新たな100年へ、前年度王者は巻き返しを図れるのか?冬の風物詩、全国高校サッカー選手権大会。第101回大会となる今年度は…
新たな100年へ、前年度王者は巻き返しを図れるのか?冬の風物詩、全国高校サッカー選手権大会。第101回大会となる今年度は、直近数大会と少々毛色が違う。理由は単純明快。ここまで4大会連続、過去6大会で3度の全国制覇を達成した王者・青森山田(青森)がシーズンを通して苦戦を強いられたからだ。それだけではない。同校を率いて28年、数々の実績を残してきた黒田剛監督が10月、今年度限りでの退任を発表。新監督とともに連覇への戦いに挑もうとしている。短期トーナメントに大きな影響を与えるであろう王者の動向。そこで今回は、同校のここまでの戦いと現状をおさらいしよう。
■リーグ戦、インハイで結果を残せず
夏のインターハイ、高円宮杯U-18プレミアリーグEAST、冬の選手権と“三冠”を達成したのは昨シーズンのことだ。ところが今年はいずれも苦戦続きだった。リーグでは開幕3連勝を飾り、「やはり強し!」という印象を与えたが、そこからまさかの5連敗。Jユースのテクニックと戦略的ハイプレス、高体連強豪校のインテンシティに対抗し得る強度を欠いたチームは、早くも優勝戦線からの離脱を強いられた。さらにインターハイでは、2回戦で帝京(東京)と相対し、逆転負けでまさかの初戦敗退。昨季、圧倒的な強さで蹂躙してみせた2つのフィールドは苦い記憶として新チームに植え付けられることとなった。
■カギとなる“代替わり後の戦力維持”
今季の苦戦を語る上で欠かせないのが、中心選手を昨季から継続して引き継げなかったことだろう。1年ごとに代が入れ替わる高校サッカー部は元来、3年生卒業後に新たなチーム編成が必須となる。最近ではBチームをリーグ戦へ参加させたり、中体連との連携を強化するなど、チーム力の維持、ボトムアップのためにあの手この手を尽くしている。青森山田に関して言えば、これらの施策をいち早く行ってきたパイオニア的存在だ。中等部は全国大会で優勝を争う強豪であり、高等部の主力メンバーのほとんどは内部進学組が名を連ねてきた。さらに、セカンドチームはプレミアリーグの1つ下のカテゴリー、プリンスリーグ東北で毎年のように優勝争いに絡んでいる。そして、三冠を達成した昨季のイレブンのうち、ドイスボランチの松木玖生(現・FC東京)と宇野禅斗(現・FC町田ゼルビア)、1トップのFW名須川真光(現・順天堂大)は下級生時からスタメンとしてセンターラインを担ってきたことで、近年のベースは強固であり続けていた。
「史上最強」とまで称された昨年度からのスケールダウンは否めない。柴崎岳(現・レガネス)、高橋壱晟(現・ジェフユナイテッド千葉)、郷家友太(現・ベガルタ仙台)、檀崎竜孔(現・ブリスベンロアー)、武田英寿(現・大宮アルディージャ)、そして松木ら「次期エース」として下級生時から中核を担った選手はいない。例えば、キャプテンのDF多久島良紀は1年生からメンバー入りを果たし、2年生時にはロングスローを放てる左サイドバックとしてレギュラーを掴んだ。しかし、昨年11月の膝前十字靱帯断裂の大怪我で長期離脱を余儀なくされた。多久島に代わってポジションを任されたMF中山竜之介は、今季から本職のボランチに戻ったが、松木&宇野の先輩コンビと比べると物足りないのが現実だ。昨年度選手権で途中出場ながら5試合3得点を記録した現エースFW小湊絆も先輩からの手厚いサポートを失い、さらに重責を背負いながらゴールから遠ざかったことで苦戦を口にしていた。
■高校サッカー屈指の名将が勇退へ
加えて、迎える今年度の選手権は「指揮官交代」という青森山田にとって過去28年間経験してこなかった状況下で迎えることとなる。青森県大会26連覇、選手権3回、インターハイ2回と計5回の全国制覇。育成年代最高峰の高円宮杯U-18プレミアリーグでも2回も王者に導いた(2021年度はファイナルが開催されずEAST優勝)。在任28年間で全国屈指の強豪校を作り上げ、2023年から黒田剛監督はJ2、FC町田ゼルビアの監督に就任する。選手権では“総監督”としてベンチ入りはするが、正木昌宣氏が新監督として采配を振るうことが決定している。新たな指揮官の下、選手たちがどのような戦いを繰り広げるかも注目すべきポイントだ。
■選手権・青森大会決勝で延長決着に
今年の青森大会決勝も「青森山田vs野辺地西」と近年同様のカードとなった。前半、得意のセットプレーの流れから、三橋春希のヘディングで先制する。その後もエース・小湊絆を中心に攻めるが、中々追加点を奪うことができない。すると後半に入り、野辺地西に直接フリーキックを決められてしまい、1-1の同点で80分が終了する。(地区大会は40分ハーフで行われる。)その後延長戦で小湊の決勝ゴールで勝利。毎年苦しめられる難敵・野辺地西に今年は延長戦での勝利となった。
青森山田の地方大会決勝はこちらから
■それでも優勝候補である理由
1年を通じて苦戦を強いられてきた。指揮官も交代する。だが、やはり青森山田に地力があることは間違いない。プレミアリーグEASTでは上述の5連敗も響き優勝を逃したが、終盤に盛り返し高体連最高位の4位でフィニッシュ。負けることが許されない青森県予選は1-1のまま決着つかず延長戦へ。それでも延長後半、チーム一丸でボールをつなぐと、最後は小湊が流し込み死闘を制した。どんな形であれ、一発勝負で勝ち切る底力こそ青森山田が持つ強さの象徴だ。チームとして過密日程のトーナメントを勝ち抜く術も熟知しており、これまで波乱を呼んできた「40分ハーフ即PK戦」(準決勝から45分ハーフ、決勝は延長戦あり)というレギュレーションにも問題なく対応できるはずだ。
これまでも選手権ではポテンシャルを覚醒させる選手、チームが誕生してきた。いつもは追われる立場の青森山田だが、苦しみ抜き、未だ本領を発揮できていない今だからこそ、その覚醒に期待せざるを得ない。
注目選手
FW:小湊絆…松木玖生(FC東京)、柴崎岳(レガネス)ら偉大な先輩が付けてきた青森山田の背番号「10」を受け継いだ男。類まれな得点能力でチームのエースとして躍動する。DFの背後を狙うプレーを繰り返し、ゴールの匂いを生み出すストライカーだ。今シーズンは怪我の多久島良紀に代わり、キャプテンとしてチームを引っ張っている。
DF:多久島良紀…3冠を達成した昨シーズンのチームで怪我をするまではレギュラーとして躍動した左サイドバック。恵まれた体格によるタフなプレーが特徴だ。今年はキャプテンを務めるなど、チームに必要不可欠な存在だ。