2022年末の松山英樹インタビュー最終章

2022年は松山英樹にとってプロ転向から節目の10年目だった。紆余曲折のあった一年を振り返った単独インタビュー。ここまで「チャンピオンズディナー」、「LIVゴルフ」について語った全3編の最後は、故障に苦しんだシーズンの回想と、日本で台頭してきた若手選手へのメッセージ、そして自身の2023年への思いを言葉に込めた。

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度重なる故障

アジア勢最多の通算8勝

松山のトーナメントにおける2022年最高のハイライトと言えば、1月の「ソニーオープン」に尽きる。ラッセル・ヘンリーとのプレーオフを決したイーグル、18番(パー5)での第2打は松山のキャリアを振り返っても、燦然(さんぜん)と輝く一打になった。

「(前年10月の)ZOZOチャンピオンシップで優勝して、結構“やり切った感”が強くてオフは練習をあまりしなかった。だからすぐに勝てるとは思っていなかった。ましてや(相性の悪かった)ソニーオープン! 自分のゴルフがちゃんとできれば、そういうコースでも勝てると思えたのは自分の中で変わった、良い部分でした」

だが、その勢いは続かなかった。2週後、米国本土での「ファーマーズインシュランスオープン」で思わぬアクシデントが発生。トレーニング中に左足のすねを強打した。「傷口がきれいにふさがったのは1カ月半くらい経ってから。試合が続いて病院に行っていられなかった。トレーニングもまともにできず、ゴルフの状態も良くなかった」

2月25日に30歳になった。ディフェンディングチャンピオンとして臨む「マスターズ」を控え、本拠地のフロリダで別の故障を抱えたのはそのすぐ後だった。

故障に苦しんだ

アーノルド・パーマー招待の練習日にスイングが良くなってきたと思ったところで、2日目の朝、ウォーミングアップ中に『うわ、なんか首がおかしいな』と。ただ、これくらいならゴルフはできると思ってプレーした。今思えばあそこでやめておけば、長引かなかったかもしれない。今までもあったことだったから、甘く見ていたというか…。経験上、その週は軽いスイングをして、翌週のプレーヤーズ選手権の後のオフで治療できればと思った」

予想は悪い方に裏切られ、“第5のメジャー”を初日スタート前に棄権した。

「2013年に背中を痛めていた時と同じ感じ。これはちゃんと検査を受けなくてはいけないと思って、今田竜二さんにも良いドクターがいないか相談した。でも、大きな異常はなかった」

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春先に異変が

4週ぶりに試合に復帰したのはマスターズの前週。

「バレロテキサスオープンの練習日に痛みが再発して、全然ダメで。スタート前に痛み止めを打った。2日目は効果が途中で切れてきて、これが続いて長引いたら良くないと思って前半で棄権。オーガスタに行っても、月曜日はアプローチとパターをやるのが限界だった。金谷(拓実)、(中島)啓太と練習ラウンドを回って『何の価値も、内容もないゴルフしかできなくてごめんな…』と思っていた」

「マスターズはどれだけ痛くてもやると決めていた。ディフェンディング大会だし、オーガスタで棄権するわけにはいかない。徐々に痛みが取れてプレーはできるようになったが、優勝は無理だな…だという感じだった」

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9年連続で最終戦進出

本調子には程遠いゲームが続いた

再渡米して迎えた5月以降も、体調万全で臨めた試合は少なかった。6月の「全米オープン」最終日にベストスコア「65」をマークして4位に入ったが「なんだかんだで、うまくいった」という自己評価。7月に欧州に渡ると古傷の左手首にも痛みが出た。

「スコティッシュオープンくらいから手首の弱いところが出てしまった。米国に帰って、2週間のオフでしっかり治療しよう、壊れたゴルフももう一回作り直そうと思って良い状態で来ていたが、プレーオフ初戦(フェデックスセントジュード選手権)の直前にまた首をやった。『このくらいの“寝違え”なら、2日あれば治る』と思っていたが、治らなくて(欠場して)日本に帰って、(プレーオフ2戦目で)米国に戻った」

フェデックスカップポイントランキング上位30人によるシーズン最終戦「ツアー選手権」に、継続中の選手としては最長となる9年連続の進出を決めたが、それも「良かったけれど、(シーズン前半の)ZOZOチャンピオンシップとソニーオープンでの“貯金”が生きた」と振り返る。

自分への失望

9月の2022―23年シーズン開幕後も悩みは晴れていない。直近の11月「ケイデンス ヒューストンオープン」も途中棄権した。

「良い状態で会場に入っても、試合になるとなかなか…。これだけケアをしても痛くなるのは、首周りの体力が落ちているのかなと思う。バハマ(12月のヒーローワールドチャレンジ)を欠場して、練習とトレーニングをしたら落ち着いたが、ラウンドを続けると痛みが出る。休まないといけないのが続いている。これだけ長く(痛みが)出るとしんどい。最近の検査で『心配するほどではないが、ヘルニアのような部分がある』と言われた。ただ、ヘルニアのしびれなどの症状はない。どうアプローチするかが難しく、良くなったり、悪くなったりの繰り返し」

偶然かもしれないが、30代に入って思うようにプレーできていないのは事実だ。

「これが30歳になった難しさなのかなと勝手に思っているけれど、それは言い訳でしかなくて。自分の身体を把握しきれていない自分が悪い。体は昔と変わってきている。体が良くないと、やっぱりとゴルフってつまんない。思い切ってゴルフができないつらさがある」

まだ30歳と思える

加齢から目を背けることはできない。ただそれに絶望するわけでもない理由は、いっそうの高みへの渇望と、新たな出会いに恵まれたことにもある。

「シーズン中、(自宅のある)フロリダの練習場でめちゃくちゃ飛ぶゴルファーを見た。プロゴルファーかなと思ったら、シニアのドラコン選手。すごいなあと思って、話をすると『ポテンシャルはまだあるはず。一緒に頑張ろう』と声をかけてくれた。柔軟性も落ちてくる年齢。トレーニングの方法やスピードの上げ方を教えてもらったり、スイングを見てもらうこともあった。今までやってきた基礎に加えて、そういう別のことも取り入れられたら良いなって」

新シーズンを迎えるにあたり、学生時代に同世代の選手の1人だった黒宮幹仁コーチにも指導を仰ぐようになった。試行錯誤は続いている。

「痛みが出ないようにスイングを変えるのではなく、自分がしたいスイングをしていれば、痛みが出ないだろうというのが分かってきたような感じがする。今はそこにフォーカスしている。年齢的にも柔軟性も変わってきているから、同じことはできないと分かっているが、昔に近いスイングの形に持っていければいいのかなと。今まで方向転換を繰り返したけれど、自分の中で(考えが)固まってきたところがある」

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アマチュアの活躍は22年も

メジャーに一緒に出場する日本人はいつの間にか後輩ばかりに

松山が「ZOZO」と「東京五輪」を除いて日本でプレーしたのは2019年の「ダンロップフェニックス」が最後。コロナ禍の影響もあって、出場から遠ざかっている国内ツアーでは今年、20代の選手が躍動した。

「すごいですね。金谷から始まって、啓太もアマチュアで勝ってから良い流れが来ている」。2019年の金谷(三井住友VISA太平洋マスターズ)、21年の中島に続いて今年は蝉川泰果が「パナソニックオープン」で史上6人目のアマチュア優勝を達成。蝉川はさらに「日本オープン」をアマとして95年ぶりに制覇した。

「勝つことがまず、すごいと思う。金谷も啓太も蝉川くんも、彼ら自身がやってきたことを、自分で信じられる力がある。ただ、プロの立場から言わせてもらうと、アマチュアに勝たせてはいけないとも思う。(石川)遼なんかもちょうど悩んでいる時期が重なって、プロとしてのプライドをガンガン見せつけられる試合が少ないのかもしれない。めっちゃ、失礼な言い方ですけどね…」

後輩たちの姿勢が頼もしい

賞金王に輝いた比嘉一貴は同じ東北福祉大OBで、目をかけてきた一人でもあるから、向ける視線はいっそう厳しい。

「日本オープンは蝉川くんに歴史を作ってもらいたい気持ちもあったが、僕は一貴に(逆転して)勝てと思っていた。(最終日のスタート時に)6打差あろうが関係ないと。早藤(将太キャディ)に『どっちが勝つと思います?』と言われて、僕は『蝉川くんが出だしから無難にパー、パー、パーとかで行ったら、そのまま勝つ。でも逆にバーディ、バーディという具合だったら危ないよ』と答えた。本当に(1番、2番で)バーディ、バーディで出て、(9番で)トリプルボギーを打ったでしょう。結果を後から見て『ゴルフはやっぱりそうなるんだな』と思った。一貴にとっては、そこで詰められるかが大事だった。本人は分かっているはずです」

「リキ(河本力)も動画を見た。本当に飛ぶ。彼も若いから振れる。良い時、悪い時がハッキリしているタイプで、これから自分をさらに、どう理解して、どうなっていくか。プロとしてやればやるほど、良いことばかりじゃない。悪いことも増えてくる。でもとりあえず、まだそんなこと考えずにやってほしい。(悪いものが)蓄積された時にどう考えるか」

若手の台頭、なぜ

切磋琢磨する20代の選手たちを引っ張る2人

日本ツアーでの20代前半の選手が活躍する理由を、松山はこう解釈している。

「たくさんの選手が世界を目指すようになったから、『こんなところで立ち止まっちゃいけない』と思うようになったのでは。ナショナルチームが変わって、考え方が変わったのもあるのでは。何人が『日本ツアーでは終わらないぞ』と思っているか知らないが、そういうマインドは大事だと思う。僕はそう思ったから、米国で勝てたと思っている」

「彼らなら乗り越えられる」

振り返れば、彼らの世代をけん引する金谷、中島にとって2022年は思うような結果を残せず、苦しかった一年かもしれない。

「金谷は壁にぶち当たるだろうな…と思っていた。でも、彼も常に自分なりに考えている。この前も『どう思います?』『こういう感じはありますか?』と聞かれた。悩みを解決したい気持ちは強いし、それを越えていかないといけない。啓太だって、そんなに問題があるとは思わない。周りも期待しすぎ。彼にも彼のゴルフがある。プロになって、好成績が出ていないわけじゃないでしょう。世界アマチュアランク1位になって、勝つことを知っている。予選落ちをほとんどしないし、それはすごく大事なこと。コツをつかんだら、すぐに勝つはず」

「彼らは(22年は苦しんだが)、同世代の中でもずっと先を行っていると思う。全員に同じだけ期待したいが、悩みのレベルが(2人は)違う。金谷はプロのレベルの高さを感じて、自分でどう変わろうか、どう“ぶち抜けるか”と考えている。プロになって間もない啓太も自分のチームにいろんなことを任せながら頑張ればいい」

譲らない

松山のPGAツアー本格参戦10年目のシーズンは、故障と向き合う時間が続きそう。不安も焦りもある自分を正直に認めながら、心を奮い立たせようと必死だ。

「若い選手が出てくるのは良いことだと思うけど、負けるつもりは毛頭ないから。40(歳)くらいまで、抜かせるつもりはない。10年間、米国でやってきたプライドもある。それが邪魔している部分もあるけれど、まだまだやんなきゃいけない」

「皆がPGAツアーに来てくれたらラクだし、きっと楽しい。一緒に移動したりすることもある。僕が米国に来た時、上の世代の選手がいなかった。今の韓国人選手はKJ(チェ・キョンジュ)さんがずっといるところに若手が入ってきて、良い循環が生まれた。プレジデンツカップでは“チーム韓国”ができていた(※イ・キョンフンキム・シウーイム・ソンジェトム・キムが出場)。いつか日本人でも、できたらいいなと思う」

(聞き手・構成/桂川洋一)

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