2020年初頭、日本でも新型コロナ・ウイルス感染症蔓延が始まり、各種スポーツ・イベントの中止、延期、変則開催のシーズンを…

2020年初頭、日本でも新型コロナ・ウイルス感染症蔓延が始まり、各種スポーツ・イベントの中止、延期、変則開催のシーズンを送って来たが、2022年も幕を閉じようとするここへ来てようやく日本のスポーツ界も復活への道を歩み始めているように見える。華々しく開催された北京五輪を目の当たりし、無観客開催となった東京五輪の虚しさに俯きたくもなるが、失った時間を惜しんでも得るものはない。日本のスポーツ界を今後どのように盛り上げて行くのか、今年もアスリートが残した数々の偉業に感心しつつ、前を向きたいもの。

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■ビッグイベント盛りだくさんの2022年

新型コロナ禍においてスポーツは「不要不急」と連呼され、スポーツの存在意義やその力について深く考えさせられたその矢先、北京五輪閉幕の4日後の始まったロシアによるウクライナ侵攻は、スポーツの無力さまでもクローズアップした形となった。平和裏にこそ楽しまれるスポーツの醍醐味をかみ締めつつ、今年も数多の大活躍をピックアップした。あくまで独断と偏見ゆえ、ご容赦のほどを。

2022年はあまりにもビッグイベントが多すぎ、選外となってしまった出来事を先に列挙したい。まずは「巨星墜つ」というニュース。日本のモータースポーツを黎明期からけん引した高橋国光、アントニオ猪木を抜きに日本の格闘技界を語ることはできない、日本の野球人気隆盛に寄与したのは間違いなく水島新司、現在ほど人気があったわけではないパシフィック・リーグでひときわ輝きを放った村田兆治、日本サッカー界に大きな影響を与えたイビチャ・オシム(すべて敬称略)……それぞれひとコーナー設けられる方々ながら、ここではご冥福を祈るに留める。

プロとして『プロローグ』を披露した羽生結弦 11月4日、横浜 (C) Getty Images

また、いち時代を築き上げたスターが続々と退いた年でもあった。五輪では団体個人で3つの金メダル、4つの銀メダル、世界選手権では10個の金メダルを獲得した体操の内村航平、冬季五輪2連覇の羽生結弦、平昌五輪で金と銀、他大会で5つの金メダルを持つ小平奈緒、サッカー界では中村俊輔、陸上界から福島千里…、それぞれ次世代スターの登場が待たれる。

■次点候補の数々

2021年のル・マン24時間レースにて優勝した7号車トヨタGR010 HYBRID(C)toyota gazoo racing

また、次点に至らなかった出来事をいくつか…。

トヨタによるル・マン24時間耐久レース5連覇は、最多記録に並ぶ偉業。日本においてはモータースポーツの地位が低く、目立ったニュースとはならず終い。2023年はプジョー、ポルシェ、フェラリーなどの参戦が見込まれるため、6連覇を決め、ぜひ歴史にその名を刻みたいところだ。

柴原瑛菜(しばはら・えな)はウェスレイ・コールホフとともにテニスの全仏オープン混合ダブルスを制覇。このカテゴリーを制すのは、1999年に全米を制した杉山愛以来。馬場咲希が全米女子アマチュアゴルフ選手権で優勝。これは服部道子以来37年ぶり。さらに東北福祉大の蝉川泰果が日本オープンを制したのは、アマチュアとして歴史ある同大会初回以来95年ぶりの快挙だった。

通常ならこうした偉業もTOP10入りとなっただろうが、今回は選外となった。それらを無視するのではなく、ここに記す。

■次点 ワールドカップ・カタール大会 メッシ悲願の戴冠、日本代表ベスト8ならず

W杯を制したアルゼンチンのメッシ(C)ロイター

ここではサッカーのワールドカップ・カタール大会を推したい。日本代表が優勝経験国のドイツ代表、スペイン代表を撃破しベスト16へ駒を進めたのは、日本サッカー史の1ページに残る出来事だろう。アルゼンチン代表がフランス代表を破りリオネル・メッシが悲願の優勝を成し遂げた決勝の激闘もあるが、目標のベスト8を達成できなかったのは事実。他メディアでも語り尽くされているため、ここでは次点とした。

■第10位 仙台育英高校が初優勝、108年目にして優勝旗が白河の関を越える

長い甲子園の歴史の中でも「白河越え」は東北勢の悲願だった。もちろん2004年に駒大苫小牧が北海道勢として優勝を成し遂げ、もはや白河越えどころか、津軽海峡をも飛び越えてしまったではないか…とお思いのファンも多かっただろう。しかし東北人にとっては、そんな軽い思い入れではなかった。1915年第1回大会で秋田高校(当時、秋田中)が決勝で敗れて以来、実に12回も弾き返されてきた厚い壁を、今年の仙台育英がついにぶち破った瞬間だ。これまでも太田幸司、大越基、ダルビッシュ有、大谷翔平、菊池雄星、佐々木朗希を持ってしても叶えられなかった夢を東北にもたらした。これを十傑から落とすわけにはいかんとランクインとした。

■第9位 北京五輪、日本勢冬季最多の18個のメダル

大技「トリプルコーク1440」を決め、悲願の金メダルを獲得した平野歩夢(C)Getty Images

東京五輪もしかりだが、五輪で日本勢が活躍するというのは、物珍しい世の中でもなくなった。それでも羽生結弦の3連覇がかかり、小平奈緒の連覇を目にしたいという日本人は多かったことだろう。残念ながら、その2人ともに夢やぶれたが、語り継がれるだろう戦いの模様を目に焼き付けたファンも多かったに違いない。

小林陵侑、高木美帆とならぶ3つの金メダルの中で特に平野歩夢の滑りを取り上げたい。NHKのアナウンサーが「人類史上最高難易度」と絶叫しながらも、結果として2位留まった後、次の試技で同じ滑りの完成度を高め、意地の金メダルをもぎ取って見せた姿には、驚嘆を禁じ得なかった。この挑戦を最大限評価し、北京五輪ランクインとした。

■第8位 テニス界の絶対的レジェンド、ロジャー・フェデラーの引退

ロジャー・フェデラーの功績をたたえるサプライズ演出 提供:ユニクロ

もちろん、年齢的にも、怪我続きという事実からしても、テニス界のレジェンド、ロジャー・フェデラーの引退が近いと誰もがわかっていたに違いない。それでもやはりフェデラーがビデオ・メッセージで引退を告げた際には、テニス界が、いや世界のスポーツ・ファンが小さくないショックに包まれたことだろう。

ウィンブルドン5連覇を含む8勝、全米オープンも5連覇。グランドスラム男子シングルスでは20勝を達成、世界ランク1位在位310週、もちろん生涯グランドスラムも達成しているテニス界レジェンド中のレジェンド。プレーヤーとして完璧なパッケージを持つことで知られるが、また接する者、誰をも魅了するその人間性も、愛されてやまないポイントだろう。

11月、引退セレモニーを東京・有明アリーナで行い、その記者会見から退出する際も、記者団に対し丁寧に頭を下げ、フランスからやって来た記者にも個別にフランス語で別れを告げるなど、スーパースターに観られがちな傲慢さの欠片もないその姿を、日本のアスリートもぜひ見習ってもらいたいもの。

■第7位 エクストリームスポーツの祭典X Games、日本初開催

2本目のランで会心のトリックを決め笑みを浮かべる堀米(撮影:たまさぶろ)

「スポーツ」とひと口に言うものの、Z世代はもはや野球やサッカー観戦の習慣がないとまで言われる。若年層にとってスポーツと言えば、エクストリーム・スポーツ。それがゆえに五輪種目にもスケートボードやスノーボード、ブレイキンと言ったダンスまでもが加えられるような時代となった。

X Gamesはそのエクストリーム・スポーツの最高峰。スケートボード、BMX、Moto Xとすべてが楽しめ、ついにこの4月、千葉・ZOZOマリンスタジアムで初開催。18カ国から90名、平均年齢24歳(4人に1人は10代)の世界トップアスリートが出場。のべ4万人の観客が世界トップアスリートの妙技を目撃した。同大会、男子スケートボードストリートでは東京五輪金メダリストの堀米雄斗が優勝、女子スケートボードパークとともに日本選手が表彰台を独占した。

23年も5月開催が決定。これからの世代に、ますます支持されるであろう大会からは今後も目が離せない。

■第6位 12年ぶりにラリージャパンが復活 勝田貴元が3位表彰台

見事、3位獲得し、前年王者のオジエに抱えられるトヨタの勝田貴元 (C) TGR

モータースポーツというカテゴリーは日本において常に過小評価されがちだ。しかしヨーロッパ諸国ではF1の表彰式に国王が授与に姿をあらわすなど、そのステータスの高さが際立つイベント。

世界ラリー選手権(WRC)からラリー・ジャパンが12年にもわたりカレンダーから姿を消していたのも、そんな背景があるだろう。日本を代表するグローバル企業トヨタが2017年から本格参戦、その後押しでやっと復活を果たしたラリー・ジャパンの開催にこぎ着けた2022年、関係者の感慨はひとしおだろう。

ここでTOYOTA Gazoo Racingが年間王者のカッレ・ロバンペラを要しながら優勝を逃したのもニュースなら、地元出身の勝田貴元が3位表彰台を獲得したのも、またビッグニュースだった。

本大会は向こう4年にわたって実施が予定されているが、日本自動車産業のさらなる発展のためにも、恒久的に開催されることを切に願う。

■第5位 車いすテニスのレジェンド、国枝慎吾が生涯ゴールデンスラムを達成

男子シングルス・車いすテニスで東京五輪金メダルの国枝慎吾(C)ロイター

ロジャー・フェデラーは日本の記者に「あなたのようなプレーヤーが日本にも生まれるか」と聞かれた際「日本には国枝慎吾がいるじゃないか」と回答した有名な逸話がある。それもそのはず。

グランドスラム男子シングルスでは28回優勝、ダブルスでは22回優勝、パラリンピックでは4度の金メダルを獲得しているレジェンド。11月に開催されたフェデラーの引退セレモニーでも、フェデラーが常に国枝を立てる発言を繰り返すのも非常に印象的だった。

国枝は4大大会のうちにウィンブルドンを制した過去がなく、今年ついにフェデラーのアドバイスにより、その頂点を極め、生涯ゴールデンスラムを達成。またさらなる勲章を加えた。

その国枝も来年には39歳となり、どこまで現役生活を続けるのか、やや不透明。彼のプレーを目にしていないテニス・ファンは、今のうちに目撃することを勧める。

■第4位 佐々木朗希が史上最年少で完全試合達成、あわや2試合連続も…

2022年11月8日、侍ジャパンの一員としてマウンドに上がった佐々木朗希 (C) Getty Images

千葉ロッテ・マリーンズの佐々木朗希が4月10日、オリックス・バファローズ戦でプロ野球史上16度目、16人目の完全試合を達成。1994年に槙原寛己(巨人)が達成して以来28年ぶり。1回2死から5回まで13連続奪三振を奪う快投。計19奪三振に日本タイ記録。20歳5カ月での達成は史上最年少。

翌日も8回完了まで完全と、MLBでも例を見ないあわや2試合連続完全試合だった。

令和の怪物は今年、覚醒のシーズンだった。来年、どのような成長を見せるか、ロッテ・ファンならずとも楽しみだろう。

■第3位 大谷翔平、104年ぶりMLBにて2桁勝利2桁本塁打

15勝目を挙げたエンゼルス・大谷翔平(C)Getty Images

もはや追記の必要はないだろう。また、ランクインに異論を唱える者はなかろう。あるとすれば、むしろ「なぜ3位か」。それは純粋に私がヤクルト・ファンであるから…としておこう。

大谷翔平には来季、MVP論争など巻き起こらぬ絶対的な活躍とポストシーズンでの躍動に期待したい。

■第2位 村上宗隆、史上最年少三冠王に世界の王超えシーズン56号

スポーツ各紙を飾る村上宗隆、日本人最多「56号」と「三冠王」獲得の見出し

正直、2、3、4位については、どれがどこにランクされても異論がないほどの偉業だ。村上宗隆が最上位に位置するのは、私がヤクルト・ファンであるからに過ぎない。22歳最年少三冠王は、今後どこまでその成績を伸ばすのか。世界のホームラン王・王貞治を凌駕した今、「メジャー行き」を宣言しているからには、もはや連続三冠王、シーズン最多となる61本塁打、そしてヤクルトのリーグ3連覇を置き土産として期待する以外にない。

来季もとくと村神様を拝みたいものだ。

■第1位 井上尚弥、ボクシング世界4団体統一王者に輝く

ボクシングも日本では過小評価されているスポーツ・カテゴリーのひとつだろう。五輪で金メダルを獲れば、日本中で知らぬ者ないアスリートとなるが、ボクシングの世界王者の名を知る日本人はそう多くはない。

世界バンタム級4団体統一王者となった井上尚弥 (C) PXB WORLD SPIRITS / フェニックスバトル・パートナーズ

そんな中、日本人として初めて世界4団体の統一王者となった井上尚弥の名を不滅のものと扱うためにも、2022年の1位とした。バンタム級は世界でももっとも選手層の厚いクラスとされる。その証左として、井上以前にバンタム級の統一王者はない。

2004年 バーナード・ホプキンス(ミドル級) 2005年 ジャーメイン・テイラー(ミドル級) 2017年 テレンス・クロフォード(スーパーライト級) 2018年 オレクサンドル・ウシク(クルーザー級) 2020年 ティオフィモ・ロペス (ライト級)* 2021年 ジョス・テイラー(スーパー・ライト級) 2021年 サウル・カネロ・アルバレス(スーパー・ミドル級) 2022年 ジャーメル・チャーロ(スーパー・ウェルター級) 2022年 デビン・ヘイニー(ライト級)

*多くのメディアで認められておらず、井上を9例目とするのが多数

この中で統一戦をすべてKOで成し遂げたのは井上のみ。「モンスター」と恐れられるのは、こうした戦績による。

なお、日本人で次に4団体統一を成し遂げるのは、スーパー・バンタムに階級を上げた井上だともささやかれるだけに、その圧倒的な強さで、さらなる偉業に期待したい。

さて、この10大ニュースを掲載し続け、もはや20年以上となったが、2022年のみなさんの10大スポーツ・ニュースはいかがだったろうか。

電通・高橋治之元専務をめぐる東京五輪汚職問題にも触れたかったが、年末を快く過ごすためにも、ここではランクインを避けた。これについては、またいずれ詳細が明らかになった時点で触れたい。

こうしたスポーツのダークサイドは今は忘れ、今年成し遂げられた数々の偉業を噛み締めながら、2022年のスポーツを個々人で振り返ってもらえれば幸い。

みなさん、よいお年を。

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著者プロフィール

たまさぶろ●エッセイスト、BAR評論家、スポーツ・プロデューサー

『週刊宝石』『FMステーション』などにて編集者を務めた後、渡米。ニューヨーク大学などで創作、ジャーナリズムを学び、この頃からフリーランスとして活動。Berlitz Translation Services Inc.、CNN Inc.本社勤務などを経て帰国。

MSNスポーツと『Number』の協業サイト運営、MLB日本語公式サイトをマネジメントするなど、スポーツ・プロデューサーとしても活躍。

推定市場価格1000万円超のコレクションを有する雑誌創刊号マニアでもある。

リトルリーグ時代に神宮球場を行進して以来、チームの勝率が若松勉の打率よりも低い頃からの東京ヤクルトスワローズ・ファン。MLBはその流れで、クイーンズ区住民だったこともあり、ニューヨーク・メッツ推し。