JTマーヴェラス林琴奈 インタビュー後編(前編:日本代表の主軸へ。ほぼ出番なしで「悔しかった」東京五輪からどのように成長したのか>>) 2022年のバレーボール女子世界選手権・第3戦の中国戦で、エースの古賀紗理那が負傷。しかし、女子日本代表…

JTマーヴェラス
林琴奈 インタビュー後編

(前編:日本代表の主軸へ。ほぼ出番なしで「悔しかった」東京五輪からどのように成長したのか>>)

 2022年のバレーボール女子世界選手権・第3戦の中国戦で、エースの古賀紗理那が負傷。しかし、女子日本代表チームのライトとしてチームの軸となった林琴奈が奮闘した。ベストスコアラーランキング、ベストアタッカー部門で共に日本人選手の中で2位(日本人トップは共に井上愛里沙)。守備では、ベストディガー部門とベストレシーバー部門で日本人トップと、攻守でチームをけん引した。

 大会終了後、Vリーグで2年ぶりの優勝を目指すJTマーヴェラスで活躍中の林が、世界バレーでの収穫と課題、自らの成長について語った。



世界バレーで攻守にわたって活躍した林琴奈(中央)

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――世界バレー1次ラウンドの第4戦、強豪・ブラジルをセットカウント3-1で下した試合は素晴らしかったですね。

林 紗理那さんがケガした後の試合でしたから、チーム全体が「紗理那さんのために」となっていました。また一緒にコートに立てるよう、2次ラウンド、3次ラウンドになんとしても進みたかった。ひとつひとつの勝ちが重要だったので、そのブラジル戦は特に気持ちが入っていて、「絶対に勝とう」という熱量が高かったです。

――逆に2次ラウンド第2戦は、イタリア相手に1-3で敗れました。やはり若きエースのパオラ・エゴヌ選手の"高さ"が壁になったんでしょうか。

林 それもありますが、2次ラウンド初戦のベルギー戦からの連戦だったので、チーム全体に疲れが少し出ていたように思います。相手の粘り強いバレーについていけてなくて負けてしまった。ネーションズリーグでも見えた課題でしたが、体力面や精神的にも、もう少し成長していかないといけないですね。

――試合を見ている側としては、林選手個人はプレー時間が長くなってもほとんど動きが落ちていないと感じました。

林 私はこれまで、ラリーが長く続いたり、試合がフルセットまでいったりすると動きが鈍ることがあったのでスタミナに自信はなかったんです。そこは、今年度の代表ではポジションがライトだったことも関係していると思います。レフトは2段トスが集まることも多いので、足への負担は少し軽減したのかもしれません。もちろんトレーニングの成果もあったでしょうし、トレーナー、コーチの方々の選手に対する体や心のケアがあったからこそですが。

――3次ラウンド、準々決勝ではまたブラジル戦と対戦して2セットを先取。しかし追いつかれ、フルセットの大激闘の末に惜しくも敗退しました。

林 一度勝ったとはいえ、この試合は勢いを出していかないと勝てないとわかっていました。第1セット、第2セットは、スタッフも含めた全員の勢いがコートに出ていたと思います。

 でも、3セット目あたりから2段トスのミスや、フォローの遅れなど小さいミスが増えてきて、勝負どころで決めきれなかった。そういった細かい部分のミスで負けてしまったように思いますし、1点の重みをすごく実感した試合でした。

――緊迫した試合の終盤、林選手が2段トスを石川真佑選手に上げたものの、スパイクがネットを越えないことがありました。セッターがコート内にいない場面でしたが、プレーを振り返っていただけますか?

林 私はセッターの経験があまりないのですが、それでもしっかりと石川選手にトスを持っていこうと思ったんですけど......焦りが出てしまって少し低くなってしまった。石川選手の打点が生かせなかったので、あそこは余裕を持ってもう少し高くトスを上げたらよかったな、と反省しました。そういった経験を次につなげていきたいです。

――眞鍋政義監督はトスからスパイクまでの時間を0.8秒にすることを目標にしています。中田久美前監督の時から続いて高速化が大きなテーマになっていますが、アタッカー目線として速いトスはいかがですか?

林 私は速いトスのほうが好きなので、苦手ではないですね。

――日本代表でプレーするライトは、特に女子の場合はバックアタックがあまりないポジションです。守備も重視されますが、林選手はバックアタックを打つ場面もありますね。

林 そうですね。ネーションズリーグが終わってから「少し増やしていこう」という話はしていましたが、合わせる期間が短くて精度もあまりよくなかったので、うまく使えてはいませんでした。ただ、ライトからのバックアタックを試合中に1、2本決めるだけでも相手を揺さぶれると思うので精度を上げていきたいです。

――ちなみに、代表メンバーの中で仲がいい選手はいますか?

林 やっぱり同級生の関菜々巳選手と山田二千華選手とはよく一緒にいます。後輩だったら石川選手だったり、籾井あき選手だったり。代表メンバーはみんな仲がいいので、試合や練習を離れたところでも話をすることが多いです。

――同級生である関選手のトスはいかがですか?

林 最初はトスが合わなかったことも多かったですね。でも、大会中は同部屋で「(トスを)もう少し長くしてほしい」といったコミュニケーションを多く取っていたこともあって、大会が進むにつれてどんどん合っていったと思います。ふたりで映像を見ながら、「ここは、こうしたほうがいいね」などと話ができたのもよかったです。

――世界バレー全体を振り返って、満足感と悔しさ、どちらのほうが大きいですか?

林 準々決勝のブラジル戦を勝ちきれなかったことは本当にすごく悔しかったし、勝てた試合だったのであまり満足はしていません。でも、次につなげられる収穫はあったと思います。

――ネーションズリーグからでもいいですが、「ここは成長できた」と感じる点はありますか?

林 ネーションズリーグではまだサーブレシーブに少し不安定な部分がありましたが、世界バレーに入って安定していったように思います。オフェンス面では、高いブロックに対しての自信がつきましたね。強弱をつけたり、「どうやって決めたらいいか」というのも徐々にわかってきました。

――林選手の身長は173cm。海外チームと戦うとなると身長差はハンデになりますが、それを補うため、他に意識していることはありますか?

林 ブロックが2枚ついてしまう時などは、テンポを大事にしています。自分の助走を含めてスピード感を意識します。先ほど、「速いトスのほうが好き」と話しましたが、まさにその部分ですね。

――世界バレーでの活躍で、周囲から気づかれることは増えましたか?

林 私は影が薄いですから、あまりないです(笑)。でも、SNSなどで「日本のバレーを見て元気をもらえた」「バレーを始めてみようと思います」といった言葉をいただくことも増えたのでうれしいです。

――世界バレー終了後はVリーグ開幕まで少し時間があったと思いますが、オフの日はどのように過ごしますか?

林 YouTubeを見たり、動画アプリなどで日本のドラマを見ることが多いですね。大会中などは対戦相手の試合やデータをチェックもしますが、適度にリフレッシュしています。

――ちなみに、世界バレーの中継では林さんの好きな曲がフィーチャーされていましたね。

林 Saucy Dogさんの『優しさに溢れた世界で』ですね。試合前に聴くことも多くて、元気をもらっています。

――Vリーグ3連覇を狙った昨季は準優勝。今季に意識するチームはありますか?

林 (昨季の優勝チームの)久光スプリングスさんは意識しますが......もちろん、どこのチームにも勝ちたいです(笑)。チームではまたレフトでのプレーになりますが、大変でもやりがいのあることなので、楽しんで挑戦していきたいと思います。

――2024年にはパリ五輪も控えています。そこに向かっての意気込みをお願いします。

林 来年のパリ五輪の予選で出場切符を手に入れないといけませんが、まずはVリーグでしっかり結果を残すことが重要です。そして、チームとしてはまた優勝するという目標は変わらない。それを評価していただいて、来年度も代表に選ばれたら、絶対に勝ちたいですね。

【プロフィール】
林琴奈(はやし・ことな)

JTマーヴェラス所属。アウトサイドヒッター・173cm。1999年11月13日生まれ、京都府京都市出身。金蘭会高時代は主将として春高バレーで全国制覇し、MVPも受賞。JT入団後も内定選手の時から大事な試合で起用されるなど、攻守で安定したプレーを持ち味とする。日本代表には2020年に初登録。翌年の東京五輪は控え選手で出番が少なく、2022年度の日本代表ではレギュラーに定着した。世界選手権では、準々決勝のブラジル戦でチーム最多の21得点を挙げるなど代表になくてはならない存在となった。