嶋基宏 インタビュー後編(前編:野村克也と星野仙一に学び楽天の日本一に貢献も、リード面で「自信を持てたことはない」>>)…

嶋基宏 インタビュー後編

(前編:野村克也と星野仙一に学び楽天の日本一に貢献も、リード面で「自信を持てたことはない」>>)

 現役を引退してヤクルトの1軍バッテリーコーチ兼作戦補佐に就任した嶋基宏氏は、2022年シーズンは選手でありながら、コーチ補佐として若い選手たちを育てる役割を担った。今年の秋季キャンプでは、内山壮真捕手が嶋氏に"弟子入り"したことも話題になった。

 そんな内山も活躍した今年の日本シリーズを、嶋氏はどのように見ていたのか。現役最後のシーズンの総括、今後についても語った。



嶋氏(中央)の引退会見に駆けつけたヤクルトの選手たち

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――嶋さんは2020年にヤクルトに入団しましたが、高津臣吾監督の就任と同じ年でした。印象はいかがですか?

「あくまで私の印象ですが、選手のことを本当によく見ていると感じます。物事を冷静に考え、さまざまなことを分析されている方なんじゃないかと思っています」

――56本のホームランを放ち、令和初の三冠王になった村上宗隆選手の活躍はどう見ていましたか?

「彼とはクラブハウスでもよく話をしますが、いつも『すごいな』と思っています。あの若さで球史に残る記録を達成し、日本を代表するスラッガーになった。4番を担う重圧などにも打ち克ってきたわけですし、文句のつけようがありません」

――シーズン中、塩見泰隆選手が相手バッテリーの配球などについて嶋さんにアドバイスを求めることがあるという話を聞いたのですが、それは本当ですか?

「そうですね。いつからかは忘れてしまいましたが、塩見とはロッカーも近かったですし、話をする機会も多かったですから。それで試合中も、『次の僕の打席、どうきますかね』とたまに聞かれるようになりました。チームとしての戦略などもあるので、あくまで『少しでも参考になれば』というものでしたけどね」

――ヤクルトの捕手としては、中村悠平選手の活躍が目立っています。それに続く捕手のひとりとして、高卒2年目で飛躍した内山壮真選手に期待がかかっていますが、どんな魅力がある選手ですか?

「この先、チームの"顔"になっていかなければいけない選手です。いろんなことを学んで、日本を代表するようなキャッチャーにもなってもらいたいですね。"打てるキャッチャー"というのも魅力ですし、頭もスマートで吸収する力がある。彼がキャッチャーに転向したのは高校2年からですし、今シーズンに一軍での試合を多く経験できた(74試合)ことは大きなプラスになったと思います」

――内山選手といえば今年の日本シリーズ第2戦、0-3のビハインドで迎えた9回裏の無死1、2塁で代打として登場し、同点ホームランを放った場面が強く記憶に残っています。

「ファンだけでなく、チームの誰もが『すごい』と思ったはずです。これまでの苦労や練習を見てきた身としては、それが実を結んだことが嬉しかったですね。結果に至る過程を大事にして、積み重ねた努力が生んだホームランでした」

――ただ、日本シリーズはオリックスの4勝2敗1分で日本一を逃しました。オリックスの強力な救援陣がそれを大きく後押ししましたが、対処法などはどう考えていますか?

「甘い球がくることはほぼないですから、狙った球を一発で仕留めるための策を考えることが必要になると思います。シーズンで何度も対戦していれば、ボールの軌道や攻め方も見えてくるものですが......交流戦の試合だけではなかなか対策を練るのが難しいですし、短期決戦ということもありますから」

――嶋さんは楽天とヤクルトでプレーしましたが、セ・パの野球の違いを感じることはありますか?

「私が楽天に入団した頃は『パ・リーグのほうが強い』と言われていて、実際にその傾向もあったと思います。ただ、近年はそれを感じなくなりました。DHの起用法など、セ・リーグのチームがしっかり対応できるようになってきた印象があります」

――2022年のオフは、森友哉選手(西武→オリックス)、嶺井博希選手(DeNA→ソフトバンク)、伏見寅威選手(オリックス→日本ハム)と、捕手のFAが大きく注目されました。その状況をどう見ていましたか?

「チームには、現状を考えた上で理想とする捕手像があります。今オフはFAの権利を得たキャッチャーたちと、チームの理想がマッチすることが重なったんでしょうね。とはいえ、監督が目指す野球なども含めて入団してからでないとわからないことが多いですから、キャッチャーは特に対応力が求められるポジションだと思っています」

――ちなみに、嶋さんが現役時代に「このキャッチャーはすごい」と思った選手はいますか?

「私が若手の頃は、阿部さん(慎之助・現巨人ヘッド兼バッテリーコーチ)や、谷繁さん(元信・元中日監督)と対戦した際に、リードや打撃面でも『素晴らしい』と思うことばかりでした。私の後からプロ入りしてきた選手でいうと、ソフトバンクの甲斐拓也でしょうか。肩の強さなど能力のすごさもありますが、育成契約から這い上がるといった過程もふまえてですね。

 ソフトバンクの正捕手となって日本一4連覇に貢献し、日本代表でも活躍するまでのキャッチャーになった。彼にしかわからないプレッシャーがある中で結果を残し続けてきたことは、年齢なども関係なく尊敬します」

――あらためて、嶋さんにとってキャッチャーとは?

「キャッチャーは"チームリーダーになる存在"と自分に言い聞かせていました。野手の中で唯一、他の選手たちの顔が見られるポジションですし、みんなを引っ張っていかなければなりません。監督が目指す野球をグラウンドで表現し、一番に遂行する。それがキャッチャーだと思ってマスクを被っていました」

――最後に、コーチとして迎える来季について、意気込みを聞かせてください。

「指導者に専念するのは1年目で、失敗することもあると思います。それを繰り返さないように自ら成長し、ステップアップしていきたいです。選手がやりやすい空気や雰囲気を作り、チームのリーグ3連覇、日本一を奪還、その先もチームを支えていけたらと思っています」

【プロフィール】
嶋基宏(しま・もとひろ)

1984年生まれ、岐阜県出身。 2006年の大学・社会人ドラフト3巡目で東北楽天ゴールデンイーグルスに入団し、1年目から1軍で活躍。2010年には自身初となる打率3割を達成。ゴールデングラブ賞・ベストナインに選出される。2010年オフより選手会長としてチームを牽引し、2013年にはリーグ優勝、日本一を経験。 2019年のシーズン後、東京ヤクルトスワローズへ移籍。2022年は選手兼コーチ補佐としてチームを支え、シーズン終了後に現役引退を発表。ヤクルトの1軍バッテリーコーチ兼作戦補佐に就任した。