アイスホッケー(以下IH)復活のカギは、関係者全ての熱量。大学IH界を牽引する東洋大・鈴木貴人監督は、原点回帰の重要性を語る。「下部カテゴリーの存在も重要になる」と考える中、今季関東大学リーグ4部だった千葉大IH部へも大きな期待を抱いている…

アイスホッケー(以下IH)復活のカギは、関係者全ての熱量。

大学IH界を牽引する東洋大・鈴木貴人監督は、原点回帰の重要性を語る。「下部カテゴリーの存在も重要になる」と考える中、今季関東大学リーグ4部だった千葉大IH部へも大きな期待を抱いている。

下部リーグの活動こそが日本IH界の未来を担っている。

~アイスホッケーにおける技術と熱量は別モノ

東洋大は今季の関東大学IHリーグ1部を制覇、確固たる地位を築きつつある。学生代表として参戦する全日本選手権では、格上に当たるトップリーグ・チーム撃破を常に狙っている。

 

関東大学IHリーグは、東洋大が在籍する1部から5部までカテゴリー分けされている。1部のレベルは高く、国内トップリーグであるアジアリーグへも選手を送り出している。世代別やフルの日本代表へ招集される選手も多い、特別なカテゴリーとも言える。

 

「IHは氷の上でやる特殊スキルが重要な競技なので、小さい頃から始めた選手がアドバンテージを持っているのは変えられない。下部リーグでは大学からIHを始める学生も多い。積み重ねが違うので技術に差があるのは当然。そこに関してはIHに出会うのが早いか遅いか、の違いだけです」

 

「4年間でIHをやり切る、という部分は同じ。学生によってはIHは大学で最後なので、勝ち負けとは異なるモチベーションもある。仲間と目標を共有して向かっていく。1部だろうが4部だろうが、そこの熱量は変わらない。千葉大を仲間、同志だと思っているのは本音です」

学生たちのIHに対する熱量は誰もが変わらない。

~大学アイスホッケーの未来に小さな光が見え始めている

日本IH界激動の時代をリアルタイムで経験している。東洋大3年時に日本代表に初選出、ケガのため1998年の長野五輪出場は叶わなかったものの中心選手となった。その後も多くの国際試合で活躍、国内外で多くの実績を残した。現役引退後は東洋大監督の他、17年の2-5月には日本代表監督も任された。

 

「注目度も高まりつつあり、国内IH界は右肩上がりに伸びていくと確信していた。自分自身は全力を注いで結果を出し続けようと思っていた。しかし状況が悪化し始めるとあっという間でした。現役晩年時には、現状のような暗中模索な感じでした」

 

国内IH界へ追い風が吹いていた時期もあったが、時間ととも状況は変化した。中心を担った企業は次々と撤退、多くのチームがクラブチーム等へ移行した。選手の待遇面は悪化する一方で、セカンドキャリアの問題がつきまとう。学生内にはトップリーグへ進むことへの不安も蔓延し始めた。

 

「『トップリーグ(=アジアリーグ)に行きたい』と言い出せない雰囲気が出始めた。時代の変化とはいえ、愕然としました。大学トップレベルの選手が次のカテゴリーに行かなければ、IHはどんどん先細りになります」

 

高校関係者などからは、「大学へ行っておけば卒業後、就職の保証にもなる」という声も聞こえてくるほど。「大学までIHをプレーした後は一般企業へ就職するのが現実的」という考え方をする人も増えた。

 

「トップリーグでは資金難などで存続できないチームが続出した。しかし大学スポーツは教育の一環でもある。不祥事等での活動停止はあっても、部自体が無くなることは皆無に近い。東洋大はスポーツに理解があるので資金を投資してくれているのも大きい。IHを継続できて学歴も付くという部分では、大学進学希望者は増えています」

 

ここへきて少しずつだが状況にも変化が生じている。東洋大内ではトップリーグを進路に考える学生も増え始めている。大学IH界への追い風が吹き始めたようにも感じる。

 

「『上のカテゴリーでやれるための準備はしよう』と言い続けてきた。チームとして継続的に良い結果も出ています。自分の実力に自信を持ち始め、トップリーグへ行く学生も増え始めました。少しずつ好循環になりつつあります。だからこそ大学IH界にとって大事な時期です」

東洋大・鈴木貴人監督は、選手として日本代表で活躍、現役引退後は代表監督も務めた。

~関東大学IHリーグOB会ができたら面白い

日本IH界が低迷しているのは理解している。ありきたりだが、復興するには関わる人間の思いの強さが大切。中でも大学IH界の盛り上がりが重要で、上位校のみでなく全ての大学、学生が鍵を握っていると感じている。

 

「関東大学IHリーグには大きな可能性を感じます。政財界に多数の人材を輩出するような大学から、医科、歯科、薬科など専門的人材を生み出す大学まで、幅広いジャンルが参加している。1部から5部まで計38チーム(今季)が参加するリーグ規模の大きさには夢が溢れています」

 

「下部リーグまで多くのチームがあるのでOBも多くなり、そこから広がる。例えば東洋大のチームドクター関係者には、医大生の頃に一緒に練習をした人がいます。大学からIHを始めた方で、当時、生意気ながらアドバイスさせてもらった。今でも手伝ってもらえているなんて、素晴らしい出会いで縁を感じます。当時の話をしたりもします」

 

「千葉大もそうですが、大学進学後からでもIHを始められる土壌があるのは素晴らしい。以前のIH界は北海道や東北など北国出身者というのがスタンダードでした。そこに色々な人材が加わることで幅が広がります。またIH経験があれば、学生たちが親になった時に子供にプレーさせるきっかけにもなります」

 

「IH界から様々な人材が生まれることが全体の普及、強化につながるはずです。特に関東大学IHリーグは様々な知識を持っている方が多く、色々とサポートしてもらえます。関東大学IHリーグOB会みたいなのができたら、すごいパワーが生まれると思います。千葉大OBなら卒業後、幅広い分野で活躍されているはずですから」

氷に乗れる環境を作り出すことが、千葉大IH部躍進の鍵を握る。

~頭、フットワークを使って環境を作り出すしかない

東洋大と千葉大ではカテゴリー差通り、取り巻く状況に大きな違いがある。資金面はもちろん、リクルート、練習環境、学生生活まで全てが異なる。しかしその中でも少しの工夫で変えられることはある。百戦錬磨の鈴木氏から千葉大へ建設的なアドバイスをもらった。

 

「氷に乗れる環境を作り出せるかの差は大きいので、そこをどうやって埋めるかが一番重要です。アイスリンク使用料等のコストを考えれば、氷に乗る回数を飛躍的に増やすのは難しいかもしれない。インラインスケートを活用するなど、頭、フットワークを使って環境を作り出すことが重要です」

 

「部員数についてです。怪我人、大学の授業、部費等の費用、チーム内競争など、様々なことを考慮する必要がある。例えば1部のベンチ入りは22人なので、各学年7人程度、部全体で27-8人体制が適正。千葉大が部員30人前後だった時期に結果が出ていたのも納得します(2019年に5部、翌20年に4部優勝)。その位の部員が集まれば、さらに上を狙えると思います」

部員数など現実問題もあるが、クラファンなど新たな試みを駆使して前進する。

千葉大が運営活動費を集めるために10月末から開始したクラウドファンディング(以下クラファン)についても、動向を気にかけている。大学部活動が抱える問題に対する解決策の1つとして期待をしている。

 

「千葉大のクラファンは素晴らしい試み。東洋大は強化費などは充実している。でもプロと違うので、コーチングスタッフなどは他の仕事との掛け持ちで負担をかけている。そういった課題を解決しようと模索しています。クラファンは、うちや他大学にとって大きなヒントになると思います」

~社会人としては1部のカテゴリーで戦える

かつて日本IH界の未来を嘱望されたレジェンドは、現実を受け入れつつも歩みを止めようとはしない。しかし自分1人では限界があることも理解しており、IH界が1つになることを誰より望んでいる。そこには大学IH界におけるカテゴリーの違いなどは存在しないと考える。

 

「私が学生時代は日本IH界に勢いを感じました。でも今は時代が異なるので、各自がやれることを1つずつやるしかない。僕の活動も全てが正解というわけではないと思う。それぞれの立場でエネルギーを注ぎ続ける。日本IH界の復興、発展のためにはそれしかない。千葉大がやっていることも同じだと思います」

IHを1つのツールとして良い人生を歩むことが最も重要。

最後にIH界における一人の先輩として、千葉大IH部の学生へメッセージをくれた。

 

「アスリートがそれぞれ携わる競技で一生、生活できる方が少ない。スポーツは自分が成長するためのアイテムでしかない。東洋大だろうとプロだろうと千葉大だろうと同じ。IHをツールとして活かし良い人生を歩んで欲しい。関東大学リーグでは下部カテゴリーでも社会人としては1部になれる」

 

鈴木監督はIHを同じく愛おしく思う人間として、最後まで千葉大へのリスペクトを欠かさなかった。

 

千葉大はレギュラーシーズン後の入れ替え戦に敗北、来季から5部での戦いを強いられることとなった。カテゴリーが下がったのは残念だが、熱量が同じなら何も変わらない。これからも前を向き、氷上のパックを追い続けて欲しい。

 

(取材/文・山岡則夫、取材協力/写真・東洋大学アイスホッケー部、千葉大学アイスホッケー部、IceHockeyStream.net)