ウクライナ国内スーパーリーグ男女は、ロシアのウクライナ侵攻が始まった2月24日以降その甚大な影響を受け、3月に2021…

 ウクライナ国内スーパーリーグ男女は、ロシアのウクライナ侵攻が始まった2月24日以降その甚大な影響を受け、3月に2021-22シーズンを中断という形で終えた。その後国内外の情勢や資金的な工面の問題に直面せざるを得ない状況下で、ウクライナのバスケットボール連盟(FBU)が9月下旬に女子について12チームで2022-23シーズンを開催することを発表。10月半ばにリーグ戦のフォーマットも明らかにされた。男子も10月半ばに9チームの参戦による2022-23シーズン開催が決まり、現在は男女とも10月下旬に開幕したシーズンが進行中だ。


 つまりウクライナのクラブはミサイルや砲撃、ロシア軍の市街侵攻・制圧という異常な状況の中で、バスケットボールを続けているのだ。開催地はキーウ、リヴィウ、ルーツク、ドニプロ、オデーサなど。ロシア軍の攻撃にさらされている都市・地域でもバブル会場を設営して公式戦を行っている。


 ただし、既存クラブのすべてが参戦できているわけではない。近年強豪として力をつけてきたプロメテイ(Prometey)は、参戦しなかったクラブの一つだ。2021-22シーズンが中断となった後、プロメテイは一度クラブが所有するすべてのスポーツチームを解散し、その後2022-23シーズン開催決定前にユーロリーグとラトビア・エストニアリーグ(LEBL)への参戦を決め現在に至っている。現在はリガを仮の拠点としての活動だ。

 

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 一度チームを解散するという決断は、ロシアのウクライナ侵攻に対し徹底抗戦を決めたウクライナ政府と軍部への全面的な支援の表明に他ならない。代表のウォロディミル・デュビンスキー(Volodymyr Dubynskyi)は、チーム解散を発表した3月5日付の声明の中で、祖国に対する愛情を込めて以下のようなコメントを残している。


「親愛なる友人諸氏、ファンの皆さん、プロメテイの支援者の皆さん、本日現在ウクライナで戦争が行われています。私は、非常に困難かつ間違いなく必要な決断に至り、プロメテイの全チームを解散して男子バスケットボールチームのチャンピオンズリーグ参加を取りやめることにしました。今は全資金、全資力、全戦力をウクライナの防衛に注ぎ、我が軍と領土を守るときです。我々は必ず勝利します! すべてをウクライナのために! ほかのことは先送りです」


 声明にはデュビンスキーからの「追伸」として、今後自身と組織内のスタッフにウクライナ語だけを話すよう指示したことも記された(これは推測だが、英語をはじめとした諸国語を禁ずる意図ではなく、特に敵国となったロシアの言葉を使わないという認識と思われる)。声明は「ウクライナに誉あれ」というメッセージで締めくくられた。

 

昨シーズンのチャンピオンズリーグより(写真はDJステフェンズ ©FIBA.BCL)


 解散発表から3ヵ月を過ぎた6月24日、クラブは男子チームのユーロカップとラトビア・エストニアリーグへの参戦決定を発表。ウクライナ国内のバスケットボール関係者の思い代表し、祖国が誇れるチームとして戦おうとの思いがかなう形となる(女子に関しては現時点でも、少なくとも公式には活動は再開されていない)。一方で9月20日には、国内最高峰のスーパーリーグ参戦を断念する発表もあった。発表されている内容から判断すれば、これはFBUとの信頼関係がこじれてしまったことに起因している(クラブ発表によれば、FBUがプロメテイだけに他クラブの100倍にも上る登録金を要求したとされている)。


 日本時間12月2日時点で確認できる成績としては、ユーロカップでは3勝3敗でグループAの10チーム中7位。ラトビア・エストニアリーグでは9勝1敗で首位を走っている。チームにはデニス・ルカショフ(Denys Lukashov)やイスフ・サノン(Issuf Sanon)らウクライナ代表の中心的プレーヤーが名を連ねているほか、昨シーズン群馬クレインサンダーズで活躍した217cmのビッグマン、オンドレイ・バルヴィン(Ondrej Balvin)や、メンフィス・グリズリーズ/ハッスル在籍時に渡邊雄太のチームメイトだったDJステフェンズ(DJ. Stephens)など、日本のバスケットボールファンになじみのあるプレーヤーもいる。

 

FIBAワールドカップ2023ヨーロッパ予選でのイスフ・サノン(写真/©FIBA.WC2023)


 バルヴィンは開幕前のインタビューで、自身の祖国チェコの男子代表HCを務めるロネン・ギンズブルグ(Ronen Ginzburg)がプロメテイを率いていることが入団の大きなきっかけだったことを明かしている。平常時のチーム活動ではないものの元気な様子で、「戦争の影響があるしリガにいるということで、ちょっと複雑な状況なのは間違いありませんけど、すべていい感じです。ウクライナでやるのと違いいろいろと複雑なことがありますが、これも旅の一部。皆置かれた状況で頑張っていますよ」と話している(インタビューの中では日本での経験にも触れており、Bリーグはレベルが高く、今後数年のうちにヨーロッパのプレーヤーの中でも好評価を得るようになるだろうとのくだりもある)。

 

群馬クレイン・サンダーズで活躍したオンドレイ・ヴァルビンは今シーズンプロメテイに所属している(写真/©B.LEAGUE)


 プロメテイの決断は、オーナーの祖国愛やプレーヤーとコーチたちのバスケットボールに対する情熱をクラブとして表現しながら、国内の混乱の色も映し出しているようだ。

 

 プロアスリートは競技ができなければ生きてはいけない(少なくともそれまでの生活を維持することはできない)のであり、リーグを運営することはアスリートたちを救うことに他ならない。過酷な現実に向き合い誰もが懸命に生きようとしている中で、ウクライナ国内のバスケットボール関係者が力を合わせて自らの生活の糧を維持しようとする様々な動きのどこかで、ボタンの掛け違いが生じているのだろうか。戦禍がなければこうした状況が起こることもなかったのかもしれないし、そうでもないのかもしれない。いずれにしても、混沌とした環境の中で国内リーグは継続され、一部のクラブは独自の道をたどり始めた。それがウクライナのバスケットボールの一つの現状と捉えられそうだ。


文/柴田 健(月バス.com)
(月刊バスケットボール)