大会前のブックメーカーなどの下馬評では、アルゼンチンがブラジルに次ぐ2番人気で、フランスは3番人気だった。アルゼンチン…
大会前のブックメーカーなどの下馬評では、アルゼンチンがブラジルに次ぐ2番人気で、フランスは3番人気だった。アルゼンチン対フランスの決勝は、2番人気対3番人気の一戦になる。1番人気のブラジルが、馬券でいうところの軸になるほど強力な存在ではなかったので、アルゼンチン対フランスは至極、順当な決勝カードになる。
しかし、この2チームの名前をいまあらためて目の前に突きつけられると、他の組み合わせも見たかったと、欲深い思いにもかられる。それほど今大会は、紙一重の戦いが続いている。この決勝も接戦を期待したい。

W杯連覇と大会得点王をかけて決勝を戦うキリアン・エムパベ(フランス)
サウジアラビアに1-2。アルゼンチンはグループリーグを敗戦でスタートした。サウジアラビアがよかったことも確かだが、それ以上にアルゼンチンが悪い試合をした。アルゼンチンの人気はこの時点で6、7番手まで後退。そこからの巻き返しである。
メキシコ(2-0)、ポーランド(2-0)、オーストラリア(2-1)、オランダ(2-2、延長PK戦)、クロアチア(3-0)。準々決勝でオランダにPK戦勝ちしたことが、準決勝クロアチア戦への弾みになった。
オランダ戦はよくも悪くもアルゼンチンの本領が発揮された試合だった。ずる賢さ。その狡猾で喧嘩っぽいプレー抜きに勝因は語れない。ごちゃごちゃっとした展開から、悪く言えば泥棒のように抜け目なくゴールを奪う。今回のアルゼンチンには、同国のかつてのサッカー気質を彷彿とさせる古典的な匂いが漂う。その水色と白のストライプに爽やかなイメージを抱くことはない。
チームの中心はいまだリオネル・メッシだ。準決勝まで彼は最多タイの5ゴールをマークしているが、90分を通しての存在感は、これまで出場したW杯のなかで最も薄い。限られたエネルギーを効率的に消費しているという印象である。
代表チームでは若い頃、中盤の深い位置まで下がって、ポジションのないフリーマンのように広範囲に動き回った。すべての攻撃はメッシ経由で生まれたと言ってもいいぐらいだった。今回も、ボールほしさに下がって受けることはある。だが、その頻度は大きく減った。高い位置で虎視眈々と決定的なプレーを狙う、まさに省エネプレーが奏功している。
【フランスの中心はグリーズマン】
チームのバランスもその分、よくなった。相手ボール時に穴ができにくくなっている。これまでの6試合を通して、メッシとその周辺のバランスは試合ごとによくなっている。決勝に向けて好材料である。
アルゼンチン対フランス。直近の対戦は4年半前、カザンで行なわれたロシアW杯決勝トーナメント1回戦だ。スコアは4-3。フランスが撃ち合いを制した一戦である。現在も主力として残っているのはアルゼンチンがメッシ、ニコラス・オタメンディ、ニコラス・タリアフィコの3人であるのに対し、フランスはキリアン・エムバペ、アントワーヌ・グリーズマン、オリビエ・ジルー、ラファエル・バラン、ウーゴ・ロリスの5人だ。アタッカーに目を転じればその関係は1対3になる。アルゼンチンがメッシひとりなのに対し、フランスは4-2-3-1の前4人のうち3人が健在だ。
だが、サッカーの中身は4年半前とかなり変わっている。前回は攻撃がエムバペの推進力に頼る傾向があったが、今回は4-2-3-1の3の左にきれいに収まっている。新しく加わったウスマン・デンベレとエムバペが大きく開いて構える左右両ウイングを形成。その真ん中の広いエリアでグリーズマンがパッサーとして展開力を発揮するサッカーだ。
エムバペ対メッシ。見出しはそうなりがちだが、今回4-2-3-1の1トップ下がハマり役になっているグリーズマンをどう止めるかが、アルゼンチンには重要な問題になる。中心はグリーズマン。エムバペはあくまでも脇役だ。
それでいながらエムバペはこれまで5ゴールを挙げ、メッシと得点ランク1位の座に並んでいる。そうした意味でアルゼンチンより多彩だ。大きな左右の展開で相手の目を驚かせておき、そのうえにエムバペのスピードが加わるという感じ。引き合いに出したくないが、縦方向しかなく、非立体的な動きになりがちな日本のスピード系アタッカーとの違いでもある。エムバペというスピード系選手の生かし方に、前回より細工が利いている。
【サポーターの数はアルゼンチンが圧倒】
4-2-3-1を堅持し、ポジションワークを保ちバランスにこだわりながらプレーするフランス。穴がないのである。メッシが穴になる可能性を秘めるアルゼンチンとの違いでもある。
実力的には3-1でフランスと見る。両者間には1.5点~2点ぐらいの差がある。4-3という、スコア的には大接戦に見えた前回の一戦も、同程度の差を感じたものだ。
それが競った試合になった理由はサポーターの数の差だ。カザンに駆けつけた両軍ファンは、アルゼンチン10に対しフランス1。フランスファンはこちらが心配になるほど少なかった。今回もその傾向に変わりはない。準決勝モロッコ戦でもフランスのファンは少なかった。モロッコファン10に対しフランス1だった。
一方、アルゼンチンサポーターの姿は目立つ。準々決勝のオランダ戦は、オレンジ1に対しアルゼンチンは10だった。準決勝のクロアチア戦は3対10。勝敗を分けたポイントと見る。
決勝の舞台となる約9万人を収容する巨大スタジアムは、文字通りすり鉢状になっていて、サポーターの声援はスタンド内に激しく反響する。筆者は、ともに同じルサイルで行なわれたクロアチア戦、オランダ戦で体験済みだ。アルゼンチンのホーム色が強く反映された舞台になるはずだ。その半分以上は、アルゼンチン本国からやってきたアルゼンチン人ではない。地元のカタール人、およびドーハを訪れているアラビア語を話す観光客だ。彼らのメッシ人気は凄まじい。
母親がアラビア語圏のアルジェリア出身のエムバペのほうが、人気は高いのではないかいうこちらの見立ては誤っていた。メッシ人気、恐るべし。それを痛感している毎日だ。
実力ではフランスがアルゼンチンを上回るとみるが、スタンドのホーム色が、その差を幾ばくか補うのではないか。4年半前、カザンで見た一戦が筆者の脳裏をよぎるのである。