女子テニス国別対抗戦ビリー ジーン・キングカップ(以下BJKカップ、旧フェドカップ)のプレーオフ「日本vsウクライナ」が、有明コロシアムで開催された。 日本(ITF国別ランキング18位、4月19日づけ/以下同)は、ホームでの戦いながらウク…

 女子テニス国別対抗戦ビリー ジーン・キングカップ(以下BJKカップ、旧フェドカップ)のプレーオフ「日本vsウクライナ」が、有明コロシアムで開催された。

 日本(ITF国別ランキング18位、4月19日づけ/以下同)は、ホームでの戦いながらウクライナ(26位)に1勝3敗で敗れ、ファイナルズ(トップ12カ国で世界一を決定する戦い)進出をかける予選(18カ国)への出場権を手にすることはできなかった。2023年シーズンでは、アジア/オセアニア・グループ1から再び挑戦することになった。



ウクライナチーム、日本チーム、応援に駆けつけた在日ウクライナ人が集まり、平和を願った

 ウクライナ戦で、シングルス1の内島萌夏(WTAランキング105位、11月7日づけ/以下同)が2敗、シングルス2の土居美咲(180位)が1敗し、チームとして3連敗を喫した。2022年から日本代表入りをしてまだ経験が浅い21歳の内島は、シングルス1の責任が重荷だった部分も見受けられ、敗戦後の会見では涙を流す場面もあったが、この苦い経験を今後の糧にしていくだろう。

「まだまだ自分は、こういう舞台で戦う経験も浅いですし、トップの選手と戦えるところに今年やっと上がってきた。まだまだ戦えていないですし、課題もいっぱいなので......。そんな中、土橋監督に選んでいただいて、勝てなかったのは本当に申し訳ないんですけど、来年は杉山(愛)さんのチームになると思うので、もっと強いワン(シングルス1)になれるように、これからもっと頑張りたい」(内島)

 2016年シーズンから日本代表監督を務めた土橋登志久監督にとって、ウクライナ戦が最後の采配となり、2023年から元トップ10プレーヤーの杉山愛さんが次期監督を務めることになっている。新生"杉山ジャパン"として世界のトップへ向けて再挑戦となる。

ウクライナ選手たちの声

 今回のBJKカップでは、ロシアによる軍事侵攻が続いているなか、ウクライナチームは来日。メンバー全員が、日本テニス協会が用意した東京滞在でのホスピタリティに感謝の意を述べた。そして、ウクライナ情勢に関する質問がなされたことにも感謝していた。それは、ウクライナの現状を少しでも多くの人に知ってもらい、戦争終結への糸口を見つけたいという思いがにじみ出ているように感じられた。

 チーム最年長である30歳のリュドミラ・キチェノク(WTAダブルスランキング9位)は、今季トップ8チームしか出場できないツアー最終戦・WTAファイナルズに出場して見事ベスト4に進出。ファイナルズ開催地のアメリカ・フォートワースから来日した。

「今、難しい時間に直面していて、(ウクライナの)全国民に言えることです。私たちも東京にいながら、ニュースなどを見ているととても苦しい思いです。特に、親戚たちが祖国にいますので、とても厳しい状態です。自分の心に言い聞かせているのは、精神的に強くいなければいけないこと。(テニスの)練習も、できるだけいつもどおりできるようにしています。悪いニュースを耳にすると、簡単ではありませんが、祖国で戦っている人と同じように、自分たちもタフでいなければいけないし、勇気を持たなければいけないと思っています」

 22歳のカタリナ・ザバツカ(339位)も、テニスの活動を続ける難しさを感じている。

「ウクライナ選手はみんなそうだと思うんですが、練習と戦争のこと、自分のなかでバランスをとるのは非常に難しいと感じています。ニュースを見ないようにしていますし、コートにいる時は、コート上で起きていることに集中しようとしていますが、やはり簡単に切り離せるものではありません。

 祖国を助けること、寄り添うことを心がけています。できるだけ早くこの事態が終息することを願っています。練習中は、できるだけテニスに集中しようとして、(戦争を)忘れようとしていますが、その一方で、祖国で起こっていることを知ることも必要ですので、そのバランスが難しいといつも感じています」

 ワールドツアーで成長中である20歳のマルタ・コスチュク(70位)は、チーム最年少であるにもかかわらず、母国にいる子供たちの未来を案じた。

「正直に言えば、我々のメンタルを考えるよりも、祖国にいる若い世代、子供たちの将来を考えることが一番大切だと思います。私たちはある程度出来上がった選手ですので、プロとしていろいろコンタクトをとって、世界中のどこでも練習することが許されます。なので、ある程度バランスをとって生活をすることができますが、子供たちはそういうわけにはいきません。

 子供たちのことをできるだけ考え、助けたいという気持ちが強いです。私個人としては、その実現を自分のミッションとして考えています。このような状況(ロシアによる軍事侵攻)はもう8カ月以上続いていますが、振り返ると、すごくつらいことなどいろいろありますけど、これらを踏まえて、これからも努力し続け、絶対にあきらめず、近い将来この状況に打ち勝てることを望んでいます」

テニス界にも影響

 試合後には、TPC(テニスプレーヤーズクラブ)よりウクライナへ寄附金(金額非公表)の贈呈が行なわれた。TPCは、個人・非営利・ボランティアの精神で日本のテニス選手(ジュニア含む)を支援することに賛同した人たちが集まって活動している団体だ。有明コロシアム・センターコートでの寄付金贈呈式では、TPCの世話人であり、日本テニス協会理事待遇の青木弌(はじめ)氏により目録がミハイル・フィリマ監督に渡された。

 現在、国際テニス連盟(ITF)主催のBJKカップや男子国別対抗戦デビスカップでは、ロシアとベラルーシの参加を認めていない。

 一方、ワールドプロテニスの男子ATPツアーと女子WTAツアーでは、ロシア選手やベラルーシ選手は、国名や国旗の表示は許されていないものの、個人資格で参戦している。

 ただ、ウクライナ選手のなかには、個人資格での参加も認めるべきではないという意見もあり、日本人には計り知れない、ロシアに対するウクライナ人の憎悪の感情も見受けられる。ロシア人全員が悪人ではないことはわかっていても、当事者であるウクライナ人からすれば簡単に割り切れない部分もあるだろう。

 フィリマ監督も「ウクライナ人として、この状況が早く終わることを望むだけです」と語った。

 とかく日本では、ウクライナでの惨状を遠い異国での戦争だととらえてしまいそうになるが、ウクライナ人は、今この瞬間も、母国で理不尽な軍事侵攻によって命を失うかもしれない危険や日常生活を脅かされる可能性にさらされている。

 だからこそ、ウクライナのプロテニスプレーヤーたちが、東京で発してくれた言葉へ真摯に耳を傾けるべきではないだろうか。そして、再びウクライナに平和がもたらされ、ウクライナ人の当たり前であるべき日常が取り戻されることを切に願いたい。