フランス・パリで開催された「全仏オープン」(5月28日~6月11日/クレーコーと)は最終日、男子シングルス決勝が行われ、第4シードのラファエル・ナダル(スペイン)が第3シードのスタン・ワウリンカ(スイス)を6-2 6-3 6-1で下し、大…

 フランス・パリで開催された「全仏オープン」(5月28日~6月11日/クレーコーと)は最終日、男子シングルス決勝が行われ、第4シードのラファエル・ナダル(スペイン)が第3シードのスタン・ワウリンカ(スイス)を6-2 6-3 6-1で下し、大会10回目の優勝を果たした。オープン化以降の男女を通じ、グランドスラムの同一大会での最多優勝記録の樹立。前日の女子決勝よりも短い2時間5分で片がついた。◇     ◇     ◇

〈V10〉の重圧だろうか。立ち上がり、ナダルの爆発力のあるフォアハンドもあまり伸びず、ミスが目立った。

「最初は緊張していた。でも序盤のサービスゲームをキープしてからはだいぶ落ち着いた。今大会のここまでのプレーを考えれば、決勝でひどいプレーをするわけはなかったんだ」

 ナダルが言うのは、ブレークポイントも握られながらしのいだ第3ゲームのことだ。次のゲームで6度のデュースを繰り返した長いゲームをブレークすることはできなかったが、その後4ゲームを連取した。

〈V10〉という意味の重さに苦しんでいたのは、ナダル以上にワウリンカだったのかもしれない。

「今朝から緊張していた。クレーコートで史上最強の選手とロラン・ギャロスの決勝で戦うのだから。V10って凄いと思う」

 それは全豪、全仏、全米と1回ずつ優勝を経験しているワウリンカだからこそ実感できる〈凄さ〉だったのだろう。

 ワウリンカはこれまでグランドスラムの決勝で敗れたことがなかった。2014年の全豪オープンでナダルを、2015年の全仏オープンと2016年の全米オープンではノバク・ジョコビッチ(セルビア)を破った。大舞台で毎回本命を破ってきた晩成型の32歳である。クレーコートでナダルを破ったこともある。しかし、ロラン・ギャロスのナダルは特別なのだ。

「回転の量、ボールの重さ、しぶとさ......ほかの選手とは何もかも違う。僕はどういうショットを選択したらいいかわからなかった。それは、彼に勝ちたいなら絶対に抱いてはいけない迷いなんだけど」

 ワウリンカのトレードマークである片手打ちのバックハンドは好調時のパワーとキレがなく、2日前にアンディ・マレー(イギリス)と4時間半を打ち合った粘り強さも見られなかった。

 第1セットを6-2で奪ったナダルは第2セットの第2ゲームを早々にラブゲームでブレーク。ほとんどがワウリンカのミスのあっけないリードで、そのまま6-3でセット奪取。第9ゲームのナダルのサービスゲームで30-15、ナダルのボレーに対するフォアハンドがアウトになると、ラケットを叩き折った。

 すっかり本来の調子を取り戻していたナダルに対し、そこから流れを変えることは不可能に近かっただろう。まだこの試合の山場はこの先に訪れるはずだと期待する観客たちも、第3セット第1ゲームのブレークで断念せざるをえなかった。第4ゲームのナダルのサービスをデュースにしたのが精一杯で、結局そのゲームを含めてナダルが5ゲームを連取して試合を締めくくった。

 ノースリーブにパイレーツパンツという出で立ちだった12年前の初優勝のときと同じく、滑り込むように赤土を背に倒れた。この12年間に、ナダル以外の全仏チャンピオンは3人誕生したが、誰もナダルを破って優勝していない。

 2009年は4回戦でナダルを破ったロビン・ソダーリング(スウェーデン)が決勝でロジャー・フェデラー(スイス)に敗れ、2015年はナダルを破ったノバク・ジョコビッチ(セルビア)が決勝でスタン・ワウリンカ(スイス)に敗れた。そしてナダルが3回戦の前に手首のケガで欠場した昨年は、初優勝したジョコビッチを含めて誰もナダルを破ることができなくて当然だ。そして今回、ここで2度目の決勝に進んだワウリンカも、ナダルを破っての栄冠にはいたらなかった。

 オープン化以降、女子も含めてグランドスラムの同一大会で10回優勝した選手はいない。今季最大の目標を達成したナダルは、週明けのランキングで世界ランキングを2位まで戻す。3週間後に開幕するウィンブルドンへの抱負を尋ねられると、「芝でプレーするのは好き。膝に問題が起こらず、健康な状態でさえあれば...」と、7年ぶりの優勝の可能性もほのめかした。

 ウィンブルドンの主役が、そこで過去7回優勝しているフェデラーであることは間違いない。35歳のフェデラーはクレー・シーズンを丸ごと捨ててウィンブルドンにかけている。しかし、2008年と2010年のナダルにできたことなら今のナダルにもできないはずはない、そう思わせるほどの強さ-----31歳が成し遂げた驚愕の完全復活だった。(テニスマガジン/ライター◎山口奈緒美)※写真は「全仏オープン」決勝でスタン・ワウリンカ(スイス)を倒し、大会10回目の優勝を飾ったラファエル・ナダル(スペイン)。男女を通じてグランドスラムの同一大会での最多優勝記録となった(撮影◎毛受亮介/テニスマガジン)