FIFAワールドカップ カタール 2022は初めての中東開催、11月開催という異例の大会でしたが、アルゼンチンの優勝で幕…
FIFAワールドカップ カタール 2022は初めての中東開催、11月開催という異例の大会でしたが、アルゼンチンの優勝で幕を閉じました。日本代表は優勝経験国のドイツ、スペインに勝利し、グループを1位通過しましたがベスト16でクロアチアにPK負け、目標のベスト8は実現できませんでした。
日本代表は1998年のフランス大会にはじめて出場し7大会連続の出場となりましたが、この間の日本代表のシステムを考察すると、フランス大会3-5-2、日韓大会3-5-2、ドイツ大会3-5-2と4-4-2、南アフリカ大会4-1-4-1、ブラジル大会4-2-3-1、ロシア大会4-2-3-1とみることができます。今回は大会開催前までに4-2-3-1と3-6-1を併用し、試合ごとだけではなく、試合中にシステム変更を行うという点で、初めて日本代表が相手のシステムや戦術に対し、チームのメリットを活かすうえで戦略的なシステム変更を行うことができるチームであったということが言えます。
その結果、優勝経験国であるドイツやスペインに対して、試合中にシステム変更や戦術変更を行い、逆転勝ちという素晴らしい結果をもたらすことができました。
リーグ戦の導入により育成現場はどのように変わったか
では、日本サッカー協会が掲げる2050年までにワールドカップ優勝に近づくためにはどのような強化が必要なのかを育成年代の現状に照らして考察してみます。
日本における育成年代の強化は劇的に進んでいると言えます。U-17日本代表は、直近のクロアチア遠征において、クロアチア、スウェーデン、デンマークと対戦し、2勝1敗の成績を収めています。では、具体的に何が変わったのか。それはひとえに育成年代におけるリーグ戦の導入があげられます。これまでは高校サッカーにおける重要度はリーグ戦ではなく、高校サッカー選手権やインターハイであり、リーグ戦のチャンピオンが真のチャンピオンという位置づけではなかったと言えます。
しかしながら、2011年から高円宮杯 JFA U-18サッカーリーグが創設され、トーナメントの大会のほかに長期間にわたるリーグ戦の開催が始まりました。サッカー先進国においてはリーグ戦により大会を開催することが当たり前であり、各国リーグやJリーグでもリーグ戦において優勝チームを決定することが一般的です。
リーグ戦の導入により、U-18だけではなく、U-15などにおいてもリーグ戦を導入する結果となり、それにより日本におけるサッカーの個人レベル、チームレベルの向上は間違いなく進んだと言えます。当然のことながら、トーナメントの大会に比べて、リーグ戦は長期にわたってチームおよび個人の能力の向上とチーム戦術の浸透が必要となってきます。チームコンセプトを理解し対応するスキルを持てなければ上位の成績を収めることは簡単でないことは明らかです。
つまり、現在の代表チームのメンバーは育成年代から試合中のシステム変更や戦術変更に対応することを身に着けており、世代別の代表においてもそのような戦い方を経験しているからこそ、今回のワールドカップの結果につながったと言えます。日本サッカーの育成年代の進歩はリーグ戦の導入が果たした役割はかなり大きいと言えますが、一方で課題も残っています。
選手の成長と指導現場のギャップ
では、日本の育成年代の成長において、選手および指導においてはどのような状況でしょうか。U-17やU-20ワールドカップでの成績や活躍をみれば選手レベル、指導レベルの両方において成長の跡がうかがえます。一方、各チームにおいては選手のレベル向上はもちろんながら、指導者に関していえば、それを支えている部分と旧態依然とした指導が続けられている両面をうかがうことができます。特に高校サッカーの現場ではチームのシステムやスタイルが変化することなく、チームの一貫したシステムに選手を当てはめて、それをチーム戦術としているチームも決して少なくないと言えます。相手チームのシステムやゲームの状況をとらえて、システムを変更するようなことは比較的少ないと思います。
現代のサッカーでは先ほど紹介したように相手のシステムやゲーム状況により、4-4-2や3-5-2(3-6-1)を使い分けなければならないのは当然のこととなっています。そのような中、高校3年間、同じシステムで同じ役割しか求められない中で取り組んでいても個人的な成長はあまり望めません。それぞれのシステムに求められる役割や判断を、ゲームを通じて身につけていくことこそがサッカー選手としての成長につながるはずです。
日本サッカー育成年代の課題
日本サッカーの育成年代の進歩は間違いないところですが、一方で次のような課題があげられます。スケジュールの問題です。U-18のプレミアリーグは現在、4月に始まり12月中旬ぐらいまでの間に12チームがホームアンドアウエーで22試合を戦うリーグ戦となっています。4月~12月の8カ月、週末にリーグ戦が行われていることを考えると32週のうち、22週はリーグ戦となります。さらにインターハイと高校選手権の都道府県予選が4試合ずつとしたら30週は試合で埋まることになります。
Jリーグやヨーロッパの各チームで活動する選手でさえ、次のシーズンに向けてリーグ終了後は2週間から4週間ほどのオフの期間があります。それから次年度のチームの骨格となる1カ月間のキャンプを経て次のシーズンに入っていきます。
一方、現在の高校サッカーでは選手権が終了する1月中旬には各都道府県の新人戦が始まり、2月ごろには各地区の大会が開催されるスケジュールになっています。また、春休みの時期には各地区でフェスティバルと呼ばれる交流戦などが開催されています。
このようなスケジュールでチーム戦術をチームに落とし込む期間はほとんど取れないのが現状です。ましてや、3-5-2と4-4-2のそれぞれのシステムをチームに落とし込むことは不可能に近いです。このようにスケジュールの問題もあり、ほとんどのチームが同じシステム、同じ戦術で戦うことにつながっていることは否定できません。
高校に比べてJリーグの下部組織では、多少スケジュールの問題が緩和されていることもあり、違うシステムを使い分けるためのチーム戦術や選手への落とし込みの期間を設けることができていると言えます。今後、日本の育成年代のさらなる進歩を望むのであれば、このスケジュールの問題を解決することがさらなる育成年代の成長を実現できるはずです。
今回のワールドカップでの日本代表の戦いぶりを見ても、システムや役割が変わってもそれに対応できる選手の育成がJFAの目標とする2050年までにワールドカップ優勝を達成するには避けて通れない部分です。
日本代表がワールドカップ出場を叶えて24年。2050年までにワールドカップ優勝という目標に残された時間はあと28年。ワールドカップ7大会分あると捉えるのか、7大会分しかないと捉えるのか、いずれにしても育成年代の進歩にかかっています。
<筆者プロフィール>
福岡県生まれ。
10歳からサッカーを始め、現在もシニアサッカーで活動中。
ワールドカップはアメリカ、フランス、日韓、ドイツ、ブラジル大会を現地観戦。
フランス大会のブラジルvsオランダの戦術に魅了される。