怪我に悩むアスリートやスポーツマンは後を断ちません。その多くは怪我そのものによる肉体的な負傷だけでなく、精神的なダメージも大きく影響していることもあります。怪我による精神的な影響は肉体的損傷のように見た目で判断することができないため、自身…

 怪我に悩むアスリートやスポーツマンは後を断ちません。その多くは怪我そのものによる肉体的な負傷だけでなく、精神的なダメージも大きく影響していることもあります。

怪我による精神的な影響は肉体的損傷のように見た目で判断することができないため、自身でも気づかないうちに大きな精神的なダメージを負ってしまっていることがあります。

こうした精神的なダメージは怪我の回復にも大きく影響を及ぼします。

この記事では、そんな自己の精神状態の認識と怪我の回復の関係についてある論文を基に詳しく解説します。

怪我からの立ち直り方に悩まれている方や怪我をした際のメンタルヘルス対策を事前に知りたいと考えている方はぜひ参考にしてみてください。

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怪我をしたスポーツマンに起こる心理的反応

ここではスポーツマンが怪我をした際に心に起こる具体的な反応を解説します。

情緒の消耗
精力的に競技へ打ち込んでいた人が、怪我などの出来事を境に燃え尽きてしまったかのように情熱や意欲を失うことがあります。この症状は「燃え尽き症候群」や「バーンアウト」と呼ばれ、心身が極度に疲弊した状態が続き、症状の程度によっては競技だけでなくプライベートや仕事など日常生活にも影響を及ぼすようになってしまいます。

特に、深刻な怪我を負った場合の受傷から回復までの間で苦しむことの多い症状です。また、再び受傷してしまうことへの恐怖や、痛みの再発を恐れ、競技復帰の障害となることがあります。

「燃え尽き症候群」や「バーンアウト」に陥り情緒的なエネルギーを消耗した状態では、「相手の人格を無視する」「冷淡な態度を取る」といった行動がみられることがあります。これは、さらなる情緒の消耗を防ぐために防衛本能として起こす「脱人格化」という現象で、対人関係など日常生活にも大きな影響を及ぼしてしまうことがあります。

競技活動への拒絶、競技意欲の低下
アスリートをはじめ、競技に全身全霊ををかけて取り組んでいる方の中には自分の身分や職業よりも先行して「スポーツ選手であること」をアイデンティティとして認識している方が多くいます。こうした方は怪我により自身のアイデンティティである競技を奪われてしまうと、自尊心を傷つけられてしまうような感覚に陥り相当なショックを受けてしまいます。

このように怪我をきっかけとして大きなショックを受けると競技活動そのものを拒絶・回避することがあります。競技を行うことのできない期間や復帰後の回復期間において「満足に競技を行うことのできない自分」に対して大きな焦燥感や不安、自信の低迷を感じることが多いです。

こうしたネガティブな感情から逃れるために競技から離れてしまうというアスリートやスポーツマンもいます。

Self-efficacy(自己効力感)とは

自己効力感(Self-efficacy)とは、ある目標や行動を遂行できる可能性を自身で認識することです。自己効力感は怪我をはじめとした挫折からの立ち直りに大きく影響します。ここではそんな自己効力感について解説します。

Self-efficacy(自己効力感)には4つの要因が存在する
自己効力感を提唱した心理学者であるアルバート・バンデューラは、自己効力感には

達成経験
社会的説得
代理体験
生理的感情的状態

の4つの要因が存在すると定義しました。

「達成経験」とは、困難な目標を達成した経験が自身の能力を認知するきっかけになるという考え方です。

努力の末に達成することに大きな効果を持ちます。

「社会的説得」とは、他者からの肯定的な評価を積み重ねることで能力の認知や自信の獲得に繋がるという考え方です。

他者からの好評価が大きな影響力を持つ反面、批判的な意見も反映してしまい易いという点には注意が必要です。

「代理体験」とは、他人の成功体験を目にすることで自信に繋がります。

同じように怪我をした人が回復し、競技へ復帰する様を目にすることで、自身の可能性や前向きなビジョンの形成に繋がります。

「生理的感情的状態」とは、本人の体調や気分が自己効力感に影響するという考え方です。

例えば、高揚感を持っている状態や体力に余裕のある状態では物事に前向きに取り組みやすく、多少の困難にも対応できたという経験のある方もいるのではないでしょうか。

このように、心身を総じた健康状態が自己効力感に繋がることがあります。

Self-efficacy(自己効力感)と怪我の関係

Self-efficacy(自己効力感)は怪我に大きな影響を与えるということが少しずつ分かってきています。Greater Psychological Readiness to Return to Sport, as Well as Greater Present and Future Knee-Related Self-Efficacy, Can Increase the Risk for an Anterior Cruciate Ligament Re-Rupture: A Matched Cohort Study(Piussi etal.2022)によると、理学療法士と共に心理的な幸福について話し合われた人は前十字靭帯の再断裂率が低下した可能性が示唆されています。

このように自己効力感の向上は怪我の回復だけでなく、怪我の再発防止にも好影響を与えるようです。

Self-efficacy(自己効力感)を高めることで怪我への恐怖感を克服しよう

Self-efficacy(自己効力感)を高めることで、自身の能力を再認識し怪我の克服や競技への復帰を手助けすることができます。

Self-efficacy(自己効力感)を高めるためには自身の努力も必要となりますが、周囲のサポートも非常に大きな影響力を持ちます。

特に、社会的説得によって高めたい場合や、生理的感情的状態を保ちたい場合は周囲の接し方が非常に重要です。

自身だけで抱え込まず、困った時は周囲に助けを求めることも重要です。

実際にあったアスリートの事例
怪我をしてしまった選手は数多くいます。私が知る選手の中でも、怪我から復帰し大活躍した選手もいます。そのような選手の中でも特に印象深い選手を今回ご紹介したいと思います。

その選手は体操競技をされていました。オリンピックを控えた半年前の大会でアキレス腱を試合中に断裂します。オリンピックの夢どころから現役復帰すら危ぶまれる大怪我でした。しかし、本人が諦めかけていたとしても、周りはまったく諦めていませんでした。腱を切った次の日には手術。手術した次に日からリハビリが始まりました。

過酷以上の何でもないですが、本人以上に周りの熱意に選手も心が動かされたのです。最終的にはオリンピックには間に合いませんでしたが補欠選手として日本代表を支えました。

今回の事例から選手の自己効力感を高めるために周りの環境はとても重要になってきます。とくに、支えてくれる人によって自己効力感がたかまり選手が怪我を乗り越えたいと思うわけです。その一端を担っているのもスポーツメンタルコーチなのかもしれません。

怪我は防ぎようのないことです。怪我になってしまっても時間を巻き戻せません。だからこそ、怪我になったときこそメンタルコーチングを受けることも1つの選択肢になってくるかもしれません。ご参考までに。

参照論文:Greater Psychological Readiness to Return to Sport, as Well as Greater Present and Future Knee-Related Self-Efficacy, Can Increase the Risk for an Anterior Cruciate Ligament Re-Rupture: A Matched Cohort Study(Piussi etal.2022)

[文:スポーツメンタルコーチ鈴木颯人のメンタルコラム]

※健康、ダイエット、運動等の方法、メソッドに関しては、あくまでも取材対象者の個人的な意見、ノウハウで、必ず効果がある事を保証するものではありません。

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一般社団法人日本スポーツメンタルコーチ協会
代表理事 鈴木颯人

1983年、イギリス生まれの東京育ち。7歳から野球を始め、高校は強豪校にスポーツ推薦で入学するも、結果を出せず挫折。大学卒業後の社会人生活では、多忙から心と体のバランスを崩し、休職を経験。
こうした生い立ちをもとに、脳と心の仕組みを学び、勝負所で力を発揮させるメソッド、スポーツメンタルコーチングを提唱。
プロアマ・有名無名を問わず、多くの競技のスポーツ選手のパフォーマンスを劇的にアップさせている。世界チャンピオン9名、全日本チャンピオン13名、ドラフト指名4名など実績多数。
アスリート以外にも、スポーツをがんばる子どもを持つ親御さんや指導者、先生を対象にした『1人で頑張る方を支えるオンラインコミュニティ・Space』を主催、運営。
『弱いメンタルに劇的に効くアスリートの言葉』『モチベーションを劇的に引き出す究極のメンタルコーチ術』など著書8冊累計10万部。