元サッカー日本代表 岩本輝雄インタビュー 前編後編「岩本輝雄が現地で見たカタールW杯。試合と試合以外」>>ベルマーレ平塚…
元サッカー日本代表 岩本輝雄インタビュー 前編
後編「岩本輝雄が現地で見たカタールW杯。試合と試合以外」>>
ベルマーレ平塚やベガルタ仙台などで活躍した稀代のレフティー、岩本輝雄氏をインタビュー。左足の強烈かつ多彩なキックを武器に活躍した本人に、歴代Jリーガーのフリーキッカートップ10を選んでもらった。
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現役時代にフリーキッカーとして活躍した岩本輝雄氏が、歴代Jリーガーのトップ10を選んだ
【壁を越えて枠を捉える絶品キック】
10位 マテウス・カストロ(名古屋グランパス)
マテウスのFKは生で見たことがありますが、あのパンチ力はちょっと規格外ですよね。昨年の川崎フロンターレ戦で、右サイドのライン際から直接決めたFKには度肝を抜かれました。インステップではなくて、インサイドで押し気味に蹴っているのに、あれだけ強いボールが蹴られるのは信じられないですよ。
インサイドで蹴ることで、ボールをフカさずにゴール枠に飛ばすことができるんですが、それでは普通だとパワーが出なくて強いボールにならない。でもマテウスの場合は、インサイドでインステップキックのようなパワーが出せるから成立しているんですよね。
パワーはもちろんのこと、それをボールに伝える技術も高いわけで、両方を兼ね備えてできる選手はほんのひと握りだと思います。
9位 久野智昭(元川崎フロンターレ)
久野をランキングに挙げる人は、ほかにいないでしょう。今は川崎のユースのコーチをやっているんですよ。
彼は1999年ですね。J2時代の川崎のキッカーだったんですが、ペナルティーエリア付近からのキックがとにかくうまかった。彼が3回くらい直接決めているのを見たけど、全部GKが一歩も動けなかったですからね。
ボールの真横に立って、そこからあんまり力を入れるわけではないけど、ボールに体重を乗せるがうまいし、ボールの軌道もすごくきれい。壁を越えて枠を捉えるのが難しいかなと思うボールでも、そこからストンと落としてゴールに入れちゃうキックは絶品でした。
川崎なら中村憲剛じゃないのかって、そう思う人もいるかもしれないけど、FKは久野のほうがうまかったですね。
8位 ウェズレイ(元名古屋グランパスほか)
ウェズレイとは名古屋でプレーしたことがあるんですけど、もう、すべてが規格外。風呂に一緒に入った時に彼のうしろ姿を見て、その体のすごさに最初はマウンテンゴリラがいるのかと思ってしまいました(笑)。
あれだけの筋肉なのに「筋トレなんて全然やってない」って言うんだから、敵わないですよね。FKの練習を一緒にやらせてもらいましたが、もう音が違う。「ボン!」って爆発するような音が聞こえたかと思ったら、もうゴールにボールが入っているんですよ。
まるでひとりだけバレーボールを蹴っているかのようで、ボールが軽く思えました。普通の選手であればGKがギリギリで触れているようなコースでも、彼のボールには触れないんですよ。いろんな人とFKの練習をしましたけど、ウェズレイにだけは絶対に勝てないなと思いましたね。
【駆け引きと正確性】
7位 阿部勇樹(元ジェフユナイテッド千葉、浦和レッズほか)
阿部ちゃんはジェフではキッカーを務めることが多かったですけど、浦和に行ってからはあまり蹴らなくなってしまいましたよね。FKの質はものすごく高くて、蹴る機会が多ければ、FKでのゴール数はもっと増えていたと思います。
彼のキックは腰が入っていて、ライナー性の鋭いボールが飛んでいくのが特徴でした。壁の上から真っすぐ落とすボールだけじゃなくて、壁の外を巻いて入れるボールも蹴れた。あれだけの強いボールは、体幹や内転筋、お尻の筋肉が強くなければ蹴れません。
キックが多彩なので、短い距離も長い距離もいけるし、直接狙うだけじゃなくて、サイドから合わせるのもうまかったですよね。もっとキッカーとしての阿部ちゃんが見てみたかったです。
6位 遠藤保仁(ジュビロ磐田)
遠藤選手は南アフリカW杯で決めたFKのように、力強くというより、力を抜いてうまくコースを突いていくキッカーですよね。力が抜けていても軌道がいいし、GKのこともよく見ているので入っちゃいます。
彼のFKを見ていると、蹴る直前までGKを見て駆け引きしているのがよくわかります。僕もよく試合前にビデオで相手の壁が飛ぶのか、GKが動くのか、動かないのかをチェックしていました。そうすると、壁の作り方とか、GKの立ち位置で決まるコースがわかったりするんです。僕は試合中も、よく相手に「壁飛ぶの?」「GKって動くの?」とか冗談で聞いてましたね(笑)。
彼のような一流のキッカーは、最終的には壁とかGKとか関係なく、自分のキックさえ正確に蹴ることができれば入っちゃうんですよ。この技術は衰えないので、まだまだ彼のFKは楽しみですね。
5位 エドゥー・マランゴン(元横浜フリューゲルスほか)
エドゥーと言えば40mの長距離砲ですよね。1994年のジュビロ磐田戦であのとんでもないFKを決めて、次の試合がベルマーレ(平塚、現湘南ベルマーレ)だったんですよ。そしたらまた同じような位置からストレート系のすごいのを決められて「こいつはすごすぎる!」と思いましたよ(笑)。
エドゥーは体が細いのにパンチ力があるんですよね。彼のイメージをよく"釣り竿"って言っていました。細くてしなやか。全身をしならせてバネのように使い、生まれた全部のパワーをボールに伝える。それがうまいから、あれだけのFKを蹴ることができたんだと思います。
あれはお金が取れますよね。当時はJリーグもまだスタートしたばかり。彼も「ちょっと日本のファンに見せてやるか」くらいには思っていたかもしれないですね。
【自分が持っていないものを持っている】
4位 三浦淳寛(元横浜フリューゲルス、東京ヴェルディほか)
彼の武器と言えばやっぱり無回転FKですよね。僕の名古屋時代に2004年の1stステージの東京ヴェルディ戦で、楢崎正剛がFKで2発決められたのをよく覚えています。こういうランキングだと、自分が持っていないものを持っている選手を選びがちですけど、彼の無回転FKはまさにそうですね。
体型的にも軸がしっかりとしていてパワーもあって、ボールを押し出すようなキックがうまかったと思います。無回転ボールは、特性として何度も枠に行くわけではないけど、そのうちの何回かが枠にいけば入っちゃうキックですよね。
僕も結構練習したんですけど、なかなかうまくいかなかった。無回転を操れるというのは、本当に技術が高かったんだと思います。
3位 福森晃斗(北海道コンサドーレ札幌)
コンサドーレには練習をよく見に行くので、彼とはいろんな話をしますね。お互いプロレスが好きなので、サッカーよりもその話が一番盛り上がるんですけどね(笑)。
彼の左足のキックは本当に武器だと思います。今季はなかなか入らなかったけど、第29節の磐田戦で鮮やかなFKを決めていました。あれもいいゴールだったけど、彼のFKで一番印象に残っているのは、やっぱり2019年のルヴァンカップ決勝の延長戦で決めたゴールですね。
あのシチュエーションで決めたということが、まずすごかった。決勝の超満員のなかで、しかも相手は古巣の川崎。その大舞台で、ファーにあれだけのキックをぶち込めるのは本当に見事だと思いますね。
もっとFKの機会があれば、彼はもっと決める力があると思います。駒野友一選手のDF登録選手のFK得点記録(10得点)を抜きたいと本人は言っていましたけど、それも機会さえあれば抜けると思います。
2位 中村俊輔(元横浜F・マリノス、横浜FCほか)
彼がデビューした1997年に三ツ沢球技場で試合をしたんですが、あれは今でも覚えていますね。雨が降っていた5月3日。試合はベルマーレが4-2で勝つんだけど、後半から彼が出てきたんですよ。
それで試合終了間際にペナルティーエリアの5mくらいうしろで相手のFK。そこから壁の上ギリギリを狙ったライナー性のボールをニアに突き刺して、GK小島伸幸さんも防げなかった。あれが彼のプロ初ゴールだったんですよね。
彼の桐光学園の頃から見ていて、高校サッカー選手権でもFKを蹴っていて、「いいキックを持ってるな」と思っていました。そうしたら実際にやられてしまった(笑)。
彼はとにかくキックが多彩。速く曲げるボールもあるし、距離が近ければフワっとしたコースを狙うだけのボールもいける。僕は"羽田空港"みたいだって言ってるんですよ。全国から羽田に飛行機が飛んでくるように、彼もいろんなキックでどこからでも狙えるので。
横浜FM時代ですね。みなとみらいの練習場で、ひとりでFK練習しているところを見たことがあります。あれだけやっていたらうまいはずだと思いましたね。僕も結構練習したけど、それよりもすごかった。彼が1位でもいいくらいだと思います。
【世界トップクラスの正確性】
1位 ジーコ(元鹿島アントラーズほか)
ジーコは住友金属時代から対戦したことがあって、その時にもFKを決められたし、もちろん鹿島時代にも決められましたよ。あの頃はGKが小島さんでしたけど、ジーコのキックには一歩も動けなかった。独特のインサイドキックで、近い距離でも枠に入れられる技術はとにかくすごかった。
僕が18歳の高校生の頃、フジタ(湘南ベルマーレの前身)の北海道合宿に初めて参加した時、住友金属も一緒で、ジーコが先にFKの練習をしていたんですよ。彼のことはフラメンゴ時代のビデオを見ていたし、1982年のスペインW杯も見ていたので知っていました。
「あれが、あのジーコか」と見ていたらFKが全部入るんですよね。それほど力を入れずに全部きれいに枠を捉えて、ものすごく正確でした。
ジーコのキックはインサイドキックなんですけど、それほど思いきり蹴っていなくても、速くて重い。それとフカすことがないし、それでいて壁に当てているイメージもない。
1993年のJリーグ開幕戦で決めたFKもすごかったですよね。あの位置で、壁がジャンプしている上からポストの内側を叩くコースを狙っていた。あんなのを蹴られてしまっては、GKはノーチャンスですよ。ジーコのキックの正確性は、世界の歴代でもトップクラスだと思いますね。
<岩本輝雄が「悩んだ!」その他の候補>
ネナド・マスロバル(元ジェフユナイテッド市原ほか)
クラウジオ(元ベルマーレ平塚ほか)
澤登正朗(元清水エスパルス)
小笠原満男(元鹿島アントラーズほか)
岩本輝雄(元ベルマーレ平塚、ベガルタ仙台ほか)
岩本輝雄
いわもと・てるお/1972年5月2日生まれ。神奈川県横浜市出身。横浜商大高校から1991年にフジタ(湘南ベルマーレの前身)へ入り、ベルマーレ平塚で1994年からJリーグでプレー。同年に日本代表にも選出された。左足の強烈かつ多彩なキックを武器に、以降、京都パープルサンガ(現京都サンガF.C)、川崎フロンターレ、ヴェルディ川崎(現東京ヴェルディ)、ベガルタ仙台、名古屋グランパスでプレー。2006年にオークランドシティ(ニュージーランド)でFIFAクラブワールドカップをプレーし引退。名古屋退団後からタレント活動を行ない、現在はサッカースクールやコメンテーターも務めている。