12月31日大晦日、さいたまスーパーアリーナで開催された格闘技「RIZIN.40」。2015年の旗揚げ以来、「RIZIN」の大晦日大会は7年連続でフジテレビで放送されていたが、今大会でそれが途絶えた。榊原信行CEOは昨年10月、自身のSN…

 12月31日大晦日、さいたまスーパーアリーナで開催された格闘技「RIZIN.40」。2015年の旗揚げ以来、「RIZIN」の大晦日大会は7年連続でフジテレビで放送されていたが、今大会でそれが途絶えた。榊原信行CEOは昨年10月、自身のSNSで「地上波放送の制約から解放された」と発信したが、その言葉どおりに話題先行のカードがなくなって骨太なカードがズラリと並んだ。



堀口恭司(右)をはじめ、対抗戦で5戦全勝だったBellatorの選手たち

 その目玉となったのが、「RIZIN」と「Bellator(ベラトール)」による5対5の全面対抗戦だ。世界最高峰の総合格闘技団体「UFC」に次ぐメジャー団体「Bellator」から、現役王者や元王者らトップファイターが来日。日本の格闘技の現在地を示すべく臨んだ「Bellator」との対抗戦は、「RIZIN」の5戦全敗に終わった。

◆「RIZIN vs. Bellator全面対抗戦」試合結果

先鋒戦 ●武田光司vsガジ・ラバダノフ○ 3R 判定 (0-3)

次鋒戦 ●キム・スーチョルvsフアン・アーチュレッタ○ 3R 判定 (1-2)

中堅戦 ●扇久保博正vs堀口恭司○ 3R 判定 (0-3)

副将戦 ●クレベル・コイケvsパトリシオ・ピットブル○ 3R 判定 (0-3)

大将戦 ●ホベルト・サトシ・ソウザvs AJ・マッキー○ 3R 判定(0-3)

 結果だけ見ればワンサイドだが、内容はそうではない。試合終了のゴングを聞くまで勝敗がわからない競った試合が多く、特に次鋒戦のキム・スーチョル vsフアン・アーチュレッタの判定はどちらに転んでもおかしくなかった。

 では、競りながら勝ちきれなかった差はどこにあるのか、格闘技解説者・大沢ケンジ氏に見解を聞いた。

 大沢氏はまず、「世界のトップ選手は、打撃、寝技のどちらでも勝負ができ、その上で得意な形を持っています。一方でRIZINの選手は、今回の対抗戦でも苦手な局面になる時間があり、そこでポイントをとられて競り負けた印象でした。日本では、打撃か寝技のどちらかが秀でていると勝てることが多いですが、世界のトップ選手と勝負するにはMMAのスキルをすべて向上させていかないと厳しいと思います」と指摘した。

【日本と世界の格闘技の差】

 RIZINの副将クレベル・コイケと大将ホベルト・サトシ・ソウザは、ともに静岡にあるボンサイ柔術所属で、これまでRIZINのリングでは"捕まえたら終わり"と思えるほど、驚異的な決定力で一本勝ちを収めてきた。しかし今回は、それぞれの対戦相手であるパトリシオ・ピットブル、AJ・マッキーを捕まえきれなかった。

 大沢氏はBellatorの副将で、同団体のパウンド・フォー・パウンド(PFP)1位にランキングされているピットブルのオールラウンダーぶりを評価しながら、試合について次のように分析した。

「ピットブルは、クレベルの寝技を警戒しつつ打撃を効果的に当てていました。クレベルがロープを背負っても決して深追いしなかった。クレベルからすれば、ピットブルが前に出てきてくれたほうが捕まえられる可能性はあったんですけどね。クレベルは独特の打撃で距離を潰して組みつきたかったところですが、両者の打撃力の差は大きかったです」

 さらにサトシvs AJについては、「AJ選手の対応力、ディフェンス能力が高かった。サトシの三角締めやリアネイキッドチョークも冷静にしのいでいました。打撃はAJが上ですから、こちらもMMAファイターしてのトータル力が上回ったということでしょう」と振り返った。それでもRIZINの大将サトシについては、「やはり寝技が世界トップクラスなのは間違いありません。今の戦い方で世界のトップ選手と十分に戦えることも証明されたと思います」と評した。

 RIZINの選手たちがMMAファイターとして、トータルでレベルアップするにはどうすればいいのか。大沢氏は自身の見解をこう述べる。

「打撃や組み......細かく言うと、ボクシング、キックボクシング、レスリング、柔術といろいろありますが、その選手が足りない部分を練習でスキルアップした上で、MMAの戦い方に落とし込むのがいいと思います。世界のトップと戦うとなると全要素のレベルアップが必要ですから、壁にぶつかってからではなく、できるだけ早くから取り組めればいいのかなと思います」

 外国人ファイターと戦うということも考えて、海外に練習拠点を移すという選択肢もある。しかし、その点について大沢氏は、「もちろん海外に拠点を移せば、強い選手も多いですし、成長速度は上がるかもしれません。ただ、必ずしも海外に拠点を移す必要があるとは思っていません。ときどき海外に行って、世界のトップ選手との差を練習のなかで感じ取ることができれば問題ないと思います」と語った。

 大会後、榊原CEOは、「メジャーリーグにはそんなに簡単には勝てないと思いますから、今日からリベンジロードを精進して前に進んでいきたい」と、Bellatorへのリベンジを口にした。

 今回の対抗戦はRIZINのルール、リングで行なわれたため、次回がある場合はBellatorのルール、ケージで行なわれることになりそうだ。その際はどんな選手が選ばれ、どんな戦いを繰り広げるのか、そして世界トップとの差が埋まったのかどうかに注目したい。

【プロフィール】
大沢ケンジ(おおさわ・けんじ)

1976年11月4日生まれ、東京都出身。2002年に第9回全日本アマチュア修斗選手権のフェザー級で優勝。翌年にプロデビューし、修斗やアメリカの格闘技団体WEC、DREAMのリングなどで活躍した。2014年に現役を引退した後は解説者や指導者など幅広く活動。現在は和術慧舟會HEARTSの代表を務めている。