今季は育成から支配下登録、シーズン終盤はセットアッパーとしてCS、日本シリーズで快投 オリックスのリーグ連覇、26年ぶり…
今季は育成から支配下登録、シーズン終盤はセットアッパーとしてCS、日本シリーズで快投
オリックスのリーグ連覇、26年ぶりの日本一に貢献したのが、宇田川優希投手。シーズン後半に1軍に定着すると剛速球を武器に獅子奮迅の活躍を見せ一躍、全国に名を轟かせた。1998年生まれ、育成出身右腕の“覚醒”した瞬間を見届けたのが、平井正史育成投手コーチだった。
クライマックスシリーズ、日本シリーズで見せた魂の投球はシーズンが終わった今でもファンの記憶に新しいだろう。ヤクルトとの頂上決戦で宇田川は4試合に登板し、計5回2/3を無失点で1勝2ホールド10奪三振をマークし、チームに欠かせない“勝利の方程式”として起用された。
2年目の宇田川は今シーズンは育成スタート。年俸240万円から7月に支配下契約を勝ち取り、1軍では150キロ後半の直球とフォークを武器に優勝争いを繰り広げるチームの救世主となった。ルーキーイヤーの昨季は2軍でもわずか1試合の登板だった“未完の大器”はなぜ、ここまで成長できたのか?
宇田川が入団した2021年から育成投手コーチを務める平井コーチは「体は大きく、持っているものは素晴らしかった。真っすぐも速く、なにより一番は勝負球として使える程のフォークがあった」と、そのポテンシャルに驚いたという。ただ、限られた環境でしか高いパフォーマンスを出せないことが欠点だった。
球場によって固さの変わるマウンド、雨などの天候の変化、制球を乱した後に切り替えることができないメンタル。抜群のポテンシャルを誇る右腕だったが、試合によって好不調の波が激しく安定した結果を残すことができなかった。
6月の育成試合で見せた“仕草”「これでもう大丈夫」「もうここの試合で投げる投手じゃない」
大卒出身の育成右腕にそうチャンスは多くない。結果を残さなければ“カットリスト”候補に挙がる立場。試合でアピールすることが必要不可欠な右腕に、平井コーチは、あるアドバイスを送った。
「彼は入団当初からあまり球を投げなかった。せっかくいいものを持っているのに、長くブルペンに入らない時期もあったので。去年からずっと言っていたのは『3日間、ブルペンは空けるな』です。育成の選手は、打たれようが何しようが、投げられなくなったら終わり。そういった状態を作っていかないと下から上がっていくのは無理だろうと。ましてや、1軍では毎日投げないといけない場面もくる」
野球への取り組み方に変化が見られたのは1年目のシーズン終盤。徐々にプロ仕様の肉体、メンタルに変貌を遂げると、その才能は一気に開花した。今シーズンは2軍での登板も増えると、支配下に上がる直前の6月。アマチュアとの育成試合に登板した宇田川は1球ごとに空を見上げ、心を落ち着かせる仕草を見せることがあった。
「普段は見せなかった姿だったので『何で空見てるんだ?』と聞くと、彼は『一度、頭をリセットするためです』と。いつもはピンチになった後に反省していたが、気持ちに余裕ができ切り替えることができていた。言い方は正しいか分からないですが“言い訳”することなく、どんな環境でも自分の中で処理できるようになっていた。これでもう大丈夫だと。育成会議でも『もうここの試合で投げる投手じゃない』と伝えました」
来季、新人王の資格がある宇田川「大事なのは今年1年やったことを来年もできるか」
支配下に上がり、その後の活躍は誰しもが知るところだろう。宇田川の今季の登板イニングは22回1/3。3年目を迎える来シーズン、新人王の資格を残している。
「素晴らしい成績を残してチームの勝利にも貢献した。大事なのは今年1年やったことを来年もできるか。“計算できる投手”が多ければ多いほど、チームは強くなる。来年の春にどのような姿を見せてくるか楽しみですね」
圧倒的なパフォーマンスを見せた宇田川は来季、リーグ3連覇、連続日本一を狙うチームにとっては必要不可欠。日本一の投手陣はさらなる進化を見せるのか。年間を通して1軍で活躍する、一本立ちした姿を期待したい。(橋本健吾 / Kengo Hashimoto)