全日本選手権男子フリーの鍵山優真 全日本選手権は、2位になった今年3月の世界選手権以来、9カ月ぶりの試合だった。出場を決めた理由を鍵山はこう語った。「ケガもある程度動けるところまで回復してきたので、自分の今の実力を出しきりたいと、出場を選び…



全日本選手権男子フリーの鍵山優真

 全日本選手権は、2位になった今年3月の世界選手権以来、9カ月ぶりの試合だった。出場を決めた理由を鍵山はこう語った。

「ケガもある程度動けるところまで回復してきたので、自分の今の実力を出しきりたいと、出場を選びました。試合の目標は、結果は気にせず次につながる演技ができればいいと思います」

 だが、左足首はまだまだ完治していない状態。そのために左足のトー(つま先)を使うトーループは、4回転どころか3回転も封印。痛みなく跳べているジャンプを中心に構成を組んだ。

 GPファイナルには日本選手が4人も進出した今季、鍵山は試合に出たい気持ちを抑えきれなくなってきたのだろう。

【SPは「満足100%、悔しさ100%」】

 12月23日のSPは最終滑走。最初の4回転サルコウは、ケガを感じさせない安定したジャンプ。だが、次の3回転フリップ+3回転ループは着氷で片手をつく。さらに演技後半のトリプルアクセルはパンクでシングルになるという不本意な滑りになった。

「サルコウは6分間練習からよかったのでそんなに不安はなかったが、フリップ+ループとトリプルアクセルは公式練習から苦戦していた部分もあったので、それが出ちゃった感じ。特にアクセルは、完全にミスなので余計に悔しいですね。

 全日本に出ると決めた以上はしっかり練習してきたのでミスが出たのは悔しいし、もう一回やりたいなという気持ちはあるけど、ショートの初披露という面では、ジャンプ以外は自分らしさを全力で引き出せていた。満足100%、悔しさ100%という感じです」

 こう話す鍵山のSPの得点は、アクセルが0点で連続ジャンプは1.51点減点されて6位の81.39点。それでも演技構成点では、宇野昌磨(トヨタ自動車)に次ぐ2位の42.88点と、意地を見せていた。

【得点源のジャンプでミスが続いたフリー】

 2日後のフリーで鍵山は、新しい挑戦として構成に組み込もうとしていた4回転フリップを回避。4回転ジャンプはサルコウ2本を入れた。SPでミスが出たからこそ、自信を持っている構成でノーミスの演技をしたいと考えたからだ。

 だが、最初の4回転サルコウは転倒するスタートになった。さらに次の4回転サルコウも手をつく着氷で連続ジャンプにできなかった。

「最初の4回転サルコウで転ぶとは想定していなかったので、だんだん自分の気持ちに焦りが出てしまって。アクセルは2本とも降りはしましたが、自分が納得するような形では全然なかった。そこが、点数が伸びなかった理由だと思います」

 4本目のトリプルアクセルは4分の1回転不足の判定で0.11点の減点。次のトリプルアクセルもGOE(出来ばえ点)は0点の判定が最も多かった。さらに次の3回転ルッツからの連続ジャンプは最後のサルコウが2回転にとどまった。

 それでも最後の3回転フリップを降りたあとのステップシークエンスに入ると徐々にスピードとキレを取り戻し鍵山らしい滑りに。

 最後のふたつのスピンは力感を感じさせた。演技構成点はSPと同じく宇野に次ぐ2位の得点だったが、得点源である4回転ジャンプ2本のミスと、トリプルアクセル2本で加点を稼げなかったために、8位の156.44点。合計は237.83点で8位という結果に終わった。

「フリーの4分間は左足も気にならなくて目いっぱい滑れました。でも練習からなかなか思いきりできない状態で、公式練習も1日1回で35分間という少ない時間のなかで調整していく難しさをすごく感じました。

 フリーは特にジャンプの数が少し多いので、短い時間で自分の足とどう向き合いながら調整していくかというのがうまくいかなかった部分もあって、それが演技のミスに響いてきたのではないかと思います」

 鍵山は冷静な表情で「全日本の3日間の試合を通して、自分が今やるべきことが明確にわかってきました」とも話した。

「この会場に来た時はみんなと滑れるのがすごく楽しみという感じだったんですが、こうやってショートとフリーを通してみると、本当にまだまだだなと思う。試合の調子としては、一番元気な頃に比べると30%にもいかなかったんじゃないかと感じる演技。もっともっとコンディションも含めて成長していくべきだなと感じました」

【来季は初戦から他の選手と競えるように】

 今回の試合では、新しいプログラムが、ジャッジにどう評価されるかを確かめる目的もあった。数字を見てみれば、演技構成点も技術点も昨季より劣る部分が多かった。だからこそ、今後、技術を取り戻すだけではなく、さらにプログラムを仕上げていく必要性も感じたという。

「今回、プログラムも本当に難しいなと思いながら滑っていたし、振付師の意図に添えないようなプログラムになってしまったので、すごく悔しいですね。完全な状態でやらなければいけないなと。

 ただ、全日本に出たことに関して後悔はないし、むしろ前向きな気持ちで臨めていた。だからこそ早くケガを治して、来シーズンは初戦から他の選手たちとも競えるくらいにレベルアップしていかなくてはいけないなと思いました」

 自分が万全な状態ではないなかでは、他の選手の動向や調子が気になり、自分が取り残されるのではないかという不安も感じてしまうのだろう。

 鍵山が全日本に出場したのは、競技会の空気感を味わい、みんなと一緒にいることを確かめたかったという面もあるだろう。そこで、自身の現状を明確に受け入れ、やるべきことも見えた。

 過去4回出場していた全日本選手権は、3位が3回と6位が1回。今回の8位という順位は、鍵山の心に火をつけた。