明大前から徒歩1分…6月にオープンした「THE ANCHOR BASE」 広さ200平方メートルのスペースには、野球への…

明大前から徒歩1分…6月にオープンした「THE ANCHOR BASE」

 広さ200平方メートルのスペースには、野球への恩返しと野球少年・少女たちへの思いが詰まっている。今年6月、東京都心に室内練習場「THE ANCHOR BASE」がオープンした。利用料は相場の半額ほど。子どもたちが目いっぱい野球を楽しむだけではなく、将来を見据えた体の使い方や怪我を予防する知識を学ぶ場にもなっている。

 東京都世田谷区、京王線「明大前駅」から徒歩1分。ビル1階の扉を開くと、秘密基地へ来たように心が弾む。鮮やかな緑色の人工芝にビンテージ感のある黒いネット。壁はレンガ風にデザインされている。「THE ANCHOR BASE」。古き良き米国のボールパークをコンセプトにした室内練習場だ。

 施設を立ち上げたのは、都内でバッグや小物を製造・販売する会社を経営する並木健さん。少年野球をしている3人の息子を育てる父親で、息子たちが所属するチームでコーチをしている。

 並木さんの野球歴は長くない。だが、出会いに感謝する気持ちは強い。野球を始めたのは中学3年生の時だった。幼馴染に誘われて試しに球を投げると、そのスピードに驚かれたという。

「筋トレをやっていたこともあって、幼馴染から球が速いから一緒に野球をやろうと声をかけてもらいました。当時は目標や夢を持てず、将来に不安を持っていました」

長男がチームに入って再び野球と接点、投手コーチ任され疑問が…

 並木さんは野球に没頭した。「どうせやるなら全力で」とチームメートに追いつくため人一倍練習。上達していくのが楽しかった。本を読んで知識を増やすなど、自分なりのトレーニング方法も取り入れて上のレベルを目指した。肩を痛めて野球歴は4年ほどに終わったものの「希望を持てたのは野球のおかげです」と感謝する。

 再び野球との関わりを持ったのは5年前。現在小学6年生の長男が、軟式野球チームに入った時だった。野球経験者の並木さんはチームの投手コーチを頼まれた。子どもたちを指導しているうちに、ある疑問が芽生える。

「自分の感覚で教えてもいいのだろうか」

 野球の指導に絶対はないかもしれない。ただ、自分自身の感覚や経験ではなく、根拠が必要だと考えた。自身が選手としてプレーしていた頃から約20年経っている。考え方や練習方法は当時から変化している。並木さんは本を読んだり、トレーナーや指導者の話を聞いたりして、小学生に必要な体の使い方や怪我の予防について学んだ。

 運動能力が伸びる小学生年代は動きのバリエーション習得、剛性と柔軟性の大切さを伝え、バットやボールを使わないトレーニングも取り入れている。並木さんは「小学生は目の前の大会で勝つ以上に、中学生以降に生きる体の使い方や考え方を身に付けることが大事だと思います。野球を通じた成功体験で、挑戦や課題を解決する考え方を培う大切な時期だと思っています」と語る。

 5年前は10人ほどだったメンバーは今、常時35~40人になった。並木さんは野球をする子どもたちが増えたことにうれしさを感じる一方、子どもたちが希望を失わないように環境の向上を目指している。新設した室内練習場には、ラプソードやメディシンボールといった機器やトレーニング用具を設置。子どもや保護者、指導者に怪我を予防する知識を得てもらうために、トレーナーを招いたイベントも開催している。

「野球をお金持ちのスポーツにしたくない」 収益で次の施設をつくる夢

 施設は交通アクセス抜群の都心にありながら、利用しやすい価格設定になっている。全面を貸切って1時間6000円と、相場の2分の1ほど。チームで利用すれば、1人当たり数百円で収まる。平日は野球教室「BCSベースボールパフォーマンス」に練習場を貸し出すことで安定的な収益を確保し、一般利用の価格を抑えている。

 並木さんは「野球をお金持ちのスポーツにしたくないんです」と話す。他の競技と比べて用具一式をそろえると費用負担が大きい上、練習場所の利用も高くなれば、野球を選ぶ子どもや保護者は減ると懸念する。施設を維持するだけであれば、「もっと安くできますし、無料でもいいと思っているくらいです」と話す。だが、1時間6000円の利用料で得た利益を活用する目的がある。

「東京以外の地域にも室内練習場をつくってほしいという声が多いので、収益を次の施設建設につなげる夢もあります」

 施設名の「ANCHOR BASE」には「希望の基盤」との思いを込めた。「選手をはじめ野球に関わる大人たちも、パフォーマンスアップや怪我の予防、体づくりの大切さを楽しみながら学べる基盤となる場所にしたいと思っています」と並木さん。希望の象徴と言える野球少年・少女を力強く支える。(間淳 / Jun Aida)