ホセ・オスナは努力の人であり、仲間思いの人間である。ベネズエラ出身の30歳は、アメリカではピッツバーグ・パイレーツ傘下…

 ホセ・オスナは努力の人であり、仲間思いの人間である。ベネズエラ出身の30歳は、アメリカではピッツバーグ・パイレーツ傘下のマイナー球団で8年。その後、メジャーに昇格すると控え選手として4年。そして昨年「異国であっても、レギュラー選手として野球ができるチャンス」と、迷うことなくヤクルト入りを決めた。



日本シリーズで打率.367、2本塁打、8打点をマークし、敢闘賞を受賞したオスナ

【チーム一丸の精神】

 オスナは「ミンゴ(ドミンゴ・サンタナの愛称)と一緒に神宮球場に入った時は、本当に新鮮な気持ちでした」と、すぐにチームに溶け込んだ。

「あいさつの時は、まだみんなの名前を知らなかったけど、どの選手も親しみやすく、すぐ仲良くなれると思いました。チームに入団して数カ月ですけど、ずっと前から一緒にいるようです」

 来日してまもない頃、オスナはそう語っていた。チームスポーツとしての野球とベースボールの違いについて、「メジャーは単純に言えば、自分が活躍して勝利に貢献するという意識です」と話し、こう続けた。

「日本はチームが一丸となって戦っていると感じています。代打でのバントや、個人成績に反映されないこともあるのですが、みんなで『次の1点をとる。次の失点を防ぐ』という同じ目的で勝利に向かっています。自分の調子がよくない時にはほかの選手がカバーしてくれる。そのスタイルは新鮮ですし、好きなところです」

 今年オリックスとの日本シリーズでは、オスナの「チーム一丸」という意識はより鮮明となった。打撃では状況に応じて走者を進めるバッティングに徹し、なにより強く印象に残ったのは、中継ぎの木澤尚文がピンチを迎えた場面で、オスナがひとりでマウンドに駆け寄った姿だった。

 木澤はその時のことを振り返り、「ものすごくありがたかったです」と話した。

「英語だったのですが、『キミのファストボールは十分なスピードがあるから、際どいところを狙いすぎずにゾーンに投げ込んでゴロを打たせればいいんだ』と。外国人選手のほうから声をかけてくれることはなかなかないことでしょうし、言い方は誤解を招くかもしれないですけど、勝利に飢えている選手がチームにいるということもありがたいと思っています」

 オスナは日本シリーズで初先発したルーキーの山下輝にも、プレーボール直前にマウンドに歩み寄り、「リラックス、リラックス」と、自らの分厚い胸板を叩いて励ました。

 青木宣親はオスナが来日してから、野球のことはもちろん、メンタル面でのケアもしてきた。

「オスナはすごく性格がよくて、僕らに対しても気を遣ったりするんですよ。みんなといる場所で『この音楽かけてもいいかな』と、まず聞いてきますから。好きにしていいよと言っても、『スパニッシュだけど大丈夫かな』と(笑)。僕がこれまで接してきた外国人選手はあまりそういう感じではなく、自分からバンバン好きな音楽をかけていた。オスナは一歩引くというか、そんな性格をしていますね」

【大松コーチが語るオスナ】

 打者としてのオスナは「日本の野球はピッチャーがいろいろな手段で打者のタイミングをずらそうとしてきます。そこにどう対応するか。文化の違いもありますが、基本的にはどの国でも野球は野球です」と、室内で早出練習をするなど努力を怠ることはなかった。

2021年/120試合/打率.258/13本塁打/60打点/出塁率.293/OPS.694
2022年/138試合/打率.272/20本塁打/74打点/出塁率.312/OPS.751

 オスナが2シーズンで残した数字には、研究や苦労のあとがにじみ出ていて、外国人選手に使う表現としては適切ではないかもしれないが、打者として成長のあとがうかがえた。

 オスナは自身の成長について、次のように語る。

「コーチ陣だけでなく、サンタナやムネ(村上宗隆)たちとも打撃について話をし、勉強になっています。いろんな方のアドバイスを受け止め、これは自分にとって有効だなとか、工夫すべきとか、そういったことを日々、積み重ねています」

 大松尚逸打撃コーチにオスナのここまでのバッティングについて話を聞いた。今シーズンから一軍の指導者となり、オスナとは「どうすればいい方向にいくのか」ということを、早出練習などで話し合っているという。オスナを初めて見たのは去年の4月だった。

「当時、僕は二軍コーチだったのですが、来日後、オスナが調整で戸田に来たことがあったんです。第一印象は、バットが内から出ていて、インコースの球も右中間に長打が打てる。力もあり、うまさも兼ね備えているので打率も残すだろうなと。そう感じたことを覚えています」

 その見立てどおり、オスナは4月から7月まで打率は3割を超え、本塁打も9本放った。しかし、8月からの3カ月で打率1割台と急激に数字を落とした。

「打てるところ、打てないところのデータはすぐ出ます。去年については、技術以外は想像でしかないですが、メンタルや体力......たとえば自分の体がどう変化して、バッティングのコンディションがどうなっていくのかを感じたと思うんです。最初はフレッシュな状態で来日したが、毎日試合に出ることになり、移動やナイター翌日のデーゲームなどもあった。彼はアメリカで、年間500から600打席を消化していなかったと思うので、そこは大きかったんじゃないでしょうか」(大松コーチ)

【来季3割、30本塁打の期待】

 オスナは今年から新たに3年契約を結んだが、シーズンが開幕しても調子が上がらず、5月22日の時点では打率.201まで落ち込んだ。大松コーチが振り返る。

「春のキャンプからしっかり見ることになったのですが、初めて戸田で見た時の印象とは違っていました。引っ張ることへの執着が強くて、大きいのを打ちたいんだろうなと。やっぱり日本の球場で1年間プレーしたら、ましてホームが神宮というのもありますし、そのことでフォームが崩れるというか、要するに低めの変化球にバットが止まらない。それが前半戦はそのまま結果として出ましたよね」

 オスナと大松コーチは前半戦の早い段階で、構え方、下半身のパワーポジション、意識するポイントなどについて話し合いを重ねた。シーズンが進むにつれ調子を上げ、CS(クライマックス・シリーズ)ファイナルではMVPを獲得。日本シリーズでも敢闘賞に選出された。

「何が変わったかといえば、一番は我慢できるようになったこと。自分のなかで振りにいっていい球、いかなくてもいい球を選球できるようになった。日本のバッテリーの配球への慣れもあるかと思います。そうなってくると、彼の持ち味は反対方向へ強い打球を打てることで、それが増えるということはバットの軌道もよくなっているということです」

 練習におけるティー打撃では、日本流のスタイルを取り入れた。

「変化を怖がらないですよね。自分のスタイルを持ちながら、取り入れられることは取り入れる。『もっとこういう感じで打ちたい』と、自分の動画をずっと見ています。よくなるためにはどうすればいいのか、どんな練習があるのか、こういう練習はどうか......こっちとしては『もうちょっと絞れば?』と思うこともありますが、本人の考えを尊重して見守っています(笑)」

 じつに研究熱心なオスナだが、大松コーチが正面に立ってトスを上げるティー打撃だけは、「ノーサンキュー」と断り続けているという。

「トライしたいけど、自信がないと。逆に、ボールを引っかけて私にぶつけてしまう自信はあるそうで、家族ができたばかりの人にそういうことはできないと言って断ってきます(笑)。僕は若い選手にもなるべく正面からトスするようにしているのですが、極端な話、正面に立たれると打ちづらいと思います。でも、だからこそバットが内から出るようになります」

 やがて大松コーチは、ベネズエラの心優しきバットマンを説得することに成功した。

「ずっと内から出していたらボールが滑ってしまう。そのなかでどうすれば厚みのある打球を打てるのか。正面から投げると自ずとそういうポイントがわかってくるので、若い選手にはそう説明しています。

 ただ、オスナの場合は反対方向へのイメージがすごく湧くみたいで、それができるようになるとバットや体の入り方がよくなって、インコースの球を自然に引っ張れるようになる。以前は引っ張る軌道でバットが出てくるから、ファウルになったり、こすってフライになったりしていました」

 大松コーチは、来シーズンのオスナについてこう期待する。

「今年の後半くらいの配球の読みや我慢強さがあれば、打率3割、30本くらいはやってくれるでしょう。オスナやサンタナが好調でいてくれると、前を打つムネ(村上)の負担も減るので、打線としてこれ以上のことはないですよね。いずれにしても、間違いなくバッティングはつかんでいますし、自分のなかで『こうしたい』という構想を描いて、来年また来日してくれると思っています」

 今シーズン、リーグ優勝後の記者会見でオスナの感慨深そうな表情が、今も強く印象に残っている。

「スワローズに在籍して、どのシーズンも優勝できたのは自分にとっても誇りで、素直にうれしいです。ビールかけはとても楽しく、もうちょっとみんなで飲めたら......もったいないなと思いながら、一生忘れられない貴重な経験でした」

 チームにとってかけがいのないプレーヤーとして、オスナは来季も全力プレーを見せてくれるはずだ。