつながった」と言っていましたが、入江さんはそうした経験がありますか?

入江 経験が怖さになること……代表の中でも結構若手だったので感じたことがないかもしれません。でも、メダルを獲った人と獲れなかった人の報道陣の差はなんか辛く感じるところがあったので、絶対それにはなりたくないなと、そんな感じでした。

山田 緊張というか、プレッシャーがすごい。「オリンピックの魔物」って言うじゃないですか。あれって、なんか自分で作り上げてるだけで、誰かにプレッシャーを与えられたとかではなく、自分で勝手に作ってしまうものなんだなと思いましたね。

入江 やっぱりオリンピックは違いますよね。他の大会だとなんか楽しいですけど、オリンピックは勝つまでが怖かった。1回しか味わってなくてこんなに感じているので、何回も経験している恵里さんは余計に重たく感じたんじゃないかなと思います。

山田 最初のオリンピックの時はあまりプレッシャーは感じませんでしたが、37歳で東京大会を迎えた時に「先輩はこういう重圧を背負ってくれていたんだな」と、重みを感じましたね。

入江 チームスポーツの醍醐味ですね。

山田 私は個人競技をやったことがないんですが、どんな感じですか?

入江 やっぱり個人競技とはいえ、サポートしてくれてる人はいます。東京オリンピックの前にはずっとついてくれる人がいて、3週間ぐらい私たちのために、ずっと一緒にトレーニングしてくれました。ただ、自分が目立ちたいとか、自分が勝ちたいとかいうのが格闘技。勝ってようやく、周りの人への恩返しとか、そういうものがついてくる感じです。

山田 ちょっとエゴが強めなのかな?

入江 とは思います。団体スポーツは、クセが強い人はそんなに多くなさそうですよね?

山田 クセはあるけど、みんなちゃんと協調性を持ってますね。

入江 すごい人たちの集まりで、目的とか自分の役割も分かってるから協調性がありそうですよね。私の場合は、ソフトボールみたいに「絶対金メダル」と期待されていたわけではないし、むしろ期待されてないのが分かっていたので周りからのプレッシャーはなかったんですけど、自分でプレッシャーかけてました。メダルを獲らないと、これからの人生が変わっちゃうみたいな。自分で自分のクビを絞めてた感じはします。

ーープレッシャーによって心や体に異変は感じました?

入江 計量の後にご飯がやっと食べれるのに、全然食べれなくて。いつもめっちゃ食べるのに、なんか全然咀嚼できなくて、3時間くらいかけて食べました。けど、メダルが確定して乗り越えた時は、とにかく安心して、それからの2試合はもう気持ちが楽でした。

山田 いや、本当にそう。メダルを確定させるまでが厳しい。期待も大きいし、それに応えなきゃいけないっていうね。私も決勝はもう伸び伸びやれましたから。

入江 本当にそう。決勝は全然疲れませんでした。相当アドレナリンが出てましたね。ゾーンとかではないんだけど、ボクサーズハイみたいになっちゃったかもしれないです。

山田 それだけメンタルで変わりますよね。

〈第3回に続く〉

[文/構成:ココカラネクスト編集部]

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