平野恵一氏は林威助監督からオファー受け打撃兼野手統括コーチ就任 今年の台湾プロ野球は、後期シーズン優勝、プレーオフを勝ち…

平野恵一氏は林威助監督からオファー受け打撃兼野手統括コーチ就任

 今年の台湾プロ野球は、後期シーズン優勝、プレーオフを勝ち抜いた中信兄弟が、前期優勝・楽天モンキーズとの台湾シリーズを4連勝で制し、V2を達成した。台中市では優勝パレードが行われ、林威助監督や平野恵一打撃兼野手統括コーチら首脳陣、選手や応援団を乗せたオープントップバスの前後を、ファンのスクーター1000台以上が並走したほか、沿道には昨年の1.5倍、約15万人のファンが集まりお祝いした。

 昨季チームを11年ぶりの優勝に導いた林監督だが、「投高打低」が顕著となり、戦術の多用、スモールベースボールの重要性を感じていた。さらに、ヘッドコーチと内野守備コーチが富邦にヘッドハンティングされた中、阪神時代のチームメート・平野コーチを野手の全権コーチとして招聘した。身長169センチと小柄ながら、現役時代はシュアな打撃と小技に加え内外野をこなす守備力をもち、走塁の意識も高いオールラウンドなプレーヤー、指導者としても豊富な経験を持つ。連覇に欠かせないキーパーソンだと考え、平野コーチはそれに応えて重責を全うし、チームの底上げに成功した。

 林監督から直接「楽天に勝てるような打線をつくってほしい。ただ打つだけではなく、色々な手腕を見せてほしい」とオファーを受けた。決断を後押ししたのは、林監督が自分をよく理解してくれていること、ヘッドコーチと協力の上、打撃、守備、走塁と野手指導の全権を任せたいと言ってくれたこと。さらに2015年から毎オフ、台北市内で開催されていた少年野球教室に参加し、台湾との縁を感じていたことも大きかったという。

 台湾入りは2月末で、隔離期間もあった為、3月半ばまではリモートでの指導となった。「僕のコーチングのスタイルは誰よりも選手をしっかり見ること」と語る平野コーチにとって不自由さはあったが、スタッフのサポートのもと、映像を通じて中信の野手陣はもちろん、他球団の投手陣もチェック、選手の見極めを行い、林監督がチームの方向性を決めるうえでさまざまな提案を行った。

 前期は優勝争いこそしたものの、楽天に4.5ゲーム差の2位。後期も序盤は成績は低迷した。しかし8月下旬から徐々に調子をあげ、9月中旬から19試合で17勝1敗1分けで首位に立つと、そのまま後期を制した。この快進撃を支えたのが、野手陣では林監督が「1.5軍」と呼んだ控え選手達だった。主力野手陣の穴を埋めるどころかレギュラーを獲得する選手も現れたことで、あらためて平野コーチの手腕が注目されることとなった。

植え付けた競争意識は外国人選手にも…「これも戦略」

「今年初めのバッティング会議で、3割打ったやつ何人いるんだって聞いたら、1人(王威晨)しかいなかった。打ちたいやつはって聞いたら最初は数人、でも次に聞いた時は、結構手を挙げたので『絶対打たせてやる、俺の言うこと聞いたら絶対打てる』と言ったんですよ」正確には「3割打たせてやる」ではなく、「3割打てる選手はこういうことをしているよ」と選手たちに伝えていった。潜在力の高い選手たちはその指導を吸収し成長。さらに重要だったのは、チーム内に競争意識を植え付けることだった。

「主力に関しては特に何も言わなかったです。何をしたかってライバルをつくっただけです。これも戦略です。だから調整不足とか調子が悪かったんじゃない。出られなかった人は競争に負けた、出られた人は競争に勝っただけなんです」。競争意識植え付けによる効果は、外国人も同様だった。好リード、強肩で投手陣を牽引したドミニカ共和国出身の捕手フランシスコ・ペーニャは、2軍暮らしが続き心が折れかけていたとき、平野コーチに「それでは台湾人捕手に負けちゃうよ」と言われて再度奮起したという。

 指導は技術面にとどまらなかった。2019年ドラフト1位の外野手、岳政華は、林監督から「好打者に育ててほしい」と特に要望があった選手だった。平野コーチ「チームが彼に求めていること、監督が求めていることと、彼が今までしてきたこと、こうなりたいっていうことにおいて、いろんな要素が少しずれている」と感じていた。オールスターゲーム前、岳政華を呼ぶと「このままじゃ絶対に駄目だ」と厳しい口調で叱り、まずはチームで求められている役割を果たすよう、変化を求めたという。

 岳政華はオールスター明けの8月上旬からスタメン入りすると、2割弱だった打率を1か月で3割前後まで高め、9月上旬からはリードオフマンに定着。プレーオフ、台湾シリーズでも4割を超える高打率をマークし、シリーズでは史上最年少でMVPを受賞した。平野コーチは「はっきり言って俺は何もしてない。何か人が変わったかのように打撃も変わった。彼が勇気を持って変わってくれたんじゃないかな」と目を細め、成長を喜んだ。

7割の失敗の中身を重視、後期は意識面にも変化が…

 3割打てば一流と言われる野球界。ただ平野コーチは就任直後から「3割を10割にしようとするから調子の波が出てくる」との考えから、全体の7割を占める失敗の中身を重視するよう求めたという。そして、後期のチームの好調ぶりについて、前期から求めてきたこれらの意識面の変化も理由に挙げた。

「前半教育していたことが、後半は教育じゃなくて答え合わせできてたからよかったのかな。選手たちが変わってきてくれたっていうか、失敗のほうを見てくれるようになった。後半は何かいいところを探しながら帰ってきてくれた選手が多かった。選手たちも逆に言ってくるわけです。例えば、アウトになってベンチに帰ってきても、『負けてないっすよね』って言ってくれる。そうそう、それだよって」

 意識面、野球への取り組み方という点においては、途中退団となった牧田和久投手への言及もあった。

「年齢的に厳しいんじゃないかという声もあるなか、監督は『いい刺激になる。台湾人ピッチャーのいい教育にもなる』と言っていた。彼は違う球場に行くと、必ずホームからずっとゴロを転がして、バントの転がり方をチェックしていますよね。マウンド行ってフィーリングを真似して、足場を確認しています。いろんな作業しているんですよ。それを何人見てくれたか。試合ではなかなか結果が出なかったですけど、チームに大きな影響を与えたんじゃないかな」

 優勝パレード当日、林威助監督は「平野コーチには来季も残ってもらうことになるだろう」と述べた。来季は各チームが3連覇を阻止しようと立ち向かってくることが予想されるなか、平野コーチは選手たちに、外野に加え、内野でも「競争」をつくると明言したという。すると、選手たちは「どこにライバルがいるんだ。つくってみろ。台湾にいなければ海外から集めてこい」と「反発」、勝てば勝つほど自信をつけた選手たちの思わぬ反応に、頼もしさを感じたという。平野コーチは、来季の方針、抱負についても以下のように語った。

3連覇目指す来季、日本人ファンの来場呼びかけ「雰囲気味わって」

「1軍選手にこうしろ、ああしろっていうのはなかなか難しいけど、レベルアップとかアップデートしていくのは大事なことだから、そこのお手伝いをしなければいけない。活躍している選手にライバルをつくってあげる、そういう指導方法は大事かなと思っています。そして、活躍している選手はこうしてるよ、強いチームはこうだよ、今の野球はこうだよと伝えて、準備していかなければいけないよ、と。そういうのが先を読むプレーや、落ち着いたプレーを生み出すと思うし、選手が困らないよう何かキーをつくってあげる。そういうことをしてあげれば、少しは助けになるのかなって思っています」

「会社がどういうチームにしてほしいのか、監督はどういう野球をやりたいのか、どういう野球で勝ちたいのか。そういうのに応えられる準備をするのが僕らの仕事だと思うので、チームが求めること、監督が求めること、ファンが求めることについて、僕らがいい準備をして、選手がベストな状態でそれに応えられるよう、相手と対決できるよう、そういう環境をつくっていきたいと思います」

 現役時代のハッスルプレーのイメージそのままの「熱さ」に、冷静さも兼ね備えた平野コーチ。日本のファンへ向け、「日本で培った、学ばしてもらった経験、技術、思いを今、台湾で必要としてくださるところがあるってこと、そこに対してまず感謝の気持ちがあり、そういう人間が今、台湾にいるってことを知ってほしい」というメッセージをくれた。そして、台湾プロ野球の魅力について「それはもうまず1回台湾に来てもらいたい。そして練習から見てもらって、なかなか味わえない雰囲気を味わってほしい」と現地で直にその魅力を感じてほしいと希望した。

 台湾はこの10月中旬から国境を開放、台湾シリーズでも久しぶりに日本人ファンの姿がみられた。台湾の球場の「ドレスコード」は緩く、阪神やオリックスのユニホームを着用しての観戦も可能だ。台湾プロ野球は日本人ファンの来場を歓迎している。来シーズン、異国・台湾で林威助監督を支えながら奮闘する平野コーチをぜひ、応援しに来てほしい。試合前に声をかけたら、平野コーチもきっと喜んでくれるはずだ。(「パ・リーグ インサイト」駒田英)

(記事提供:パ・リーグ インサイト)