B3リーグの金沢武士団に今シーズンからウクライナ人プレーヤーが3人加わったことが、開幕前に話題となった。8月18日の入…
B3リーグの金沢武士団に今シーズンからウクライナ人プレーヤーが3人加わったことが、開幕前に話題となった。8月18日の入団会見で紹介されたのは、ヤキブ・ティトブ(Yakiv Titov)、イホール・ボヤルキム(Ihor Boiarkin)、オレクサンドル・アンティボ(Oleksandr Antypov)の3人。いずれも日本財団及び七尾市協力の下で避難民として来日した。
左からボルヤキム、ティトブ、アンティボ。3人の加入は金沢の成績向上の原動力だ
昨シーズンを1勝49敗の最下位で終えた金沢だが、今シーズンは12月4日の第9節Game2(ヴィアティン三重戦)を終えた時点で7勝11敗(勝率.389)と成績を大幅に向上させ、現在プレーオフ圏内の8位の座を東京八王子ビートレインズ、湘南ユナイテッドBCと同勝率で争っている。ストレッチ・ファイブの役割を務めているアンティボは平均20.7得点、平均10.0リバウンドがどちらもチームトップ。ポイントガードのボルヤキムは平均5.2アシストがやはりトップで、10.9得点もアンティボと奥田雄伍(12.2得点)に続くチーム3位だ。3人の中では最年少の23歳でウイングのティトブこそ平均5.1得点、2.3リバウンド、0.5アシストと際立った数字ではないが、彼ら3人の加入が金沢の躍進を支えていることは間違いない。
3人はいずれもウクライナ国外でプレーするのは今回が初めて。しかし祖国を襲った戦争という事態での初体験にも、入団にあたり3人がクラブサイトから発信したコメントはいずれも前向きな内容だ。ティトブは「金沢を故郷と呼ぶことを楽しみにしています(I am looking forward to calling Kanazawa my home)」と話し、ボルヤキムは「人生において新しい経験。チームのために良い結果を出せるようベストを尽くします(This is a new experience in my life and I will do my best for a positive result for the team!)」と意欲を見せた。アンティボも「最大限の努力をし、多くのゲームに勝つことができると信じています(I will give my maximum efforts and I believe we can win many games.)」と自信を言葉にしている
ただ、入団会見ではロシアの侵攻開始とともに始まった「ひどい経験」や、戦争が始まったことを現実として受け入れられずにいた当時の心境も語られていた。3人は来日前に隣国のいくつかに避難していたといい、金沢でプレーする機会を得られたことに対し口々に深い感謝を述べている。
祖国の戦禍を逃れ他国に渡ってプレーする機会を求めたプレーヤーや、そうした立場の人々を救済しようとする動きがある。カナダではブラダ・ホザロヴァ(Vlada Hozalova)とヴィカ・コヴァレウスカ(Vika Kovalevska)という女子プロプレーヤーが、レスブリッジ大学に学生として受け入れられて新たなキャリアを始めたことが伝えられた。ホザロヴァはカナディアン・プレスに対する回答の中で、ウクライナ南東部のベルジャンシクから人道回廊を通って国外に避難した体験に触れ、ロシア軍の尋問が行われるチェックポイントを通過しなければならなかったことを明かしている。「あんな恐ろしい思いをしたことはありません。一瞬、生きて出られないかもしれないと思いました」という言葉から、計り知れない緊迫感が伝わる。
ホザロヴァの母と17歳の弟はドイツに渡った。街ごと故郷を奪われたホザロヴァにはすでに帰る場所はないという。コヴァレウスカの両親は、比較的安全なウクライナ北西部の街にとどまっているとのことだが、どの街がいつ攻撃の標的になるかわからない状況で心配を募らせていることが、カナディアンプレスの記事には綴られている。
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アイルランドのバスケットボール統括団体であるバスケットボール・アイルランド(B.I.)は今年5月に、同国内のクラブがウクライナからのプレーヤーを受け入れる場合、登録費を無料にするという支援策を打ち出した。またそうしたケースに対応するクラブには、ホームタウンがコミュニティーとしてそのプレーヤーを受け入れやすくすることを目的として、連盟からクラブへのボールの提供を行う「サポートパック」も用意している。
アイルランド放送協会(RTE)が10月27日のオンラインニュースで伝えたところでは、バスケットボールとは無関係に同国では段階で55,000人のウクライナ人が避難しており、アイルランド政府は避難民の居住地を用意するために今年だけで5億9300万ユーロ(約843億円)を投じたとのことだ。人口が500万人程度の国において、全人口の1%程度にあたる流入人数を平和な環境下で賄うことでコミュニティーにかかる大きな負荷を軽減し、支援する取り組みの一環に、B.I.の取り組みも決して小さなものではなさそうだ。B.I.の公式サイトでは、CEOを務めるジョン・フィーハン(John Feehan)がウクライナの惨状に対する嫌悪感をあらわにし、この取り組みにより戦禍を逃れてくる人々を目に見える形で助け、アイルランドの社会で長く歓迎されるということを明確にする意図が発表されている。
ウクライナには国内に残ってプレーし続けているプレーヤーがいる一方で、国外に逃れなければならない立場の人もいる。地域や個々のケースで判断が変わってくるのだろう。しかし、いずれも大きなリスクが伴い、誰も味わいたくないような悲しみや苦痛に直面しながら暮らさなければならない状況と思われる。戦争状態の終息のみがその解決策だ。
文/柴田 健(月バス.com)
(月刊バスケットボール)