2022年はサッカーW杯など様々な競技で盛り上がったスポーツ界。スポルティーバではどんな記事が多くの方に読まれたのか。今年、反響の大きかった人気記事を再公開します(2022年4月19日配信)。※記事は配信日時当時の内容になります。   ※…

 2022年はサッカーW杯など様々な競技で盛り上がったスポーツ界。スポルティーバではどんな記事が多くの方に読まれたのか。今年、反響の大きかった人気記事を再公開します(2022年4月19日配信)。※記事は配信日時当時の内容になります。

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学校・練習・住まいが近距離の寮生活のメリット

「今の高校サッカーは地方勢が強くて、都会の高校は全国大会で勝ちづらくなっている」。大阪のある高校の指導者が発した言葉が印象に残っている。近年の高校サッカーは練習で身につけた技術、戦術を試合で発揮するために、肉体強化に力を入れるのがスタンダードになっている。


岡山学芸館高校の

「瀬戸内占春寮」。野球場とサッカーグラウンドに隣接している

 都市部の高校はバスや鉄道など交通網が発達し、遠方からでも学校へ通いやすい。ただ、広範囲から優秀な選手が集まりやすいのは利点であると同時に、選手がフィジカルを鍛える上でネックになってくる。

 例えば、冒頭で挙げた大阪の高校では、通学に1時間以上の時間をかけて隣県から通う選手が少なくない。学校の授業と練習を終えて、家に帰ると22時過ぎ。そこから食事を摂り、お風呂に入って寝ると日を跨ぐのが当たり前になる。

 さらに次の日も朝練などに向かうために6時前後には起床するとなると、育ち盛りの選手にとって大敵である睡眠不足に陥る。

 その点、学校生活、練習、日常生活を近距離で過ごせる寮生活は、選手の成長に理想的な環境が整っていると言えるだろう。練習を終えればすぐに食事が摂れて、就寝時間も早くなる。自宅生とは違い、日頃どんな食事をして、栄養を摂っているかまで目が行き届くのも寮生の利点だ。

 そうした日々の積み重ねが、3年間の高校生活によってフィジカルの差として表れ、結果にも出てくる。近年の高校サッカー選手権でコンスタントに上位に食い込む青森山田高校(青森県)、矢板中央高校(栃木県)などはその代表例と言えるだろう。

 そんなサッカー強豪校は、選手権出場に憧れる遠方の選手を受け入れるため、寮を完備するのが当たり前になっている。そして、今の寮は"古い・汚い・プライベートがない"といった、以前はあった負のイメージを覆す施設が増えている。

強豪校の寮は充実化の一途

 その代表格と言えるのが、選手権に4度出場し、昨年はインターハイベスト8まで進んだ岡山学芸館高校(岡山県)だ。

 これまでの寮が手狭となったため、2017年4月に野球場とサッカーグラウンドに隣接する場所に「瀬戸内占春寮」を建設。各学年20名ずつ計60名、野球部と併せて120人が共同生活を送っている。

 寮にはミーティングスペースとしても使用できるきれいな食堂もあり、トレーニング後すぐに食事が摂れる。また、運動後の疲労をとるため交互浴ができる大浴場や、練習試合に来たチームが宿泊できるスペースも備えている。

 コロナ禍でオンライン授業が増えたため、今では当たり前になっているが、自チームの試合やJリーグ、海外サッカーを視聴するため、いち早く寮にWi-Fiも導入した。

 選手が暮らす部屋は4人1部屋ではあるが、ベッドの下段が勉強机などの個人スペースになっており、カーテンなどで区切ることでプライベートな空間も確保できている。

「練習参加に来た選手で寮を希望する選手には案内しますが、なかなかこれだけきれいな施設はないので、親御さんとともにビックリされます」と口にするのは高原良明監督だ。寮費は他チームよりも高めだが、新たな寮ができてからは県外からの入学希望者が増えたという。

 2019年度から2年連続で選手権ベスト4入りを果たした帝京長岡高校(新潟県)も、選手の成長を考えた寮を新設したチームの一つだ。これまで県外から来た選手は複数に分かれた下宿先で生活していたが、全員までスタッフの目が行き届かず、食事やコンディショニングといった部分は選手の意識任せになっているのが課題だった。

 だが、日本一を獲るためそうした私生活の改革に着手。2021年頭には学校近くにサッカー部専用の食堂を作り、自宅生も含め練習前後に補食を摂れる環境を整えた。4月にはサッカー部専用の寮も完成したが、こちらは睡眠にこだわった設備にしたのが、特徴だ。



食事をしっかり摂れる環境を整えた帝京長岡高校

 夜にスマートフォンやPCから発するブルーライトを含む明るい光を浴びると脳が昼と判断し、眠れなくなると言われるため、夜10時以降は室内への電子機器の持ち込みを禁止。充電は廊下でできるように建物が設計されている。

 睡眠時間を確保するため、洗濯にも工夫が施されている。寮生は洗濯機が空かないため、寝る時間が遅くなるケースも多いが、帝京長岡では平日の洗濯は代行業に依頼。登校前にランドリーバックに洗濯物を入れると、業者が各部屋の洗濯機に入れ、洗濯後は選手それぞれの部屋に干してもらえる。

 授業がなく時間に余裕が生まれる土日は自らが洗濯を行ない、寮生活のメリットであるひと足早い社会勉強の経験もさせているのもポイントだ。「大事なお子さんを預かっている以上、コンディショニングの面ではプロに近い環境を整えてあげたい。学校生活を大事にしながらも、サッカーに集中できる環境を作っていきたい」と話すのは、古沢徹監督だ。

一人部屋がスタンダードになりつつある

 寮と共に遠方の選手を受け入れてきた下宿も、現代に合わせて大きく変化をしている。ひと昔前は大家さんの自宅の一部を間借りするイメージが強かったが、最近は会社が運営し、管理人が常駐する学生会館と呼ばれるタイプの施設がスタンダードになっている。

 代表的なのが、約1300の高校、大学と提携し、年間2万人もの生徒を受け入れる学生会館のドーミーだ。寮を自前で作ると寮監を配置したり、毎日、食事を提供する難しさなどがあるが、ドーミーの場合はすべてを任せられるのが利点である。

 昨年度のインターハイ、選手権でベスト8進出を果たした東山高校(京都府)もドーミーと提携する高校の一つ。以前は学校近くに自前の寮を運営していたが、老朽化が進んだため、約4年前からドーミーが運営する学生寮を利用し始めた。きれいで管理が行き届いた寮の評判はよく、他部活も含めて定員となったため、サッカー部はこの春にできたばかりの新たな寮に移ることになったという。

 東山の寮の場合、風呂とトイレがセパレートになった一人部屋。室内には電子レンジ、冷蔵庫、ドラム式の洗濯機、乾燥機といった生活必需品がついている。また、建物内には朝食や夕食を食べるためのきれいな共用スペースがあり、自炊する人用のキッチンも完備されている。無料で飲めるコーヒーメーカーが置かれているのもうれしいポイントだ。



東山高校の寮は、最近スタンダードになりつつあるという一人部屋だ

「プライバシーを保てる一人部屋を求めている子どもは多い。我々も時代に合わせないといけない」と話すのは福重良一監督。コロナ禍の感染対策として共同生活が避けられる傾向が強まるなか、一人部屋は選手を預ける保護者にも喜ばれており、県外からの問い合わせが増えた。また、寮を新設する学校も一人部屋がスタンダードになりつつあるという。

 人気スポーツであるサッカーに力を入れる高校が増え、県外の高校を進路として選ぶ選手は増えている。選んでもらうチームになるため、チーム実績、プレー環境だけでなく、日常生活にまでこだわるチームが増えるのも必然の流れかもしれない。

 一方で施設が新しければ寮費が高くなるのも必然で、寮費が安い旧来の寮が持つ強みもある。自宅から通う高校も含め選択肢の幅が広がっているため、取捨選択が問われる時代と言えるだろう。