「母国」のフィジカルラグビーの前に完敗だった。「リポビタンDツアー2022」で欧州遠征中のラグビー日本代表(世界ランキング10位)は、現地11月12日にラグビーの「聖地」トゥイッケナスタジアムでイングランド代表(同5位)とのテストマッチに臨…

「母国」のフィジカルラグビーの前に完敗だった。

「リポビタンDツアー2022」で欧州遠征中のラグビー日本代表(世界ランキング10位)は、現地11月12日にラグビーの「聖地」トゥイッケナスタジアムでイングランド代表(同5位)とのテストマッチに臨んだ。

 2015年からエディー・ジョーンズ前日本代表監督が率いるイングランド代表に対し、日本代表は1トライしか奪えず、逆に7トライを許して13―52で大敗。通算対戦成績は日本代表の10戦全敗となった。



松島幸太朗の突破もイングランド代表の堅い守備に阻まれた

 日本代表は2週間前、ホームで「オールブラックス」ことニュージーランド代表に善戦したもものの31-38と惜しくも敗れた。だからこそ「次は敵地で歴史的勝利を......」とファンの期待も大きかったはずだ。また、イングランド代表とは来年のワールドカップで戦うだけに、今の日本代表がどこまで戦えるか試金石となるゲームでもあった。

「(イングランド代表は)フィジカルを前面に押し出してくるので、セットプレー、モール、キッキングゲームの3つのところで対応していかないといけない。我々が自分たちのラグビーのブランドをしっかりと出せて、プレッシャーをかけていけばチャンスもある」

 試合前、ラグビー日本代表を率いるジェイミー・ジョセフHCはそう意気込んでいた。

 だが、フタを開けてみれば、先週のアルゼンチン代表戦に負けて、81000人を超えるホームのファンの前でもう連敗は許されないイングランド代表のパワーに跳ね返された。日本ラグビーを熟知するイングランド代表のジョーンズHCが冷静かつ的確に日本代表の弱みを突いた、とも言えよう。

 まずは、スクラムで劣勢となった。後半は修正したものの、大事な前半20分までに相手ボールのスクラムで3つのペナルティを許し、勢いに乗ることができなかった。

「スクラムの距離のところでいつもより広く、こちらの3番(右プロップ/PR)が反則を取られてしまった。(その反則で)自陣22 mに入られてしまい、相手に勢いを与えてしまった」

 HO(フッカー)坂手淳史キャプテンは前半の流れを悔やんだ。

イングランドを上回った点

 また、日本代表の生命線である9番(スクラムハーフ/SH)を起点としたFWのアタックに対して、イングランド代表はしっかりプレッシャーをかけてきた。持っているボールに手をかけられたり、ラックでは相手の大きなFWの圧力を受けたりして、前にいいボールを出せなかった。

「自滅する部分が多かった。想像以上にプレッシャーをかけられ、9番からのシェイプ(アタックの陣形)にかなり圧力を食らってしまった。ボールを持っている時間を大事にしようと思ったが、ボールが簡単に転んだり、コンタクトのところでもいい継続ができず、前に出て速いテンポのラグビーができなかった」

 先発したFL(フランカー)リーチ マイケルは悔しそうな表情を見せた。

 試合途中から日本代表は、10番(スタンドオフ)を起点としたアタックで相手を崩そうとした。だが、そこにもしっかりと前に出るディフェンスで対応された。結局、奪ったトライは後半19分、途中交代のSH齋藤直人のトライのみとなった。

 9月の大分合宿から練習で注力してきたはずのハイボールキャッチ、カウンターアタックでも後手を踏んだ。キャッチの精度やキック後のチェイスが疎かになってカウンターを許すなど、相手の大型バックスリーの前にキッキングゲームでも優位に進めることができなかった。

「相手のハイボール(キック)に対してこちらがキープできず、相手にボールを取られるシーンが多かった。キックは完敗だったので、次はしっかりと修正して勝てるように頑張ります」(フルバック/FB山中亮平)

 それでも、ポジティブな点はいくつかあった。前半、ボールを持ってアタックすれば相手陣に攻め込むことができ、相手の反則を誘って2度ペナルティゴールを決めることができた。

 スタッツを見ると、ボールポゼッション(54%)、ボールを持って進んだ距離(430m)、回数(136回)、相手のディフェンスを突破した数(38回)、パスの回数(201回)、オフロードパスの回数(9回)では相手を上回っており、有効なアタックを見せたシーンもあった。

次戦は世界2位のフランス

 だが、ボールポゼッション54%中の65%は自陣でのアタックで、相手陣で十分攻めることができなかったのも事実だ。結果、得点のチャンスはあまり多く得られなかった。

「イングランド代表は80分、ずっといいプレーをして、私たちをプレッシャー下に置いた。70m(=相手陣22m内)までボールを運ぶと相手に脅威を与えることができるが、我々はそれが十分にできなかった」(ジョセフHC)

 後半30分のペナルティトライのシーン以外は相手のモールをしっかりと止めており、ボールを競って相手にプレッシャーをかけていたシーンもあった。モールディフェンスやラインアウトはジョセフHCが担当している分野であり、練習の成果が出ていると言えよう。

 試合前のキャップ数を見ると、23人のうち11人がワールドカップを経験していない10キャップ以下の選手だった。指揮官は「トゥイッケナム(スタジアム)で若い選手たちが経験を積めたことは重要です。まだまだこれから成長していく」と期待を寄せた。

 10カ月後、日本代表は2023年ワールドカップ・フランス大会の予選プール第2戦でイングランド代表と対戦する。ジョセフHCは「対戦チームについて知ることができた。(世界の強豪は)大きくてパワフルで経験豊富なFWが相手なので、私たちはセットプレーを修正しないといけない。セットプレーに対応しないと自陣でチャンスを作るのが難しい」と気を引き締めた。

 8日後の現地11月20日には、トゥールーズでフランス代表(同2位)に挑む。

「悔しい思いを全員が持っているが、下を向く必要はない」と坂手キャプテンが試合後の円陣で声をかけたように、イングランド代表戦で出た課題を修正し、アウェーでどこまで勝つ流れに持っていけるか。「ブレイブブロッサムズ」のレジリエンス(適応力)に期待したい。