元ダイエーで現在は「伊丹中央ボーイズ」を率いる田中総司監督 高い部費を払いながら、雑用だけの子どもたちを何とかしたい。野…
元ダイエーで現在は「伊丹中央ボーイズ」を率いる田中総司監督
高い部費を払いながら、雑用だけの子どもたちを何とかしたい。野球の楽しさを伝えるため、兵庫・伊丹市で中学硬式野球チーム「伊丹中央ボーイズ」を率いるのが、1999年のドラフト1位でダイエー(現ソフトバンク)に入団した田中総司監督だ。怪我などに苦しみ、わずか5年の不本意なプロ生活で得た教訓が、指導の礎となっている。
「現役を終えて地元(伊丹)に帰ってきた時に、中学の野球チームを手伝った時がありました。1学年40~60人もいてレギュラークラス以外の子は、ほとんど雑用で試合にも出られていなかった。これでは野球を辞めてしまう、楽しくないだろうな、と思ったのがきっかけでした」
現役引退後、田中さんは専門学校に通い約6年間で「柔道整復師」と「鍼灸師」の国家資格を取得。2017年から地元に戻り「たなか鍼灸接骨院」を開業すると、未来ある野球少年・少女のために同チームを設立した。
指導方針は「自主性と協調性」。田中さんは現役時代に怪我を隠しながら投球を続け、コーチからの指導に迷いながらも投球フォームを何度も変更。「次世代の野球選手たちに同じような失敗をしてほしくない。投球フォームは余程のことがない限り、いじらないと決めています」と語る。
変則フォームの右腕に周囲は「絶対に直したほうがいい」も…
指導が行き渡るように各学年を20人に決め、入ったばかりの1年生には全員を試合に出場させ、チャンスを与えている。投手に対しては「下半身の使い方ぐらいしか教えていません。その子にあった投げ方がある。まだ、そこまで理解できない年頃の選手に腕を意識させると、上半身と下半身のバランスがバラバラになる」と、選手の個性を尊重している。
明らかに間違った投げ方をしている子どもには丁寧に基礎を教えるが、コーチ陣にも肘の角度など細かな部分の指導は控えるように伝えている。チームを創設してから6年目を迎えた今年。現在の高校3年生はちょうどチームの1期生にあたる。田中氏の指導は着実に実を結んでいた。
1期生には当時、変則フォームの右腕が在籍していた。周囲からは「絶対に直した方がいい」と指摘を受けたが、田中さんは「そのままで大丈夫だよ」と、本人の意向を受け入れた。その後、日本航空石川に進学後は背番号「10」を背負い、140キロを超える変則右腕として注目され、エースと共に2枚看板として活躍した。
整体師としても子どもたちの体のケアを行い、無理のない練習環境を作っている。まだ、体の出来ていない中学生には「投げない勇気も必要。監督やコーチにも自分の意見を伝えることが大事」と話している。自身が味わった経験を糧に、田中さんは将来のプロ野球選手たちを育てていく。(橋本健吾 / Kengo Hashimoto)