2022年を振り返ればば、戦争が始まったり、新型コロナウイルスが猛威をふるったり、円安や値上げの波もあったりと、なかなか厳しい年だった。その中でも、自転車のイベントは、工夫を重ね、復活を遂げてきている。聞けば、どのイベントもビギナーの「初参…

2022年を振り返ればば、戦争が始まったり、新型コロナウイルスが猛威をふるったり、円安や値上げの波もあったりと、なかなか厳しい年だった。
その中でも、自転車のイベントは、工夫を重ね、復活を遂げてきている。聞けば、どのイベントもビギナーの「初参加」が急増しているとのこと。自転車をホビーとして楽しむ層が、急激に拡大しているのだ。そんな事情を受け、イベントの姿勢も変わってきている。ここで、いくつか2022年のサイクルイベントを振り返ってみたい。

今回ご紹介するのは、9月19日に開催された「走ってみっぺ南会津2022」だ。新型コロナウイルスが猛威をふるい始めた2020年には、他のイベントが軒並み中止を決める中で、独自のガイドラインを作り、参加者の協力を得て、開催に踏み切った。この時は、ひとりの感染者も出さず、コロナ禍でもサイクリングイベントなら開催できることを示す形になった。昨年は、一気に押し寄せる波に負け、苦渋の中止の決断を下したが、今年はアルコールも提供される「前夜祭」を含む、フルスペックで開催した。

「走ってみっぺ南会津」とは、茅葺屋根の伝統集落などもある田園風景が美しい南会津エリアを、30~100キロの3カテゴリーに分かれて走り、地域をグルメとともに楽しむ人気のサイクリングイベントだ。ネーミングにあるように、地域色が強く打ち出されており、地元の歓迎が感じられる、あたたかく、どこかユルい雰囲気もあいまって、リピーター率も極めて高い。地域のグルメや地酒などが惜しげもなく振る舞われる前夜祭の人気が高く、前夜からイベントに参加する層が大勢を占めるという珍しいイベントでもある。



会津高原たかつえスキー場「スペーシア」で開催された前夜祭

今年は、その前夜祭が開催されるというところで、いい意味で、「みっぺファン」の予想を裏切ってのフル開催となり、南会津には、前夜から期待に胸を膨らませた参加者が続々と集まってきた。



会津の名酒「花泉」が樽で提供される



風情ある枡(ます)でいただく地酒

前夜祭会場となったのは、会津高原たかつえスキー場のスキーセンター「スペーシア」。天井も高く、ゆったりとしたスペースに、余裕を持って座席が配置されており、参加者はリラックスしてパーティーを楽しむことができた。この日も、3年ぶりの前夜祭を祝うかのように、地元の食材を生かしたメニューがずらりと並んだ。この前夜祭がすごいのは、フライドポテトや唐揚げなどの、いわゆる「パーティーメニュー」ではなく、川魚や肉、新鮮な野菜など、地元の上質の食材を生かした原価率の高そうな郷土料理が並ぶ点だ。しかも、どれも味がよく、しっかり調理されていることを感じる品々ばかり。参加者は満面の笑顔で、南会津の歓待をありがたく、おいしくいただいたのだった。



心尽くしの郷土料理が並んだ



唐揚げは唐揚げでも「岩魚」。黒酢あんがマッチし、絶品だった

翌朝はいよいよライド本番だ。このイベントはゲストライダーが豪華で、栃木のサイクルロードレースチーム、宇都宮ブリッツェン、那須ブラーゼンの選手が多く参加するに加え、ブリッツェンの女性ユニット「ブリッツェンラヴァーズ」、ラジオDJなど多くのゲストが大会を盛り上げたり、安全走行のサポートをしたりするのも名物のひとつ。今年もMC、ゲストの数は20名を超えた。



スタート前の記念撮影。期待で胸がいっぱいだ!



まずは栃木2チームのゲストライダーがスタートラインに並ぶ

スタート地点になる「会津高原アストリアロッジ」に集まった参加者はグループを作り、100キロコースから順次スタートしていく。高原のスキー場から出発するため、まず町まで3キロのダウンヒルが待っている。グループスタートのほぼ全てにゲストライダーが入り、先頭を走り、集団のペースを作って安全に下れるよう誘導するのが定例になっている。



各グループの先頭は、ゲストライダーが務め、安全なペースで先導する

同時に、ここで忘れてはいけないのは、ライドの終盤は、この部分を登って来なければゴールできないということ。これがこのイベントの唯一のハードルだと言われていた。それが今年、満を辞して、最高の「方策」が取られたのだ。この「方策」については、追ってご紹介することにしよう。



舘岩川に沿って気持ちよく走る

数十人のグループを作った参加者は、冒頭の下りを終えると、舘岩川の流れとともに走る国道へ。国道と言っても、交通量はさほど多くなく、道幅も広いため、とても走りやすい。広がる蕎麦畑や遠方の山々を眺めながら、一行は気持ちよくバイクを走らせる。
エイドが多いこともこのイベントの特徴。ほどなく、ファーストエイドの「舘岩広域観光案内所」につき、クッキーやスポーツドリンクをいただいた。



ファーストエイドでクッキーをいただく。お土産用で非常に上質

※美しい景観の中を走る。そして、ついに名物のマトン丼!次ページ→

バイクを走らせていくと、茅葺屋根の家々が軒を連ねる「前沢曲屋集落」が見えてくる。国の重要伝統的建造物群保存地区に選定されており、20棟もの伝統的家屋が並んでいる。もちろん参加者は自由に立ち寄ることができる。



前沢曲屋集落の前を抜ける(復路にて撮影)

ともに走る館岩川と田園風景との美しい景観を楽しみながら走る。豪雪地帯であることをうかがわせるスノーシェイドなども、関東の人間には珍しく、飽きることがない。



スノーシェイドの中をゆく。並ぶ格子の横を抜け、柱が遮り、チカチカと光の濃淡を感じられるのは、やはり新鮮な体験だ



橋を渡る参加者。このコースは山間にありながら、水辺の清涼な景色を随所で楽しめる

この日のルートはT字型になっており、T字路の突き当たりにある2つ目のエイドで、再度休憩。ここは舘岩川と伊南川の合流地点なのだという。「じゅうねん味噌」を塗ったお餅や、南郷トマトときゅうり。このトマトが絶品で、あまりに美味しそうに食べるものだから、やさしいエイドの方が勧めてくださり、何回もお代わりしてしまった。この新鮮なトマトは、わざわざ来て食べる価値がある!



甘めのじゅうねん味噌が塗られたやわらかいお餅。何個でもいけてしまう…



歯応えがよく、しっかりとトマトの味がしてジューシー。あまりにもおいしすぎた南郷トマト



爽快だったシャキシャキのきゅうり!年齢を問わず大人気だった

30キロのショートコースの参加者はここで折り返し。あっという間だが、それでも十分満足できるだろう。



川に沿って進む

60、100キロの参加者はT字型の左側パートへ。伊南川沿いを南下する。完全な平坦ではなく、わずかに上っているようだったが、スポーツバイクであれば、気持ちよく走れる程度のゆるい勾配だ。山と川との美しい光景を楽しみながら行こう。

次のエイドは、高畑スキー場! このイベントを象徴すると言えるメインのエイドであり、これを食べるために毎年足を運んでいる参加者も少なくない名物エイドだ。
エイドに近づくと、香ばしい香りが漂ってくる。そう、ここは焼肉エイド、しかもちょっと珍しいマトン丼が提供されるのだ。毎年、地元の男性たちがワイルドにマトンをあぶり、ちょっと辛めのタレとともに、あつあつのマトンを提供してくれる。その肉をあぶるさまも、お祭りのようでカッコよく、たとえ脚力に自信がなくても、マトンエイドまでは頑張ろうという参加者も多いのだ。



ついにマトンエイドに到着だ!



マトンは大人気。宇都宮ブリッツェンの選手も、レース会場とは違い、リラックスした表情で味わっていた

次々やってくる参加者が、大盛りのマトン丼を受け取り、自然に囲まれたオープンエアーのエイドで、笑顔で頬張る。これこれ、こうでなくちゃ! 今年も中止されたイベントは少なくなく、特に飲食を伴うものは制限も大きかった。久しぶりに他の参加者たちの笑顔を見ながら、一緒に美味しいものを頬張って、幸せを実感できるひとときだった。

※人気の蕎麦エイドを経て、いよいよゴールへ!次ページ→

少々ふくれた気がするお腹を気にしながら、一行は屏風岩へ。ダイナミックな岩壁が並び、澄んだ水がその間を流れる雄大なスポットで、シューズとソックスとを脱いで、子供のころに戻ったかのようにはしゃぐ参加者も多かった。



壮大な屏風岩



この環境、このシチュエーション、ついつい裸足になってしまう



ウェアだもん、濡れたってへっちゃら! 結局、裸足で遊ぶ

ここからは折り返し。あのトマトのエイドまで戻り、60キロコースの参加者は、スタート会場に向け、戻っていく。
エイドのプチシュークリームを食後のデザートとして楽しみ、100キロの参加者は、そのまま20キロほど直進、100キロの参加者は、T字型の右側、北のパートへ向かう。こちらには、「南郷スキー場」エイドが設定されている。
個人的には、エイド近くの道の駅の「トマトソフト」が大のお気に入り!余裕があったら、足を伸ばしたい。



今度はゴールに向かい、川に沿って走る

ここからは、一路フィニッシュへ。来た道を戻るのだが、行きと帰りとでは、景色の見え方も変わってくるから不思議だ。疲労がつもり、わずかな上りでもしっかり感じられて「行きにこんな下り(帰りは上りになる)あったっけ?」と首を傾げてしまうこともあった。
最後のエイドは、これも人気の蕎麦エイド! 山菜の乗った冷たい蕎麦が、疲れを癒してくれる。地面にぺたりと座り込んで食べている方も多いが、皆明るい笑顔であることはスタートから変わらない。



コシのよい蕎麦。このタイミングで出るこの蕎麦のすべてがちょうどよく、心地よい



蕎麦を味わう参加者

例年は、この辺りで、最後の登坂を思い、少し不安な表情を浮かべている方もいた。97km走ってきて、ラスト3km。長い上りを上るのは、確かに少しハードだ。勾配もそこそこきつく、おそらく一番厳しいところでは、10%程度あるだろう。過去には、一部のゲスト選手が往復し、背中を押してくれるシーンもあったが、新型コロナウイルスの感染拡大で、体に触れることもきびしくなり、自力での登坂が必須となっていた。ファミリー層や登坂が苦手な層にとっては、この最初の下りと最後の上りがある限り、現実的に、参加は難しい。

だが、今年は救世主「超MAXさぼってみっぺ」が新規に導入されたのだ! 中身はシンプルで、登坂を回避したい参加者と自転車とを、軽トラなどでフィニッシュまで運ぶというもの。最初は「そんな制度を作ったところで自転車乗りが利用するのか」という声も上がっていたが、蓋を開けてみれば、意外と利用に抵抗はなかったようで、大盛況。用意した数台のトラックはフル回転となり、順番待ちの列ができる時間帯も。地元のドライバーさんは「ずっと運んでいて、昼食も摂れないよ~」と笑顔で嘆いていた。



バイクを荷台に乗せてくださる地元の方



愛車を押さえるために荷台に乗り、坂を上がるのだが、これが最高に気持ちよく、楽しいらしい

利用者に聞けば、「苦痛の時間がなくなり、楽しいことばかりで終えられて嬉しかった」「トラックで坂を上るのも最高に楽しかった」と大好評。「自転車乗り=坂が好き」という通念もあるようだが、自転車を楽しむ人たちの好みやヨシとするものは千差万別。楽しむために乗っているのだから、楽しいことだけをしたっていいじゃないか。この最後のパートがなくなったために、思いっきり南会津を楽しむことができる人が増えた、ということは大きな収穫だろう。

来年は、行きのダウンヒルにも、この制度の導入が検討されているそうだ。体が温まっていない早朝に、いきなり下るのは怖いし、雪国特有の事情で、路面が荒れている部分もある。ブレーキをうまく使えないお子さんやビギナーなどは、長い下りは危険であり、安全を守り、誰もがこの機会を楽しめるようベストを尽くそう、というのも、参加者に寄り添う「走ってみっぺ」らしい姿勢だと感じる。



最後の登坂に臨む参加者。景観は美しく、上りゴールの達成感は大きい!



「あと少し」のところで参加者を応援する「ディアボロ(悪魔=欧州レースで有名な応援スタイル)」さん。自身は横にあるママチャリで走破している

ゴールでは、MCの方々がZARDの「負けないで」を熱唱し迎えてくれた。聞けば最初の参加者のゴールから、最後のライダーまで4時間以上歌い続けたという。皆が思わず笑ってしまい、笑顔でフィニッシュできる、ユニークなもてなしだった。恐るべし、走ってみっぺ。



マイクを持ち、明るく愉快に出迎えるゲスト



笑顔で次々フィニッシュ!

楽しみ尽くした参加者が、笑顔で次々と会場を後にしていき、フル開催としては3年ぶりの走ってみっぺは、幕を下ろした。おそらく、今年参加された方の多くは、来年もまた戻ってくるのではないだろうか。心地よく「ユルく」て、アットホームで、最高に楽しいサイクリングイベント。自分も、来年ここに戻ってきたい、と強く思った。

画像:走ってみっぺ南会津2022 (c)Naoki YASUOKA@Cyclowired、編集部