世界2位と戦える姿、意地は見せた──。しかし「勝つ流れ」には持っていけなかった。「リポビタンDツアー2022」でヨーロッパ遠征中のラグビー日本代表(世界ランキング10位)は、現地11月20日にフランス代表(同2位)とのテストマッチに臨んだ…

 世界2位と戦える姿、意地は見せた──。しかし「勝つ流れ」には持っていけなかった。

「リポビタンDツアー2022」でヨーロッパ遠征中のラグビー日本代表(世界ランキング10位)は、現地11月20日にフランス代表(同2位)とのテストマッチに臨んだ。開催地のトゥールーズは、来年のワールドカップで日本代表が予選プール2試合を行なう場所だ。



フランス代表のタックルにも負けないWTBディラン・ライリー

 1週間前の11月12日には、エディー・ジョーンズ前日本代表監督が率いるイングランド代表のパワーラグビーの前に13−52で大敗。その反省を生かすべく、母国開催のワールドカップに向けて強化が進むフランス代表相手に勝利を目指した。しかし、後半2トライを挙げたものの力及ばず17-35で敗れた。

 今年最後のテストマッチに向けて、日本代表のジェイミー・ジョセフHC(ヘッドコーチ)は中野将伍をCTB(センター)に、ディラン・ライリーをWTB(ウィング)に配置し、ディフェンスのフィジカル強化を図った。

 ゲームをコントロールするハーフ団はSH(スクラムハーフ)に25歳の齋藤直人、SO(スタンドオフ)に21歳の李承信(リ・スンシン)と若手ふたりを積極的に起用。また、前主将FL(フランカー)ピーター・ラブスカフニは今年初めて先発での出場となった。

「バランスを考えながら、攻める時は攻める、キックを蹴る時は蹴って、チャンスを探していきたい。フィジカルに戦い、ゲームの最初にいい流れを掴み、自信をつけられるような試合にしたい。相手は世界2位ですが、勝ちにいきたい」(ジョセフHC)

 一方、近年テストマッチ無敗で12連勝中のフランス代表は、11月に入っても好調をキープ。直近ではオーストラリア代表(30-29/11月5日)、南アフリカ代表(30-26/11月12日)に勝利している。

「(来年の)ワールドカップの決勝トーナメントを想定し、日本代表戦は決勝戦として捉えている」

 フランス代表を率いるファビアン・ガルティエHCは、格下の日本代表が相手でも手を抜くことなく、本気のメンバーで臨んできた。

CTB中野将伍が反撃のラン

 雨が降りしきるなかで始まった試合は、いきなりNo.8(ナンバーエイト)姫野和樹がピック&ゴーで抜け出し、日本代表に勢いをもたらす。イングランド代表戦で課題となったマイボールスクラムでも、1本目はペナルティを犯してしまったがその後の7本は安定させて、1週間の練習で対応する修正力の高さを見せた。

 平均体重で5キロ上回るフランス代表FW陣は、近場を執拗に攻めてくる。だが、日本代表FW陣も体を張って相手のパワーに対抗した。

「フィジカルの部分は先週の反省点をしっかり出して、プレッシャーをかけることができた。全体的にFWはスクラムにうまく対応できていたし、モールの部分もしっかりできた」(ジョセフHC)

 しかし前半7分、相手WTBダミアン・プノーにトライを許したあとは有効なアタックを重ねることができず、逆に3本のペナルティゴールを重ねられて3-14とリードを許す。日本代表は自分たちからハイパントを蹴って「カオス(崩れた状態)」を作りだそうとしたが、それも相手に対応されて好機は作れなかった。

 36分には相手SHマキシム・ルクに一瞬の隙を突かれ、突破を許してトライを献上。前半を3-21の18点差で折り返すことになる。キャプテンHO(フッカー)坂手淳史は「ソフトモーメントでイージーなトライを取られてしまい、点数が開いてしまった」ことを悔やんだ。

 このまま、ずるずると試合の流れを持っていかれてしまうのか......。そう思われた矢先の後半2分、齋藤のパスに走り込んできた中野がラインブレイク。50メートルほど走りきって、最後はフォローした齋藤が左中間に押さえて10-21と11点差に迫る。

「前半が終わった時に『あの位置が空いている』とコミュニケーションをしていたので、それがトライにつながった。サポートの声も聞こえていましたし、トライしてくれるだろうと思ってパスしました」(中野)

ショートパントにやられた

 さらに追い上げたい日本代表は、後半10分過ぎからSH流大、No.8テビタ・タタフ、WTB松島幸太朗を投入し、テンポアップを図って相手陣でアタックをしかけた。後半23分、ラインアウトのサインプレーからWTBシオサイア・フィフィタがトライを奪ったが、後半も2トライを許して11点差から詰めることができず、17-35でノーサイドを迎えた。

 後半はアタックが増えた一方、反則もひとつしかしないなど規律の意識も高かった。だが、世界の強豪相手に11点差を詰めることができなかった。「チャンスは作れた」(齋藤)が「勝つ流れ」には持っていくことができなかった。

 ボール保持率はフランス代表の59%に対し、日本代表は41%。ボールを持って攻める時間は思ったより増やせなかった。また相手陣22メートル内でのプレータイムも、フランス代表の4分45秒に対して日本代表2分56秒と少なかった。

 後半に奪われた2トライを振り返ると、相手SOマチュー・ジャリベールがショートパントを自らキャッチすることで決定的な好機を作っていた。フランス代表は雨が降ったあとの重馬場のグラウンドでありながら、キックをうまく使ってトライを挙げていた。

 強豪国相手にパスラグビーでプレッシャーをかけつつ、キックも交えながらどうやって相手を崩し、最後にトライを奪えるか──。それが今後の課題だろう。「アタックのところでモメンタムを作ることができる部分もたくさんあったが、最終的にフィニッシュまで持っていくことができなかった」とジョセフHCも反省する。

 ただ、ポジティブな面もある。フランス代表を相手にスクラム、モール、コンタクトのフィジカルでしっかり戦えたこと、攻撃ではアタッキングチームが明確な意志を見せて後半2トライを挙げられたことは、来年のワールドカップにつながる。

「自分たちのやってきたプレーを出せた部分もありました。強みの部分はワールドカップまでに伸ばし、いいゲームがしたい」(坂手主将)

 2019年ワールドカップ以後、コロナ禍の影響で日本代表は1年半あまり活動が止まっていた。しかし、この秋は3カ月にわたって合宿と試合を繰り返し、世界のトップの強豪国(ニュージーランド代表、イングランド代表、フランス代表)と対戦できた経験は非常に大きい。

「世界のすべてのチームを打ち負かしてきたチーム(フランス代表)と対戦し、今日のパフォーマンスは自信につながる。ワールドカップに向けていい状態です」(ジョセフHC)

 来年ワールドカップで戦うフランス・トゥールーズの地で、日本代表はイングランド代表戦で失いかけた自信をすこし取り戻すことができた。