文武両道の裏側 第13回TAKUMI(早稲田大学) 前編 3シーズン目に突入している日本発のプロダンスリーグ「Dリーグ」。年齢も性別もさまざまなトップダンサーたちが、熱く激しいダンスバトルを繰り広げているなか、二足の草鞋を履く選手がいる。そ…
文武両道の裏側 第13回
TAKUMI(早稲田大学) 前編
3シーズン目に突入している日本発のプロダンスリーグ「Dリーグ」。年齢も性別もさまざまなトップダンサーたちが、熱く激しいダンスバトルを繰り広げているなか、二足の草鞋を履く選手がいる。それがCyberAgent LegitのTAKUMIだ。中学時代からダンス界では知られた存在で、全国高校生ダンスバトル選手権で2連覇、米国ニューヨークのアポロシアターで開催されたアマチュアナイトで月間100点満点優勝を飾るなど、国内外で高い評価を受けてきた。現在彼は、4ラウンド終了時点で首位を走るCyberAgent Legitのチームリーダーでありながら、早稲田大学法学部に在籍し、日夜、忙しいスケジュールをこなしている。そんなTAKUMIに、文武両道のコツについて話を聞いた。
Dリーグ
「CyberAgent Legit」のリーダー、TAKUMI
【絶好調の要因とは】
――現在、早稲田大学法学部4年に在籍していて、2年生の途中からDリーグに参加しています。まずはどのような経緯でCyberAgent Legitに参加したのでしょうか。
Dリーグに参加するまでは、ダンスの個人インストラクターをやったり、アーティストのバックダンサーをやったりしていました。そのなかで、Dリーグの発起人であるカリスマカンタローさんから、大規模なダンスリーグがスタートすることをお聞きして、誘っていただいたのがきっかけです。いちダンサーとしてすごく面白そうだなと思いましたし、企業のダンスチームという特徴もあり、以前から企業の内部にもすごく興味があったので、そんなところも大きな要因でした。
――1年目からリーダーとしてチームを率いる立場です。リーダーとしてとくに意識しているのはどんなところですか。
自分が一番意識していることは、メンバーに寄り添うことです。自分が引っ張るというよりは、一人ひとりの能力をしっかりと発揮できる場所を作れるように意識しています。そのために個別で話をしたり、コミュニケーションをしっかり取るようにしています。新メンバーが入ってきた時には、そのメンバーを主役にしたりして、その人が輝けるようにしたいとすごく考えています。
――リーダーだからこその悩みはありますか。
正直、めちゃくちゃ大変でしたね。やりがいもすごく感じていますが、リーダーとして責任を持つことも大事だと思っていて、自分がグッと出ていくところは作らないといけないと思っています。
その悩みは、とくにファーストシーズンにありました。結果がついてこなかったので、自分もすごくしんどかったのですが、いかにみんなのモチベーションを保つか、いかに意識をあげていくかに、苦心した時期がありました。
今は4連勝(ラウンド4終了時点)と結果も出ていますが、その過去の経験があったからこそ、たとえ負けたとしても、大事なことはわかっていますので、モチベーションが下がることはないです。結構そこには自信を持っています。
――ファーストシーズン、セカンドシーズンを踏まえ、大きくレギュレーションが変わったサードシーズンでは、ここまで好調を維持しています。その要因はどのように考えていますか。
これまでのショーコンペティションは、順番にひとチームずつ採点される方式なので、いかにインパクトを与えるかに焦点が当たりがちでした。今は1対1のバトル形式なので、よりダンスの専門性が求められるようになっていると思います。細部へのこだわりがきちんと勝敗に表れていて、それが自分たちのチームカラーに合っているのかなと思っています。
TAKUMI(中央)が手掛けたラウンド2の作品
©D.LEAGUE22-23
【課題はすべて電車の中で】
――学生として勉学にも力を入れているかと思います。勉学とダンス、シーズン中はどんなスケジュールで取り組んでいるのでしょうか。
シーズン中は練習の合間にいったん抜けて、授業に出たりしていました。それから練習場所の横の会議室で練習が終わったあとにテストを受けたりしていました。
――Dリーグのラウンドとテストが重なることもありましたか。
当然ありました。テストの日程とラウンドの日程は事前にわかっているので、前倒しして準備していました。それでも徹夜はありましたね。ハードな練習が続く時期だと、練習が深夜に及ぶことがありました。その翌日がテストの場合、そこで諦めて寝てしまったら、落胆する結果になることがわかっているので、絶対にやりきると気合を入れ、そのまま寝ずに勉強してテストに臨んでいました。
――本当に忙しい毎日ですが、どのように時間をやりくりして勉強していたんですか。
大学の課題は、すべて移動時間、電車の中でできるだけ終わらせるようにしていました。電車に乗った時には、必ず課題をやると決めていて、チームメイトも電車に乗った時には、気を遣ってあまり話しかけないようにしてくれました。
――法学部ではどのようなことを学びましたか。
経済の法律、憲法、刑法、民法とか、法律全般を学びました。とくに興味深かったのが社会問題についてです。法学部に入るまでは、法学は暗記に近い科目なのかなと思っていたんですけど、まったく違っていました。たとえば雇用差別やジェンダー差別などの社会問題が起こった時に、それについて法的にどうアプローチするかを考える内容が多かったです。国際法も勉強して、日本の法律はどうあるべきかと考えるのが、すごく面白かったですね。
――法学は難しい学問のひとつで理解するのに相当な時間がかかるかと思います。そんななかでもDリーグでは、2週間で1作品を作るというタイトな日程もありました。休みはあったのでしょうか。
ファーストシーズンはなかったかもしれませんね。それがよくなかったなと思っています。だからセカンドシーズン、サードシーズンでは、意識的に、休みをちゃんと作れています。追い詰めることが美学という考え方もありますが、僕は決してそうではないと思います。休養も成長のひとつで、それは自分のなかでとても大切にしていますね。
後編に続く>>「震災がきっかけでダンスの道へ。プロダンサーTAKUMIが飛躍的に学業の成績を伸ばせた理由」
【Profile】
TAKUMI(桑原巧光)
2000年5月19日生まれ、福島県出身。小学4年からダンスを始め、中学2年の時に日本最大のストリートダンスバトルイベント「ダンスアライブ」のキッズ部門で優勝、高校では全国高校生ダンスバトル選手権で2連覇を達成するなど、数々の実績を残す。16歳の時にはニューヨークのアポロシアターで開催されたアマチュアナイトで月間満点優勝を飾るなど、海外でも注目を集める。早稲田大学法学部に進学し、2年時よりDリーグのCyberAgent Legitにリーダーとして参加する。