皆さんは「なんだかメンタル的な疲れを感じる」や「ふとした時に自己嫌悪に陥っている」などの感覚はありませんか?それは、もしかすると共感疲労からくる疲れや燃え尽き症候群の予兆かもしれません。そこで今回は、海外論文をもとに、共感疲労…

 皆さんは「なんだかメンタル的な疲れを感じる」や「ふとした時に自己嫌悪に陥っている」などの感覚はありませんか?それは、もしかすると共感疲労からくる疲れや燃え尽き症候群の予兆かもしれません。そこで今回は、海外論文をもとに、共感疲労の脳科学的な見方を説明し、アスリートにとって効果的な共感疲労対策を紹介していきます。

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共感疲労とは?

暗いニュースに触れ、当事者の事を思い心理的に疲弊する状況や、実際にネガティブな状況に陥っている他者をケアをしすぎることによるメンタルの落ち込みを、脳科学や認知科学の世界では「共感疲労」と呼びます。

共感疲労による心理的な疲労が蓄積されていくと、イライラしやすくなったり、自己嫌悪に陥るなどのメンタル的な問題が出てきます。さらに肥大化していくと、モチベーションが全く湧かなく、燃え尽き症候群(バーンアウト)になってしまう可能性もあります。

特に心理的外傷を負った患者を診察しなくてはならない病院などで、共感疲労は深刻ですが、スポーツを行うアスリートの方々も、過剰なプレッシャーにさらされる日々の中、インターネットに接続すれば暗いニュースが溢れている現代は、アスリートも共感疲労にさらされやすい状況です。

他人のケアが過剰に起こってしまう、または、他人の状況によってネガティブなトラウマなどの経験を呼び起こされる時、共感疲労が起こるわけですが、自分本人は、認識しないうちに心理的に疲弊しています。

脳科学的に共感疲労のメカニズムを見てみると、他者の苦痛を感じている時、脳内では前帯状皮質、および内側前頭前野と側頭極の活性化が、Mindfulness meditation regulates anterior insula activity during empathy for social painによる研究では明らかにされています。

これらは、主に社会的感情や共感、情動などの感情を扱っており、本人に特に痛みが無い状況でも他者の痛みを感じる事によって活性化します。このメカニズムによって、過剰に他者の痛みを感じ、ストレスが蓄積されると共感疲労が引き起こされます。

脳科学的な共感疲労対策

それでは、有効的な対策はどのようなものがあるのでしょうか。脳科学的に効果が実証されている対処法を2つ紹介します。

1、瞑想(注意コントロール)

Physician Burnout and Compassion Fatigue: Individual and Institutional Response to an Emerging Crisisでは、共感疲労や燃え尽き症候群に悩む人たちを対象にマインドフルネス瞑想を行ったところ、症状の低下やストレスの軽減への効果が示唆されています。

先述の通り、他者の痛みを感じた際には、前帯状皮質などの脳の一部が活性化されますが、瞑想を行っている人々は、活性化度合が他と比べ、少ない傾向にあった事もこの研究では示唆されています。

はじめに触れたように、共感疲労は激しい自己嫌悪に陥りやすいです。ストレス過多になると「周りは自分よりも優れているのに、なんで自分は…」など、自分を責めてしまうため、注意コントロールを鍛える瞑想が、共感疲労対策として有効です。特に第一線で活躍するアスリートこそ、周りからの期待に応えられなかったときは、自己嫌悪に陥りやすいでしょう。

自分を責めるとき、自分を批判する自己意識から一歩下がって、注意をコントロールすることが重要です。不安感や自己嫌悪など、感情を客観視できる能力が鍛えられるため、瞑想は、アスリートの共感疲労対策に有効な策です。

他にも瞑想を行う事によって、自分と他者をうまく切り分けて考えるようになりやすいです。他者の痛みによって自分のメンタルも痛みを感じてしまうのが、共感疲労の根本的な問題ですが、瞑想は、そんな他者と自己が脳内で一体化してしまっている状況を客観視し、切り分ける事を可能にしてくれます。

2、自分に対する思いやり(セルフコンパッション)

セルフコンパッションという「自分を思いやる気持ち」もひとつの重要な要素です。共感疲労は、英語でCompassion fatigue (思いやり疲労) とも呼ばれます。他者を思いやる気持ちが過剰すぎる事によって、メンタル的な疲労が蓄積するメカニズムですが、自分に対する思いやりは少ないのが特徴です。

セルフコンパッションとアスリートの関連性を調べた、科学的な裏付けでは、2014年にカナダのサスカチュアン大学やトロント大学らが行った、女性アスリートとセルフコンパッションを調査した研究があります。

ここでは、セルフコンパッション(自分を思いやる気持ち)が強い人ほど、責任感が強く、自主的に練習を行う事が多いのに加え、幸福感も高い傾向が見られた模様です。

セルフコンパッションは、先ほどの瞑想と同様に簡単に取り入れる事が可能です。自己批判に陥っている際、まず自分を責めている自己を認識し、自分を批判する代わりに、優しい言葉をかけてあげるのが重要です。是非試してみてください。

参考文献
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC6867068/
https://link.springer.com/article/10.1007/s40746-019-00146-7#Abs1
https://self-compassion.org/wp-content/uploads/publications/AthletesWellbeing.pdf

[文:スポーツメンタルコーチ鈴木颯人のメンタルコラム]

※健康、ダイエット、運動等の方法、メソッドに関しては、あくまでも取材対象者の個人的な意見、ノウハウで、必ず効果がある事を保証するものではありません。

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一般社団法人日本スポーツメンタルコーチ協会
代表理事 鈴木颯人

1983年、イギリス生まれの東京育ち。7歳から野球を始め、高校は強豪校にスポーツ推薦で入学するも、結果を出せず挫折。大学卒業後の社会人生活では、多忙から心と体のバランスを崩し、休職を経験。
こうした生い立ちをもとに、脳と心の仕組みを学び、勝負所で力を発揮させるメソッド、スポーツメンタルコーチングを提唱。
プロアマ・有名無名を問わず、多くの競技のスポーツ選手のパフォーマンスを劇的にアップさせている。世界チャンピオン9名、全日本チャンピオン13名、ドラフト指名4名など実績多数。
アスリート以外にも、スポーツをがんばる子どもを持つ親御さんや指導者、先生を対象にした『1人で頑張る方を支えるオンラインコミュニティ・Space』を主催、運営。
『弱いメンタルに劇的に効くアスリートの言葉』『モチベーションを劇的に引き出す究極のメンタルコーチ術』など著書8冊累計10万部。