今季のグランプリ(GP)シリーズの女子は、ロシア勢不在のなか、ファイナルを含めた全7戦中、日本勢が5戦で優勝を飾った。初出場のGPファイナルで女王になった三原舞依が3連勝。北京五輪銅メダルの坂本花織が1勝。そしてケガにより今季の試合を全休…

 今季のグランプリ(GP)シリーズの女子は、ロシア勢不在のなか、ファイナルを含めた全7戦中、日本勢が5戦で優勝を飾った。初出場のGPファイナルで女王になった三原舞依が3連勝。北京五輪銅メダルの坂本花織が1勝。そしてケガにより今季の試合を全休した樋口新葉の代役でGP初出場を果たした渡辺倫果が、初戦のスケートカナダでいきなりの逆転優勝を成し遂げて一躍シンデレラガールとなった。

 全日本選手権のタイトル争いは、この3人を中心に展開されそうだが、ジュニアGPファイナル女王になった14歳の島田麻央も、2つの大技ジャンプを武器に表彰台の一角を狙っているだろう。大会前日の21日は公式練習が行なわれ、有力選手たちが練習後に大会に向けて抱負や目標を語った。

 大会連覇が懸かる坂本は今季、調子の浮き沈みが激しい戦いを強いられてきた。オフシーズンからの練習量が不足したことが影響しているというが、生命線のスケーティングスピードと技やつなぎが盛りだくさんのプログラムを滑りきる体力が、今季前半戦はしっかり発揮できなかった。GP初戦のスケートアメリカでは優勝したものの、NHK杯では総合2位。GPファイナルではショートプログラム(SP)1位発進から、ジャンプミスが目立ったフリーで最下位となって、総合5位に沈んだ。



GPファイナルから全日本選手権に向けて調子を上げてきた坂本花織

 今季6試合目となる全日本選手権の公式練習では、曲かけも含めて、得点源となるダイナミックなジャンプが復調の兆しを見せており、スピードのあるスケーティングからキレのあるジャンプを次々と決めた。

「ファイナルが終わってから全日本までの1週間ですごく気持ちもリフレッシュできて、いい感じに切り替えられたので、今季で一番充実した期間を過ごせたなと思います。全日本に向けてはいま、前向きに捉えられています。短期間の調整でしたが、走り込みを結構頑張ったので、その成果が出てきているのかなという感じです。やっとプログラムのなかでも(最後まで)だいぶ跳べるようになってきたので、試合には何とか間に合わせられたかなと思います。

【三原舞依、体調は「何とかする」】

 今シーズンは散々な結果が多かったんですけど、GPファイナルを最後に『これきりにしたい』と言ったので、それを有言実行できるように、この全日本で『まだまだ自分はできるんだぞ』と言えるように、SPもフリーもしっかり揃えられたらいいなと思っています。全日本に向けて、今シーズンの中で一番調子を上げることができたので、試合がいまは楽しみだなという感覚です」

 坂本の連覇を阻む対抗馬は、今季大活躍中の三原舞依だろう。持病を悪化させて2019年-2020年シーズンを棒に振ったが、翌シーズンからは試合に出場しながら少しずつ体調を整えてきて、今季見事に復活を遂げた。心配な面は、GPファイナルから1週間という強行スケジュールからの体調と疲労の蓄積だ。21日の公式練習後、報道陣から体調を聞かれた三原は開口一番、苦笑いを浮かべながら「何とかします!(笑)」というコメントを残した。

「今年も全日本という舞台に立つことができるということがまず一番嬉しいです。大阪での全日本ということで、友達とかお知り合いの方がたくさん見に来てくださるので、しっかり自分がこれまで練習してきたすべてのことを出しきれたらいいなと思っています。(ファイナルでは)SPもフリーも完璧ではなかったので、全日本に向けては細かいところを意識して練習してきて、短時間ではあったのですけど、しっかりやりたい練習は積んでこれたかなと思っています。昨年の全日本から1年分の思いと、いままでスケートをしてきた10数年間分の練習をしっかり信じて楽しめたらいいなと思います。

 ワクワクした気持ちと楽しみな気持ちがすごくあるので、体のコンディションをしっかり整えて、あとは集中するだけなので、まだまだ上を目指して頑張りたいなと思います。

 ここに来るまでの練習は正直きつかったんですけど、(21日の)会場練習は結構よかったので、何とかするので大丈夫です。日本に帰国した次の日はオフにして体を休めたんですけど、なかなか疲れが取れない感じです。でも、それを表に出さないように自分をコントロールしたいです」

【今季、一番の飛躍を見せている渡辺倫果】

 全日本選手権の過去最高順位は3位。全日本タイトルを取る絶好のチャンスが来ていることは本人もわかっているのだろう。

「あまりプレッシャーとかはなく、ファイナルはファイナル、全日本は全日本と切り替えてくることができています。いままでの練習を信じて、全日本を楽しみにしてきたので、この空気、この緊張感を、全部ここでしか味わえないと思って楽しめたらいいなと思います。頑張った分だけ結果はついてくると思うので、しっかり自分のできることを全部出しきることが目標かなと思います」

 今大会の伏兵のひとりに挙げられるのは、今季一番の飛躍を見せた20歳の渡辺倫果だろう。国際大会初戦だったロンバルディア杯ではフリーで大技トリプルアクセル(3回転半ジャンプ)を成功させ、世界女王の坂本を抑えてSP2位から逆転優勝を成し遂げた。スケートカナダでGP初優勝し、NHK杯では気負いから空回りして総合5位になるも、滑り込みでGPファイナル進出を果たした。初めての大舞台ではSPからトリプルアクセルに挑んで自己ベストの72.58点を出して4位発進。フリーも3位と健闘したが、表彰台まであと1歩の総合4位だった。

 全日本でのこれまでの最高順位は昨季の6位。今年は是が非でも表彰台の一角に立ちたいところだろう。

「ファイナルが終わって、思ったよりも体の調子が悪くなかったと思っているので、今日の練習自体も曲かけも悪くなかったし、調子もぼちぼちいいほうかなと思っています。明日に照準を合わせて、今日またコンディション整えればいいかなと思っています。全日本までの練習では、トリプルアクセルの質にこだわるというよりも、どちらかと言えば他のジャンプを正確に跳べるようにする練習をこの1週間でやってきたので、その成果が出ればいいんじゃないかなと思います。

 昨年からまた違った立場だったり、感覚だったりで、全日本に臨む形にはなりますし、また新しい雰囲気で全日本に臨む形にはなるんじゃないかなと思っています。今シーズンの前半で得た経験というのは本当にすごくいいものでしたし、これからのスケート人生に役に立つんじゃないかと思うので、この経験を踏まえて、全日本も自分らしく、昨年の自分を越えられるように頑張って行けばいいんじゃないかなと思っています。

 四大陸選手権だったり、世界選手権だったり、大きな舞台にも出場したいという気持ちが今季初めて芽生えたので、表彰台を視野に入れつつ、昨年の自分を越えられるような立場になったと思っているので、本当に立場はこれまでとは全然違うかなと思ったりしています。それでも特に重たく感じることなく、自分らしさ全開でできたらいいんじゃないかなと思っています」

 試合を重ねるごとに着実に力をつけてきた今季だが、武器のトリプルアクセルをどう輝かせるかが、今後の課題になりそうだ。この全日本選手権の結果がこれからの渡辺がどう成長するかの試金石にもなるだろう。

 もうひとりのダークホースは、今季のジュニアGPファイナルを制覇した島田麻央だ。ジュニアとして初めて全日本選手権に出場する逸材が、シニア勢にどこまで対抗できるか。昨季は4回転トーループを成功させ、シーズン終盤にはトリプルアクセルも跳べるようになった。ジュニアGPシリーズ初参戦の今季は、フリーでこの大技2本を組み込んだ高難度の構成に挑戦。まだ完成度は高くないが、そう遠くない時期に同じ試合で2つの大技を成功させることができる能力の持ち主であることは間違いない。

「今シーズンは挑戦することを目標にしているので、挑戦する姿を見てもらいたいです。全日本では順位は気にせず、自分が満足いく演技をすることが目標です」
 
 こう意気込みを語った島田がSPからトリプルアクセルを成功させてくれば、一気に表彰台争いに加わってきそうだ。