2022年の国内のプロボクシングは、注目の統一戦が目白押しだった。4月「村田諒太vsゲンナジー・ゴロフキン」、6月「井上尚弥vsノニト・ドネア」、11月「京口紘人vs寺地拳四朗」、12月「井上尚弥vsポール・バトラー」。そして、大トリを飾…

 2022年の国内のプロボクシングは、注目の統一戦が目白押しだった。4月「村田諒太vsゲンナジー・ゴロフキン」、6月「井上尚弥vsノニト・ドネア」、11月「京口紘人vs寺地拳四朗」、12月「井上尚弥vsポール・バトラー」。そして、大トリを飾るのが、WBOスーパーフライ級王者の井岡一翔(志成)vs WBA同級王者ジョシュア・フランコ(アメリカ)だ。12月31日、大田区総合体育館で2団体王座統一戦を行なう。


12月31日に2団体王座統一戦を行なう井岡(左)とフランコ

 photo by スポニチ/アフロ

 戦績は井岡が31戦29勝(15KO)2敗、フランコが22戦18勝(8KO)1敗2分1無効試合。12月23日の公式会見で、井岡は「チャンピオンとしてのレベルの違いを見せたい」と語った。2012年、ミニマム級時代に八重樫東に判定勝利し、WBA、WBC王座を統一。今回勝利すれば、日本人初となる2階級での2団体統一王者となる。

 かつて同じように大晦日に世界戦を戦い、今年もテレビ中継で解説を務める、元WBA世界スーパーフェザー級スーパー王者・内山高志氏に、統一戦の展望と井岡の強さ、さらに、その先にある注目のカードについて聞いた。

 フランコは、「プロフェッサー(=教授)」と呼ばれるオーソドックスのボクサーファイター。18勝(8KO)というKO率の通り一撃必殺のパンチはないが、好戦的にジャブからプレスをかけて前に出てくる。右ストレートを打ってくるタイミングが独特で、相手の左には右のクロスカウンターを合わせて来るタイプ。そんなメキシコ系アメリカ人のフランコについて、井岡は「勇敢なメキシカンのファイター。すごく積極的なスタイルで攻める印象」と語る。

 内山氏は「フランコは、近づいても離れても戦えるいい選手ですが、特別なスピードや一発があるタイプではありません。コンパクトなパンチとガードのよさ、経験の差という点でも井岡選手の勝利が堅い」と予想した。また、「前回のニエテス戦での完勝ぶりを見ると、今の井岡選手のボクシングは洗練されていて隙が見当たりません」と語る。

 今年7月13日に行なわれたドニー・ニエテス(フィリピン)戦で、井岡はジャッジひとりがフルマークをつける、3-0の大差の判定勝利を収めた(117-111、118-110、120-108)。特筆すべきは、井岡にとってニエテスは、2018年の大晦日に判定1-2で惜敗した相手であることだ。

 内山氏はその圧倒的なリベンジ劇をこう振り返る。

「一度負けた相手にワンサイドで完勝するのはすごいこと。1戦目は、接近戦の打ち合いでパンチをもらっていましたが、再戦では積極的にジャブを突いてニエテスを入らせなかった。そして自分が打った後は、ニエテスが打ちづらい位置に動いて、頭の位置もずらし、効果的なパンチを出させませんでした。井岡選手のジャブは強く、パンチは多彩で上下に散らす。スキルの高さ、対応力の高さがよくわかる内容でした」

 そして何より、内山氏は井岡のすごさに「脱力」を挙げた。

「練習では脱力して打てていても、試合となれば誰しも少しは力むものです。でも、井岡にはそれがまったくない。力んでいないからこそ、予備動作がなくコンパクトにパンチが出せて、スムーズにコンビネーションがつながる。スタミナの消耗も抑えられて、12ラウンドでもペースが変わりません。

 井岡選手はパンチも軽く打っているようにしか見えませんが、29勝(15KO)と、軽量級ながらKO率は50%を超えています。パンチを出すタイミングと当てる角度がいいからこそでしょう」

 さらに内山氏は、井岡が脱力できる理由について、「まさに練習の賜物。井岡選手は基本のパンチ、同じ動きを何度も丁寧に繰り返して練習しています。シャドー、ミット、サンドバッグ、それを鏡の前で何度も確認......。それを、そのまま試合でも遂行している感じですね。パッと見、派手さや豪快さは感じないないかもしれませんが、攻防のスキルはどちらもとてつもなく高い。達人の域という感じです」と評した。

【勝利後は中谷潤人との対戦へ】

 12月23日の会見で井岡は、大晦日の統一戦に勝利した先にある目標について、「最も望んでいるのはエストラーダ選手との試合。一番目標にしてきた選手と、このスーパーフライ級で頂上決戦ができたら、それが一番いいなと思います」と、フアン・フランシスコ・エストラーダ(メキシコ)との3団体王座統一戦への思いを語った。

 2階級王者のエストラーダは12月3日、元4階級制覇王者の"ロマゴン"ことローマン・ゴンサレス(ニカラグア)に判定勝利を収め、WBCスーパーフライ級のベルトを獲得した。現在、米ボクシング専門誌『ザ・リング』のパウンド・フォー・パウンドで10位にランクイン(12月10日時点)しているエストラーダと3団体のベルトを賭けた一戦となれば、スーパーフライ級の「頂上決戦」になるだろう。

 ただし、井岡はフランコ戦に勝利しても、WBOから180日以内の指名試合が義務づけられている。相手は、WBO同級1位の中谷潤人(M.T)。中谷は身長172cmと、この階級では長身で左のボクサーファイターで、成績は24戦24勝(18KO)。「ネクスト・モンスター」とも呼ばれる逸材だ。この井岡vs中谷には、内山氏も「これは楽しみ。実現してほしい」と語るように、日本ボクシングファン垂涎のカードになる。



井岡が勝利した場合に指名試合の相手になる中谷(右)photo by Kyodo News

 中谷は今年10月、2度防衛していたWBO世界フライ級王座を返上して階級をひとつ上げた。そして11月1日、スーパーフライ級での初戦としてフランシスコ・ロドリゲスJr.(メキシコ)と10回戦を戦い、3-0(97-92、98-91、99-90)で判定勝利を収めている。

 内山氏はその試合について、「ロドリゲスJr.はかなり強い選手ですが、内容は完勝でした。まだスーパーフライ級の初戦ですから、これからです。172cmと身長もありますし、さらに上の階級を狙える選手です」と評価。さらに、「ロングレンジはもちろん、ショートレンジも腕を畳んでコンパクトに打てる。ショートアッパーや打ち下ろしの左ストレート、そして独特な軌道で飛んでくる左のロングフック、いろんな角度でパンチが打てるのが魅力ですね」と語った。

 井岡と中谷、現在の力量については次のように語った。

「現時点では井岡選手のほうが上かなと思います。ただ、中谷選手はまだ24歳と若い。さらに減量苦から少し解放されて階級にアジャストすれば、飛躍的に強くなる可能性も十分あります。う~ん......とにかく『試合が楽しみ』としか言いようがないですね(笑)」

 井岡は中谷との対戦について、「チャンピオンとして挑戦者を迎え撃つのは当たり前のこと。それが中谷選手であろうと誰であろうと、チャンピオンとしての義務。何も思うことはないです」と実現の可能性を語っている。

 井岡が臨む11度目となる大晦日の舞台。日本人初の2階級2団体統一王者、その偉業達成の先には、注目の日本人対決が待っている。

【プロフィール】
◆内山高志(うちやま・たかし)

1979年11月10日、埼玉県生まれ。2010年にWBA世界スーパーフェザー級王座を獲得し、11連続防衛を果たした。プロ通算27戦24勝(20KO)2敗1分。KO率の高さから"ノックアウト・ダイナマイト"の異名をとった。2017年に現役を引退し、解説者や指導者、YouTubeでも活躍している。