昨年8月に他界した木下雄介さんと同じ背番号を選んだ 柄にもなくガッチガチに緊張した面構えが、むしろ周囲には好印象に映った…

昨年8月に他界した木下雄介さんと同じ背番号を選んだ

 柄にもなくガッチガチに緊張した面構えが、むしろ周囲には好印象に映った。5日にDeNAの入団会見に臨んだ京田陽太内野手は、まだ見慣れない新天地の報道陣と向き合い、丁寧に言葉を発していく。チームの印象やアピールポイント、来季の目標……。ただ唯一、自らが選び取った背番号については、最後まで口にすることはなかった。

 中日からやってきた主力クラスの内野手がつける背番号。もちろん空いている1桁もあった。だが、球団側の了承を得て、あえて選んだのは「98」。中日時代の同期入団だった木下雄介さんがつけていた番号であることは、中日ファンならずもすぐに想像できた。

 昨年8月に27歳の若さで他界。家族ぐるみでよく出かけ、兄のような存在だった右腕を失った衝撃は、簡単に受け入れられなかった。当時は選手会長として毅然と振る舞おうとしたが、追悼試合では試合前から涙が止まらない。タイムリーを放ち、ありったけの感情を解き放った。

 喪失を乗り越えても、傷は残り続ける。自らの中で深く、深く、刻み付けておけば、弱い自分を律してくれるような気がする。そのための「98」。選んだ理由を説明する責任もあるとも分かっていたが、会見ではあえて触れなかった。「雄介さんのために――」「雄介さんの分まで――」。そんな言葉は、思いが軽くなるようで口にできなった。

トレードに素直な思い「正直、うれしい気持ちもありました」

 そして、もうひとつ。新天地で用意された晴れの席では、未来のことを語りたいとの思いもあった。珍しい背番号の選択に話が集中すれば、見てくれているDeNAファンはどう思うだろうか。もう中日の京田陽太ではない。トレードで自らを欲しがってくれたDeNAの一員。トレードが決まって「正直、うれしい気持ちもありました」。素直な思いが溢れ出た。

 バラ色の横浜生活が待っていると思うほど、お気楽な立場ではない。「全力でがむしゃらで頑張る」。その意味を誰よりも理解していると思っている。成績を見れば下降線。今季は自己ワーストの43試合出場にとどまった。DeNAの遊撃にはベテランの大和や売り出し中の森敬斗らがいるが「ポジショニングや打者の特徴はとらえているつもりなので、そういうところを武器に」。ルーキー時代からレギュラーを担ってきた自負はある。

 来年4月で29歳。包んでくれる横浜の空気は温かいが、“外様”に与えられる時間はそんなに長くはない。「98」に込めた思いは、グラウンドで表現していく。11月にトレードが決定した時、ただ一度だけ、亡き戦友の名前を口にした。それが全て。

「雄介さんがくれた、最後のチャンスだと思っています」(小西亮 / Ryo Konishi)