カタール・ワールドカップ開幕まで、1週間を切った。世界中が楽しみにする大会だが、単なるお祭りで済ませてはいけない問題が…
カタール・ワールドカップ開幕まで、1週間を切った。世界中が楽しみにする大会だが、単なるお祭りで済ませてはいけない問題がある。開幕直前だからこそ知っておくべき問題点と利点を、サッカージャーナリスト・後藤健生が突く。
■FIFA前会長の「今さら」発言
国際サッカー連盟(FIFA)のゼップ・ブラッター前会長が、スイス・メディアのインタビューで「ワールドカップのカタール開催は間違いだった」と発言したと伝えられている。
「カタールはワールドカップを開くには小さすぎる。自分自身はアメリカに投票したが、ヨーロッパ・サッカー連盟(UEFA)のミシェル・プラティニ会長がフランスのニコラ・サルコジ大統領の要請でカタール支持に回った」といった趣旨のようだ。
「なにを、今さら」という発言である。カタール大会開催が近づくに連れて、カタール開催に対する批判の声が高まってきたのに乗っかった非常に軽い発言のように聞こえる。
サルコジ大統領の話(カタールがフランス政府に働きかけた)という話が本当のことなのかどうかは知らないが、2010年のカタール開催決定から10年以上も経って大会開催が間近に迫った時に持ち出すべき話ではなかろう。
カタールに開催権が与えられたのが、カタールの汚いお金によるものであることはおそらく間違いないだろう。たとえ、ブラッター前会長自身がカタールから金銭を受け取っていなかったとしても、FIFAを金の力によって影響されやすい組織にしてしまったのは、2010年までに10年以上会長の座に君臨し、ジョアン・アヴェランジェ会長時代から事務局長として様々な権限を握っていたブラッター前会長自身だったのではないか。
後に、さらに商業化を推し進める方向に変化したUEFAによる圧力で会長の座を追われたのが事実だとしても、ブラッター自身がサッカーというスポーツの商業化に大きな責任を追っているのは間違いない。
ワールドカップのカタール開催、あるいはそれにともなう11月開催については開催国決定以来、疑問や批判の声が後を絶たない。せっかくブラッター前会長が話を蒸し返してくれたのだから、ここで問題点を整理しておこう。大会後にカタール大会を評価し直すためにも必要な作業である。
■疑われていた汚い資金の流れ
まず初めに2022年大会開催国としてカタールが選ばれた経緯について振り返っておこう。
2018年大会と2022年大会の開催地は2010年12月に開かれたFIFA理事会で、資格停止中の人物を除く22人の理事の投票によって同時に決定された。調整の結果2018年はヨーロッパ大陸、2022年はそれ以外の大陸で開催されることとなった。
2014年大会にはイングランド、スペイン・ポルトガル(共同)、オランダ・ベルギー(共同)が立候補しており、当然、サッカー伝統国であるイングランドやスペインは施設面などで高い評価を受けていた。
2022年大会には2002年大会を共同開催という形で開催した日本と韓国。そして、サッカー新興国のオーストラリア。そして、アメリカ合衆国が立候補した。
理事会の決定の前にFIFA視察団が候補国を訪れて評価が行われたが、2018年大会の候補国の中ではロシアが最下位、2022年大会候補国の中ではカタールが最下位の評価となっていた。
権威主義的国家であり、また資源大国であるロシアとカタールは政治指導者を筆頭に国を挙げて招致に力を入れており、「汚い資金の流れがあるのではないか」と当初から言われていた。
■裏切られた期待
僕は、実はこのFIFA理事会の時にはスカパー!の特別番組の解説者をしており、理事会開会前にはこんな予想を語っていた記憶がある。
「不透明な資金提供を受けたFIFA理事は、当然、その見返りとして1回目の投票ではロシアやカタールに投票するだろうが、過半数を得る国が出るまで繰り返される投票の中で次第に伝統国に票が集まってくるのではないか」
FIFA理事たちの“良識”に期待していたのである。
実際、1回目の投票でロシアとカタールがトップとなった。だが、予想に反して2回目以降でもロシア、カタールの両国が票を伸ばし、2018年大会については2回目の投票でロシアが過半数の13票を獲得(スペイン・ポルトガルが7票。オランダ・ベルギーが2票)。2022年大会ではオーストラリア、日本、韓国の順序で脱落。4回目の投票でカタールが14票を集めた(アメリカが8票)。こうして視察報告でそれぞれ最下位だったロシアとカタールが開催国として選ばれたのだ。
■産油国の目論見
石油や天然ガスの産出国として豊富な外貨収入を有するカタールは世界有数の豊かな国である。1971年にイギリスから独立。形式的には立憲君主制だが、実質的には首長であるサーニー家が権力と富を独占している。
中東産油国は、遠い将来資源が枯渇したり、あるいは代替資源が開発された時のことを考えている。原油価格を高値で安定させるために生産調整を行うのはこのためだ。また、たとえばドバイのように商業や金融業で生きていくための都市建設を行ったり、ヨーロッパ、アジア、アフリカからの地理的近接性を利用してハブ空港を設けて航空業界を発展させたりしている。エミレーツ航空やカタール航空、エティハド航空などがその例だ。
そして、カタールは国の生き残りのためにスポーツに力を入れ、2019年には世界陸上(世界陸上競技選手権大会)、2022年にサッカーのワールドカップを開催し、そしていずれはオリンピックの招致も画策している。