たった1年でココまでレベルが上がるものなのだろうか……。11月24日から11月27日かけて新潟県の村上市スケートパークで開催された第5回マイナビ日本スケートボード選手権大会のストリートは、世界レベルのトリックのオンパレードとなった。パリ五輪…

たった1年でココまでレベルが上がるものなのだろうか……。

11月24日から11月27日かけて新潟県の村上市スケートパークで開催された第5回マイナビ日本スケートボード選手権大会のストリートは、世界レベルのトリックのオンパレードとなった。

パリ五輪へ向けたガチンコサバイバルレースの幕開け


今回は狙っていたフロントサイド・ノーズブラントスライドがメイクできず、7位に終わった中山楓奈

前回は昨年12月に茨城県笠間市で開催されているのだが、この時は社会現象を巻き起こした東京オリンピックの直後とあって、世間からは多少は色眼鏡で見られていたところもあったかもしれない。

今回は無観客でもあったし、そういったプラスαはなかったかもしれないが、昨年のリストには名前がなかった注目選手や、次世代のホープも多数エントリーしており、より幅広い選手が揃った正真正銘の実力主義、パリ五輪へ向けたガチンコサバイバルレースが幕を開けたと言えるだろう。

それに今回は東京五輪選考時とは明確な違いがある。

選手自身がオリンピックがどんなものなのかを肌で感じていることだ。

前回は初採用ということもあり、大半の人が具体的なイメージができていなかったように思うが、今や出場選手の全員が、オリンピックは自らの人生を変えてくれるもの、夢を掴むことができる場所であることを理解している。

それは他のカテゴリーのコンテストでも出場者が増加傾向にあることからもわかるし、選手の出場に対するモチベーションや普段の練習にも、確実にポジティブな要素をもたらしているだろう。そういった気概のようなものは選手達の滑りからも感じ取ることができた。

レジェンドの風格か!? 新世代の勢いか!?


準決勝敗退に終わっても、やはり存在感はピカイチ。西村碧莉のハーフキャブノーズスライド

では女子から中身を振り返っていこう。

まず出場選手に目を向けると、現段階で考えられる最高のメンバーが顔を揃えたといって差し支えない。

その中で個人的に注目していたのは西村碧莉だった。

なぜなら、いくら五輪メダリストが揃って出場していたとはいえ、過去に残してきた実績は全く引けをとっていないし、時代を牽引してきたレジェンドといえる存在だからだ。

しかし、気付けば彼女も出場最年長で唯一の20代。同世代のスケートボーダーは大半がコンテストの第一線からは退くようになってきた。まだ21歳ではあるのだが、凄まじいスピードで進化しているスケートボードの世界では、若年層の勢いが凄まじく、特に女子はそれが顕著となっているのだ。

だからこそ、彼女と新世代のスターが同じ場で鎬を削ることは、時代の行方を判断するひとつの材料になると思っていた。

だが結果は準決勝敗退。予選こそ2位通過と安定した滑りを見せていたが、準決勝はランを2本とも決めきれず、ベストトリックで彼女の代名詞でもあるハーフキャブ・ノーズスライド(進行方向とは逆側に進み、お腹側にあるセクションにボードの先端を掛けて滑らせるトリック)などを見せてくれたが及ばなかった。

それでも決勝には残ってくるかと思っていたのだが、あらためて新世代の勢いの凄まじさを見せつける結果となった。

大幅に進化したトリック構成と今後の進化

となると、通常なら優勝争いは西矢椛と中山楓奈のオリンピアン2名と共に新世代の3枚看板を形成し、国際舞台でも活躍する織田夢海の3名になるのではないか!? と、目の肥えた人は思うかもしれない。

しかし蓋を開けてみると、15歳の伊藤美優が初優勝を飾ることとなり、2位に織田夢海、3位に西矢椛が続くという結果となった。

これが何を意味するのかというと、やはり群雄割拠や戦国時代などといった言葉がハマるような気がしてならない。実際に1位と2位の得点差はわずか0.01点であったし、4位に輝いた昨年の覇者、⾚間凛⾳も含め、トリック構成を考えると、明らかに昨年より大幅な進歩が見られたからだ。


首位に躍り出た一発。伊藤美優のハードフリップ
伊藤美優の安定感あるバックサイドテールスライド

優勝した伊藤美優はハバレッジでのバックサイドテールスライドやステアでのハードフリップといったシンプルながらも難易度の高いトリック構成だったのに対し、織田夢海は今や彼女を象徴するトリックであり、女子では最高得点となったキックフリップ・フロントサイドフィーブルグラインドなどで応戦、西矢椛はいわゆる”乗れてる”滑りに加えビッグスピン・フロントサイドボードスライドなどを組み込んできた。

そして2人ともラストで前者はKグラインドのノーリーキックフリップアウト、後者はビッグスピンフリップ・フロントサイドボードスライドと更なる高難易度のトリックにトライしていただけに、もしメイクしていれば順位は間違いなく変動していただろう。ただ今回は伊藤美優のトリックチョイスと、それに伴う安定感が勝敗を決したと言える。

しかし今後世界で勝つには織田夢海と西矢椛がトライしていたようなキラートリックを持つことと、本番でメイクするスキルと精神力が必要となるだろう。本人もそこは自覚していただけに、来年以降のさらなる進化に期待したい。


爆発力はガールズNo.1。織田夢海のキックフリップ・フロントサイドフィーブルグラインド
ベストトリックではハンドレールでもメイク。西矢椛のビッグスピン・フロントサイドボードスライド

またキラートリックや進化という点では4位の⾚間凛⾳にしても進化が見られていた。今回はフェイキーオーリーからのスイッチスミスグラインド toフォワードという新しい技を披露。これは昨年の優勝を決定づけたバーレーグラインド(フロントサイド180スイッチスミスグラインド)という自身の得意とする動きを、上手に応用したトリックになる。


4位の⾚間凛⾳。 フェイキーオーリー・フロントサイドスミスグラインド180アウト

他にも入賞は出来ずとも、キックフリップやヒールフリップなどの回し系トリックや、ノーリーからハンドレールやステアに入るスケーターも現れるなど、昨年と比較しても女子はトリックが格段に進化していたのが今年の特徴だったのではないかと思う。

そういったところからパリ五輪に向けては、いかに自分の持ち味を進化させながら、複合トリックを織り交ぜていけるのかが女子ではメダル獲得のキーポイントになっていくだろう。

そんなことを予感させる女子ストリートだった。

あまりにもハイレベルな”個性”のせめぎ合い


男子ストリート唯一のオリンピアンだった青木勇貴斗も準決勝敗退というハイレベルな戦い

続いて男子ストリート。こちらもメンバーで言えば堀米雄斗以外は日本のフルメンバーといえるメンツが揃った。結果的には、残念ながらオリンピアンでもある白井空良はケガのため欠場となってしまったが、同じオリンピアンの青木勇貴斗でさえ準決勝敗退だったのだから、いかにハイレベルな戦いであったかがわかると思う。

ただ男子ストリートは、女子のようにノーリーやスイッチ、回しインなど、さらなる進化がある程度は見えているといったことは一切なく、個性のせめぎ合いというレベルに到達していたように思う。

ゆえにジャッジングスキルもこれまで以上のハイレベルを求められることになるし、はっきりいって好みの問題で点数が分かれてもおかしくないといえるほど、甲乙つけ難いレベルの高さだった。知恵熱が出るほどだったということを付け加えたうえで上位陣の中身を分析していこう。

スタイルマスター


ここを登ってグラインドしたのは彼だけ。⼭附明夢のフロントサイドフィーブルグラインドアップからのフロントサイドポップショービットアウト

まず3位の⼭附 明夢。彼の滑りは”スタイル”や”独創性”の一言に尽きるだろう。彼は日本一のフラットトリックスキルを持つと言われているだけあり、シンプルなトリックの精度からパークの使い方、さらにトリックセレクションまで他のライダーとは一線を画した動きを見せていた。

それが玄人揃いのジャッジ陣を唸らせ、高得点に繋がったように思う。このフロントサイド・フィーブルグラインドでレールを上がってのフロントサイド・ポップショービットアウトはその最たる例と言えるだろう。

メッセージを込めたトリックチョイス


このトリックに会場は大いに沸き立った。池 慧野巨のノーリーバックサイド180・フェイキーノーズグラインドリバート。

続いては2位の池 慧野巨。彼は2010年代中頃から堀米雄斗、池田大亮と共に新世代の象徴と呼ばれ、幼少期から天才と叫ばれ続けてきた存在。出場者の中ではベテランの部類になってきたが、純粋な持ち技の数であれば、おそらく今でも日本一と言えるほど、引き出しの多さに今まで何度も度肝を抜かされてきた。そのため純粋なトリックの難易度だけでは測れない、玄人をも唸らす”意外性”においては、今大会No.1だっただろう。

今回もその例に漏れず、10代のころに互いに切磋琢磨した堀米雄斗を明らかに意識したトリックセレクションに加え、準決勝では堀米雄斗が東京五輪で金メダルを確定させたラストトリック、ノーリーフロントサイド180・フェイキーノーズグラインドリバートの逆側、レールが視界から消える分さらに難易度が上がるノーリーバックサイド180・フェイキーノーズグラインドリバートを披露。

銀メダル獲得後のインタビューでは、世界大会で堀米雄斗と戦えるのが楽しみと話していた彼だが、その言葉には自身の持ち技を持ってすれば金メダリストにも負けないという自信があるようにも見えた。およそ10年間彼を見続けている筆者には、それだけのスキルは十二分に有していることを最後に付け加えておきたい。


これも堀米雄斗を意識してのトリック。池 慧野巨のノーリーバックサイド180・スイッチフロントサイドフィーブルグラインド

賢さの上に成り立つ安定感


わずか12歳で優勝。小野寺 吟雲のキックフリップ・バックサイドテールスライド

そして優勝の⼩野寺 吟雲。

彼に関して言えば、以前から海外に標準を定めて動いてきたので、実際のランを見たことがあるという人は、国内においては意外と少ないかもしれない。しかし今回の優勝でその実力は本物だと証明されたことだろう。

彼の滑りの魅力は、なんといっても抜群の安定感にあり、それはスケートボードをコンテストというフォーマットに落とし込むと、勝利を収めるために最も重要なファクターとなる。

今回の勝利者インタビューで、メイクできて一番嬉しかったトリックを聞かれた時に、ダブルキックフリップ・フロントサイドボードスライドと答えていたのだが、今までは練習でもギリギリだったのに対し、今回は余裕を持ってメイクできたと、弱冠12歳にして自分の滑りを冷静に分析していた。そうして次に繋げていく賢さを、彼は幼いながらに兼ね備えているのだろう。

筆者は以前10歳の頃の彼とストリートへ撮影に行ったことがあるのだが、その時も身体にスポットの癖を分析しながら自分に落とし込み、基礎から確実に仕留めつつ最終的には目標のトリックのメイクまで自ら考えて持っていったところを、この目で目撃している。

どうすれば成功できるのかを考え、それをどう自分に落とし込み、どう身体を動かせばいいのかと言う成功へのアプローチが、小学生にしてはずば抜けていたのだ。そして2年以上経った今もそれは変わらず、当時のまま進化し続けている。

ただ繰り出すトリックやセクション使いの豊富さが、より評価される傾向になってきている現在のシーンにおいて、トリック単体の難易度自体はものすごく高いものの、使うセクションやトリックは似た系統のものが多いのも事実。そこは賢い彼なら当然理解しているだろうが、年齢を考えればむしろ伸び代だと言えるだろう。

それでもまだまだ線の細い小さな身体に、声変わりも来ていない高い声の少年が、来年以降強化指定選手として多くの先輩たちと世界を転戦して得られるものは、何事にも変え難い経験となるはずだ。

その先には、きっと輝かしい未来が待っていることだろう。


これもベストトリックで披露するための布石だった!? ⼩野寺吟雲のバックサイドダブルキックフリップ

最後に今大会を予選から通して感じたことは、日本には世界で勝てそうな逸材がゴロゴロ眠っているなということ。だからこそスキルだけではないメンタルの部分や、コンテストに向けた調整力など、総合的な能力が今後は必要になっていくだろう。

現時点でも圧倒的なスキルがある選手たちが、これから世界を舞台にどう進化していくのかが楽しみでならない。

リザルト


女子ストリート/

1. 伊藤 美優        18.24
イトウ ミユウ(山形県)

2. 織⽥ 夢海        18.23
オダ ユメカ(愛知県)

3. ⻄⽮ 椛         18.03
ニシヤ モミジ(大阪府)

4. ⾚間 凛⾳        17.43
アカマ リズ(宮城県)

5. 上村 葵         14.76
ウエムラ アオイ(大阪府)

6. 杉本 ⼆湖        14.50
スギモト ニコ(埼玉県)

7. 中⼭ 楓奈        10.73
ナカヤマ フウナ(富山県)

8. 北野 朝⼾        9.83
キタノ セト(大阪府)


男子ストリート/

1. ⼩野寺 吟雲        27.53
オノデラ ギンウ(神奈川県)

2. 池 慧野巨         26.96
イケ ケヤキ(大阪府)

3. ⼭附 明夢         26.59
ヤマヅキ アイム(大阪府)

4. 根附 海⿓         26.40
ネツケ カイリ(静岡県)

5. 佐々⽊ ⾳憧        26.20
ササキ トア(三重県)

6. 渡辺 星那         24.96
ワタナベ セナ(東京都)

7. ⻑井 太雅         21.80
ナガイ タイガ(大阪府)

8. 甲斐 穂澄         13.17
カイ ホズミ(和歌山県)

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