ロシアのウクライナ侵攻が始まった2月24日以降、FIBAはロシアとその支援国とみなされたベラルーシをFIBA主催の大会…

 ロシアのウクライナ侵攻が始まった2月24日以降、FIBAはロシアとその支援国とみなされたベラルーシをFIBA主催の大会から除外する制裁措置を敷いている。来年フィリピン、日本(沖縄)、インドネシアの3ヵ国共催で開催される男子のワールドカップの予選では侵攻開始以前の両国の成績は削除され、今夏オーストラリアで開催された女子のワールドカップでも、予選を勝ち抜いたロシアの出場権ははく奪された。


 この制裁措置は継続されており、上記の大会以外でも国際舞台でロシアとベラルーシのチーム、バスケットボール関係者は受け入れられていない。個別のクラブもユーロリーグ、ユーロカップから除外されている。


 侵攻開始とほぼ時期を同じくして、女子アメリカ代表のセンター、ブリトニー・グライナーが、ロシアでの所属クラブに合流する移動中に違法薬物所持で拘留され、その後9年間の禁固刑を受けるという出来事も発生した。現在はアメリカ政府がグライナーを不当逮捕された人質と捉え、早期解放を要求する国際問題に発展している。


 このような状況では、ロシアの侵攻に反対し、ウクライナへの支援を表明している国々の人々が同国に近づこうとする動きには、大きなリスクを伴うように思える。いわんやバスケットボールをしにロシアに入るなど考えづらいのではないだろうか。


 ところが今年9月、そんなケースが実際にあることをニューヨークタイムズ他の有力メディアが伝えた。アメリカのプレーヤー32人が2022-23シーズンにロシア国内のプロリーグでプレーする契約をしたという。

 

ユニーク・トンプソンはロシアでの活躍をWNBA入りへの足掛かりにしようとしている


 その中の一人、ユニーク・トンプソンは、2021年のWNBAドラフトの2巡目7位(全体19位)でインディアナ・フィーバーの指名を受けた身長190cmのフォワードだ。現在は23歳。昨年も今年もWNBAでプレーする契約を得ることはできなかった。現在はロシアのプレミア・バスケットボール・リーグ(PBL)のナジェジダ・オレンブルク(NADEZHDA ORENBURG)に所属し、12月6日時点で11試合に出場して平均10.3得点、10.0リバウンドとダブルダブルの成績を残して活躍している。

 

 男子のVTBリーグでも、アメリカ人を中心にロシアが非友好国として発表した国から入国したプレーヤーが主力級の活躍をしている。エンタテインメントとしてのクォリティーを保つために、男女とも国外のタレント獲得に力を入れてきた歴史があるロシア国内リーグは、その維持のために現在も国外のタレントを必要としているのだ。プレーヤーの方も、出身国で契約を得られなかった場合には国外でキャリアを模索する必要に迫られるので、ここに需要と供給の関係が成り立つ。


 前述のトンプソンの場合、WNBAで2シーズン契約を得られなかった後、ロシアに渡った理由はそれが最もWNBA入りに近い最良の選択肢と思えたからだと明かしている。


 女子バスケットボールプレーヤーとして、グライナーの不運な出来事を十分認識しているし、グライナーの早期解放を願っているという。しかし、自身の現実としては生きていかなければならない。「これで生きていこう」と決めて取り組んできたバスケットボールを生活の糧として前進するためにどうすべきか。WNBAのクラブからオファーを得られないとわかったとき、難しい決断を迫られたトンプソンが出した答えは、自身の母国であるアメリカと真っ向から敵対するロシアに渡ることだった。


 アメリカ代表でグライナーのチームメイトとしてプレーしたブリアナ・スチュワート(シアトル・ストーム)は、自身もWNBAの数倍のサラリーや厚遇で迎えられるロシアでプレーした経歴をもっている。しかしロシアに渡る気はさらさらない。NBCが9月に報じた記事の中では、「BG(グライナーの愛称)が不当逮捕されている状況では、返してもらえるまで誰もそんなところでプレーしたくありません(With BG still wrongfully detained there, nobody’s going to go there until she’s home.)」とロシアへの嫌悪感を隠していない。

 

東京2020オリンピックのアメリカ対フランスの一戦でグライナーにパスを送るスチュワート。親友が不法逮捕されている状態でロシアに行く気はさらさらないことを明言した(写真/©FIBA.Tokyo2020)

 

 トンプソンとスチュワートは、バスケットボールのプロとしてバスケットボールで生きようと考えていることも、同志グライナーの安全な帰国を願う思いも同じだ。ただ、立ち位置が違うことで対照的な決断に至っている。

 

 在ロシアのアメリカ大使館は、9月27日にロシア国内のアメリカ人に国外退避を勧告した。そうでなくても、敵対する国に渡って自身のキャリア構築の道を切り開こうとすることに対する周囲からネガティブな捉えられ方も覚悟する必要がありそうだ。それでもトンプソンはロシア行きを選んだ。


 戦争状態で甚大な被害を被っているウクライナ国内の人々はもちろん、どこであれその影響から本意ではない生き方を強いられる人がいるのは不幸だ。終息は早期に、必ず実現されなければならない。


文/柴田 健(月バス.com)
(月刊バスケットボール)