元ドイツ代表のMFトニ・クロースが、この試合について「ここまでで今大会のベストゲーム」とツイートしていた。 互いに持ち…
元ドイツ代表のMFトニ・クロースが、この試合について「ここまでで今大会のベストゲーム」とツイートしていた。
互いに持ち味を出して攻め合った試合は、確かに面白く、最後までどちらが勝つかわからないスリリングなものだった。
だが、スコアの上では接戦でも、勝者の視点に立てば貫禄勝ち。敗者の視点に立てば力負け。内容的に見て「ここまでのベストゲーム」だったことに異論はないが、最後は底力の差が出てしまった感がある。
ワールドカップ準々決勝。優勝候補同士の直接対決となった一戦は、フランスがイングランドを2-1と下し、ベスト4進出を果たした。

巧みな試合運びでイングランドに競り勝ったフランス
手数でこそイングランドが上回るも、効果的なパンチを的確に当てていたのはフランス。そんな内容の試合だった。
フランスの先制点は鮮やかだった。
自陣左サイドでイングランドの攻撃を防ぐと、奪ったボールをDFダヨ・ウパメカノが自らドリブルで運んで前進。FWキリアン・エムバペへとつながれたボールは、エムバペがドリブルで中央に進入して右サイドへと展開される。
すると今度は、右サイドでパスを受けたFWウスマン・デンベレがドリブルでの仕掛けをチラつかせながら、内側にいたFWアントワーヌ・グリーズマンへパス。最後はグリーズマンの丁寧な落としを、中央に走りこんできたMFオーレリアン・チュアメニが右足でゴール左スミへ、豪快かつ正確に叩き込んだ。
選手個々の高い能力がチームとしてガッチリかみ合った、鮮やかなカウンターアタックだった。
だが、対するイングランドも今大会屈指の"いいサッカー"をする"いいチーム"である。
この日の先発メンバーには2000年代生まれの選手が3人も名を連ねたが、それでも組織的な規律を備えたうえで、豊富で多彩なアタッカーを生かすサッカーを確立していた。
実際、この試合でもDFラインから攻撃を組み立て、最後は右サイドのニアゾーンをうまく使った連係からPKを得て、一度は同点に追いついている。
だが、裏を返せば、いいチーム止まり。勤勉でよく走り、規律を守るチームは、決め手に欠けた。
後半、FWハリー・ケインのPKで同点に追いつき、さらに攻勢を強めてはいても、チャンスを生かしきれない攻撃にはどこか危うさが漂い始めていた。
こうした展開では、得てして押されている側にビッグチャンスが転がり込むのがサッカーの常。一見イングランドが押してはいるが、どこかでフランスが点をとってしまいそう。そんなふうに見えたのは、ただの結果論ではないはずだ。
イングランドとは対照的に、フランスの試合運びは、いかにも老獪にして巧みだった。
フランスにしても、2000年生まれのチュアメニなど、若い選手がいないわけではないが、プレーにメリハリをつけ、勝負どころを見逃さない試合運びは、イングランドにはないものだった。
「イングランドも強いが、若い選手が多い。(それに対して)我々は多くの選手がヨーロッパのビッグクラブでプレーしていて、経験がある」
フランスのディディエ・デシャン監督はそう話していたが、なるほど22歳のチュアメニにしても、レアル・マドリード所属。十分に場数は踏んでいる。
無駄な失点さえしなければ、エムバペ、デンベレという強力ウイングに加え、今大会好調のストライカー、FWオリビエ・ジルーという豪華3トップが前線に控えているのだから、ワンチャンスで試合を決めることができる。そんな自信が、試合運びに余裕を与えるのだろう。
結局、この試合でも、最後はグリーズマンのクロスをジルーが頭で決めて、勝ち越した。
必ずしもチーム全体でポゼッションを高め、敵陣に押し込む時間を長くするわけではないが、"ここ"という時はしっかりと人数をかけ、厚みのある攻撃を実現するあたりはさすがのひと言だ。
ボール支配率やシュート数ではイングランドが上回っていても、フランスが勝つべくして勝った印象が残るのは、そうした試合運びのうまさや、圧倒的な決め手を持つ選手を備えていることが大きいのだろう。今大会5ゴールで得点ランクのトップに立つエムバペも、この日は見せ場が少なかったが、前線でフラフラと漂っているだけでも、イングランドにとっては十分な脅威となっていたはずだ。
もちろん、1点リードで迎えた試合終盤、DFテオ・エルナンデスが与えたPKは軽率だったと言うしかない。フランスは、これを外したケリーに助けられた面も確かにある。
だが、それも含めて結果は妥当。フランスの順当勝ちと言っていい試合だった。
これで2大会連続のベスト4進出を果たしたフランスは、ワールドカップ連覇まであと2勝。優勝候補筆頭と目されていたブラジルがすでに敗退したこともあって、フランス連覇の可能性は大きく高まっている。
だが、デシャン監督は先走る周囲の声を封じるように、「今大会ベストの4チームが勝ち残った。4チームすべてに(優勝の)チャンスがある」と言い、こう語る。
「ここまでのすばらしい成果には満足しているが、水曜日(準決勝)はまた新たな挑戦になる。今は水曜日のゲームに集中する」
前回王者が評判どおりの強さを見せつけ、難敵を退けた。