規定投球回に到達して与四球「11」、1950年野口二郎氏の記録を更新 日本ハムの加藤貴之投手が今季、歴史的な投球を見せた…

規定投球回に到達して与四球「11」、1950年野口二郎氏の記録を更新

 日本ハムの加藤貴之投手が今季、歴史的な投球を見せた。規定投球回に到達したうえで、与えた四球はわずか「11」。野口二郎氏が1950年に記録したシーズン与四球「14」を、実に71年ぶりに更新した。今回は、加藤の「年度別指標」「投球コース」「結果球割合」「球種別被打率」という4つのデータを紹介。新球場で迎える2023年の開幕投手にも指名されている左腕が見せた、過去に類を見ないレベルの快投をより深く掘り下げていきたい。

 2015年のドラフト2位で日本ハムに入団。1年目から先発と中継ぎを兼任し、30試合に登板して7勝。2021年までの6年間のうち5シーズンで防御率3点台を記録した。さまざまな役割をこなせるがゆえに起用法が定まりきらない部分はあったが、2021年から先発に固定されるとさらに進化。自身初の規定投球回到達を果たし、プロ初完封も記録した。2022年は交流戦で規定投球回をクリアしたうえでの防御率0.00というパ・リーグ投手史上初の快挙を成し遂げる。71年ぶりに年間最少四球の記録を更新したことも含め、その投球は過去に類を見ないレベルのものだった。

 次に、加藤が記録してきた年度別指標を見ていきたい。通算奪三振率は6.60と決して高くはない一方で、通算の与四球率は2.04と優秀だ。これらの数字からも、四球を出さずに制球よくゾーン内で勝負し、打たせて取る投球を展開していることがわかる。過去の傾向を見ると、先発時は制球が良くなる傾向にあり、ペース配分を考えずに済むリリーフ投手の方が先発投手よりも与四球率が低くなる傾向にある中で、加藤の特性は異質といえる。

 その中でも、2021年は四球率1.26、2022年が0.67と、ここ2シーズンでさらなる向上を見せている。それに伴い、奪三振を四球で割って求める「K/BB」も、2021年は4.86、2022年は8.91と大きく向上。奪三振数が少ないにもかかわらず、優秀とされる水準の3.50を大きく上回っている点は特筆ものだ。

 通算の被打率は.254と低くはないが、セイバーメトリクスの観点からいえば、被打率は投手によってコントロールできる要素が少なく、四球はその逆とされている。すなわち、圧倒的な四球の少なさは、投手としての能力の高さを反映しているということだ。セイバーメトリクスで重視されるK/BBは驚異的な水準に達し、1イニングで出した走者の数を示す「WHIP」も1を下回る。こうした各種の数字にも、加藤の投球がいかに支配的だったかが示されている。

 続いて、今季の加藤が結果球として記録した投球コースを紹介しよう。結果球の多くがストライクゾーン内で記録されており、ここにも制球力の良さが示されている。高さとしては真ん中の3コースがいずれも60球台で、次いで低めの両コーナーが多い。安定してストライクを取れるということに加えて、左右どちらの打者に対しても、精度の高い内外角の出し入れを行える特性の表れと言える。

“七色の変化球”で打者を翻弄…90キロ台スローカーブも武器

 またボールゾーンの中では真ん中低めの3コースが多い。このコースは投手からすれば変化球で空振りを取る際に狙う場所であり、加藤もフォークやカーブを投じるケースが多かった。これらの3コースに行く球が多いという事実は、いわゆる「投げ間違え」が少ないことを示すものでもあるだろう。

 続いて結果球における球種の割合を確認していく。ストレートは130キロ台後半~140キロ台前半と決して速くはない。だが、130キロ台後半という速球とほぼ同じ速度で変化するシュートと、それと大差ない130キロ台前半のスピードで縦に落ちる決め球のフォークが、相乗効果によって速球の攻略を難しくしている。

 また、130キロ前後のカットボールと、120キロ前後の緩いスライダーという、同じ方向に曲がる2つの球種にも約10キロの球速差が存在する。それに加えて、110キロ台のチェンジアップと、時には100キロを下回るスローカーブといったブレーキの利いた球も持つ。7つの球種を巧みに操り、自由自在に緩急をつけることで打者の的を絞りづらくしている。これらの球種の中でも、ストレート、フォーク、カットボールの3球種は結果球となる割合も比較的多く、球速帯も近い。この3球種の使い分けが、加藤の投球の軸となっていた。

 最後に球種別被打率を紹介する。結果球になる割合の多かったストレート、フォーク、カットボールのうち、フォークとカットボールはいずれも被打率1割台に抑え込んでいた。この2球種がいかに効果的だったかを端的に示す数字であり、比較的多投する傾向にあった理由もうかがえよう。チェンジアップの被打率は.100と抜群の水準にあり、カーブもシーズン平均の被打率に近い数字を記録。この2球種は投じられる割合が比較的低く、球速帯の遅さも重なって打者にとっては対応が困難だったことがわかる。

 奪三振に目を向けると、速球とフォークの2球種がとりわけ多くの数字を記録。抜群の制球で見逃し三振を奪う速球と、鋭く落として空振りを取るフォークの優れたコンビネーションは、打たせて取る投球スタイルの中でも、要所でその効果を発揮していた。鋭く落ちる決め球のフォーク、被打率の低いカットボールとチェンジアップ、90キロ台のスローカーブといった独自の武器も備えており、文字通りの“七色の変化球”によって的を絞らせない投球術も大きな強みだ。

 加藤が唯一無二の投球スタイルを備えていることは、圧倒的な与四球の少なさにも示されている。新球場で公式戦最初のマウンドを踏む投手となる来季も、持ち前の投球術で新たな金字塔を打ち立ててくれるかに注目したい。(「パ・リーグ インサイト」望月遼太)

(記事提供:パ・リーグ インサイト)