フランス・パリで開催されている「全仏オープン」(5月28日~6月11日/クレーコート)の大会11日目、男子シングルス準々決勝で、ディフェンディング・チャンピオンのノバク・ジョコビッチ(セルビア)が第6シードのドミニク・ティーム(オーストリ…

 フランス・パリで開催されている「全仏オープン」(5月28日~6月11日/クレーコート)の大会11日目、男子シングルス準々決勝で、ディフェンディング・チャンピオンのノバク・ジョコビッチ(セルビア)が第6シードのドミニク・ティーム(オーストリア)に、驚くほど一方的なスコア、6-7(5) 3-6 0-6で敗れ、彼のタイトル防衛の挑戦はあっけなく終わりを遂げた。

 一年前、ジョコビッチはロラン・ギャロス(全仏)において、4つのグランドスラム大会に連続で勝ったほとんど半世紀ぶりのプレーヤーとなり、生涯グランドスラム(キャリアの間に4つのすべてのグランドスラム大会で優勝すること)を達成した。しかしそれ以来、彼の調子は大きく落ち、今、彼は4つのグランドスラム大会を、ひとつもトロフィを獲らずに通り抜けたことになる。彼はまたその過程で、ナンバーワンの座をマレーに譲り渡した。

「僕が自分のベストに近いプレーをしていないことは事実だ」とジョコビッチ。「今感じているのは、僕にとってまったく新しい状況だよ」。

 水曜日、風の強いスザンヌ・ランラン・コートで、ジョコビッチは34ポイントのうち8ポイントしか取れなかった第3セットの悲惨な20分間の前にさえ、多くの意味で元気がなかった。彼がキャリアを通してプレーしたツアーレベルでの937試合の中でも、彼が最後のセットを0-6で落としたのはわずか2度目にすぎない。

 その上、彼がグランドスラム大会においてストレート負けを喫したのは、2013年ウィンブルドン以来のことだ。この敗れ方はジョコビッチ本人を含め、多くの者の頭に、答えるのが難しい問いを生み出すことになった。

 最後のセットで彼はあきらめてしまったのか? かつての彼の途轍もなく安定していたプレーに何が起きたのか? 彼はふたたび奮起できるのか? 彼は長くつらいツアー生活からしばしの休息をとることが必要なのか?

「今日は僕のための日ではなかった」と、ジョコビッチはため息とともに言った。

「昨年のここでの優勝は多くの違った感情を運んできた。もちろん、悲願の達成はわくわくすることであり、完全なる満足感を味わった」とジョコビッチは記者会見の場でコメントした。「僕はその興奮の波に乗って生きていた。全米オープン前か、そのあたりまではね。そして全米オープンでは感情的に空気が抜けたような状態であると感じ、僕のプロとしてのキャリアで一度も直面したことがないような状況に置かれることになったんだ」。

 ジョコビッチはこの試合に先立ち、昨年の全仏準決勝を含め、ティームに対する5対戦のすべてに勝ち、戦った12セットのうち11セットを取っていた。

「僕にとっては驚くべきこと、すごいことだ」とティームは言った。「全仏オープンの準々決勝でジョコビッチを倒すなんて、まさに夢だ」。

 23歳のティームは次の準決勝で、全仏を9度制したクレーの帝王、ラファエル・ナダル(スペイン)と対戦する。第4シードのナダルは準々決勝で、対戦相手の第20シード、パブロ・カレーニョ ブスタ(スペイン)が第1セットの終わりに腹筋を痛め、第2セットの途中で棄権を決めたため、6-2 2-0リードと試合をフルに戦わずしてベスト4入りを決めた。

 ナダルは、この大会でまだ22ゲームしか落としていない。

「今年何ゲームを落としたか、なんて知らないが、そんなことはどうでもいい」とナダル。「僕が気を割くのは、自分が準決勝に進出したということだけだ」。

 金曜日の準決勝でそのナダルに今年4度目の挑戦をするティームは、「ラウンドごとに最高の選手たちと戦わなければならない。金曜日にも、ことはまったく容易にはならない」と言った。

 ティームは、今季ナダルがクレー上でプレーした23試合の中の一つで、ナダルを倒した唯一の選手だ(先のバルセロナでは比較的簡単に、マドリッドでは大接戦の末にナダルに敗れたティームは、続くローマでナダルに競り勝った)。

「今、僕はノバクを倒した。金曜日はナダルだ。そして決勝には、ほかのトップスターが勝ち上がってくる」とティームは言った。

「グランドスラム大会で優勝するのがいかに難しいか。ほとんど冗談みたいだ」

 もうひとつの準決勝では、2016年全仏準優勝のアンディ・マレー(イギリス)と2015年全仏チャンピオンのスタン・ワウリンカ(スイス)が対戦する。これは、ともにグランドスラム大会優勝回数が3回同士の対決ということになる。

 準々決勝で、第1シードのマレーは第8シードの錦織圭(日清食品)を2-6 6-1 7-6(0) 6-1で退け、第3シードのワウリンカは第7シードのマリン・チリッチ(クロアチア)を6-3 6-3 6-1で下した。

 ジョコビッチは第1セットで2本のセットポイントを無駄にしてしまった。そして試合が終わる頃までには、彼は18本だったウィナーの2倍近い、35本のアンフォーストエラーをおかした。

 ジョコビッチは「(0-6だった)第3セットについて、コメントするのは難しい。言うまでもなく、何も僕にとっていいように運ばず、すべてが彼にいいように進んだ」と言った。「ただの、かなり悪いセットだったよ」。

 またジョコビッチがのちに、「すべてを考え合わせ、第1セットで決まってしまった」と言ったように、双方の選手がカギは第1セットにあったと考えていた。ジョコビッチはティームのサービスゲームで、5-4、15-40と2つのセットポイントを握ったが、ティームは最初のそれをフォアボレーで、2つ目はジョコビッチを驚かせたサービスウィナーでしのいだ。

 タイブレークでは、ジョコビッチのバックハンドが彼自身を裏切った。ティームが勝ち取った7ポイントのすべてが、そのストロークで終わっていたのだ。

「全体的に見て、僕のテニスのすべての部分にアップダウンがあった。安定性が欠けていると感じている」とジョコビッチは試合を振り返った。「素晴らしい試合を1、2試合できても、それからまったく逆の試合をしてしまう。それが今日起きたことだった」。

 それでも、これが途轍もなく彼らしくない試合であることに変わりはなかった。ジョコビッチはこれまで、全仏で6年連続で準決勝に進出していたのである。

 今彼は、ある種の重大な岐路にいるのかもしれない。彼は30歳になったばかりで、コーチのボリス・ベッカー(ドイツ)、マリアン・バイダ、そのほかの彼のチームメンバーと別れたあと、この全仏の1週目にアンドレ・アガシ(アメリカ)をコーチとして招き入れた。

 水曜日の試合後、ジョコビッチは"短い休止期間をとる"という選択肢を否定しはしなかった。

「言うまでもなく、この苦境から抜け出し、どのように進んでいくかを見定めるのは容易なことではない」とジョコビッチは言った。「自分がこのスポーツで最大の高みを極めたことは知っている。そしてその記憶と経験は、僕にはそれをふたたびやってのけることはできるのだ、と信じるに十分な理由を与えてくれる」。(C)AP(テニスマガジン)

※写真は「全仏オープン」準々決勝でドミニク・ティーム(オーストリア)に敗れたディフェンディング・チャンピオンのノバク・ジョコビッチ(セルビア)(撮影◎毛受亮介/テニスマガジン)