今後は業界の発展、若い子を世界に送り込んでいくことで恩返していきたい2005年フリー・イマージョン種目で世界ランク1位。2008年コンスタント種目でアジア人初の100mに到達。2009年にはジャック・マイヨールの自己最高記録である105mを…

今後は業界の発展、若い子を世界に送り込んでいくことで恩返していきたい

2005年フリー・イマージョン種目で世界ランク1位。2008年コンスタント種目でアジア人初の100mに到達。2009年にはジャック・マイヨールの自己最高記録である105mを超えて、107mを記録。2010年には現アジア記録の115mを達成。同年には日本・アジア初開催となる世界選手権を沖縄に誘致し、自らも日本代表キャプテンとして銀メダルを獲得した。現在バハマで開催中の世界大会に参戦し、常に進化し続けるフリーダイバー“篠宮龍三”に独占インタビューを行った。まずは100mを超えた「神の領域」と言われる115mのアジア記録を篠宮が達成した時の映像を見て欲しい。

—フリーダイビングを始めたきっかけを教えてください。

篠宮:大学時代に先輩にグランブルーという映画を勧められて観たとき、タンクを使用せずに100m以上潜るフリーダイビングというスポーツに衝撃を受けました。それがきっかけだと思います。

—スポーツはやられてたんですか?

篠宮:素潜りは子供の頃に夏休みになると親に千葉の海へ連れて行ってもらっていて、当時からよくやっていました。スキューバーダイビングは大学から始めました。

—フリーダイビングはどんなスポーツか教えてください。

篠宮:簡単に言うと素潜りでどれくらい潜れるかを競うスポーツです。プールと海に分けられます。プールでは水面にうつぶせ状態で息をこらえる「スタティック」、そしてフィンを付けて潜水する「ダイナミック・ウィズ・フィン」、フィンなしの「ダイナミック・ノーフィン」の3種目、海ではフィンを付けて脚力のみで潜行する「コンスタント・ウィズ・フィン」、フィンなしの「コンスタント・ノー・フィン」、ロープを手繰って潜行する「フリー・イマージョン」の3種目などがあります。
昔は機材を使って、重りに引かれて潜行する種目もありましたが、現在行われているのは重りや機材を使わない種目が主流になっています。

—フリーダイビングは大会を転戦するサーキットのような感じ? ランキングなどを決めたりするのでしょうか?

篠宮:世界各地の様々な場所で大会は行われています。僕も毎年行くカリブ海のバハマや、ハワイ、日本だと沖縄などで行われたりしますが、サーキットで転戦し総合ランキングを決めるというものではないです。
選手は自分の好きな大会を選んで出場しています。国際大会の中で一番グレードが高いのが世界選手権です。今年の世界選手権は、プール大会はフィンランド、プールと海の複合かつ団体の大会はギリシャで行われます。
僕自身はバハマの大会に集中して出場しています。バハマは毎年出場しており、最近は日本人選手も増え、今回は7名エントリーしてます。

—篠宮さんがフリーダイビングを始めた頃と比べて競技人口はいかがですか?

篠宮:男女ともに増えてます。特に女子が増えていて、個人・団体でも金を取るくらい強いです。うかうかしていると僕も抜かれてしまいそうです(笑)。

—フリーダイビングについて「生と死と隣合わせ」、「人類最高の冒険」など様々な見方がありますが、フリーダイビングにハマった理由を教えてください。

篠宮:色々な理由がありますが、純粋に海や自然が大好きで、その中にいると素の自分になれるからです。学生時代は探検部に所属し、沖縄の西表島などジャングルの中を探検してビーチでよくキャンプをしていました。
またフリーダイビングは命がけのスポーツなので、自分の記録を塗り替えたり、世界大会でメダルを取れたりすると感動もひとしおで、自分が努力して頑張っていけば世界でも活躍できるという点ですね。

—フリーダイバーだけが得られる極上の時間はどんなときでしょうか。

篠宮:この前もトレーニングをしている時に素晴らしい体験をしました。冬の時期だったので、「ザトウクジラ」がロシアから沖縄にやってきて数ヶ月滞在して子育てをしていくのですが、深く潜っていくと、クジラが鳴いているのがとても心地よく聞こえ、自然の中に溶け込んでいる感じがして最高の瞬間でした。

—著書「素潜り世界一」で2004年スランプに陥ったとありましたが、スランプに陥った際にどのように克服しましたか?

篠宮:スランプに陥った時、「因果一如」という禅のフレーズに助けられました。僕はジャック・マイヨールに憧れてこの世界に入ったのですが、命がけで潜っていたジャック・マイヨールは日本の禅の文化がとても好きだったようです。
僕がスランプになった時に、禅の本をたくさん読み、「因果一如」という禅のフレーズに出会いました。「因果一如」とは、原因と結果は一緒、結果はすでに原因と一緒に生まれている、という意味で、頑張った、努力したからいい結果が出るとは限らない。
人は、これだけ努力したから、これだけ頑張ったからと結果に期待をいだきがちなんですが、目の前の現在できることに集中し、ベストを尽くす生き方、そして結果にとらわれない生き方が最善の生き方という考えに至って楽になりました。

—100メートルを超える極限の世界に向かう準備はどのようにしてますか。

篠宮:ルーティーン的なことでいうと、フィンを履くときは右足から、などがあります。あと入水する前は、脳に酸素を使わせないように、目を閉じて頭の中を空っぽにして、無の状態になって入水します。
例えば、球技などは常に相手のことを考え、頭を使っていると思いますが、フリーダイビングは脳を使わないように、瞑想状態になります。そういう時は本当に心地よさを感じます。

—普段行っているメンタルの整え方を教えてください。

篠宮:朝はヨガをして呼吸を整え、瞑想して心を整えるようにしています。フリーダイビング選手はおそらく9割以上はヨガを取り入れていると思います。ヨガは身体の柔軟性、体幹、呼吸法、瞑想状態に持っていくメンタルトレーニングなどフリーダイビングに必要な要素が備わっています。

—篠宮さんの2016年の目標を教えてください。

篠宮:現在3種目でアジア記録を持っていますが、そのうちの「コンスタント・ノー・フィン」という種目が世界と比べるとまだまだなので、もっと伸ばしていきたいです。また「フリー・イマージョン」の104mと「コンスタント・ウィズ・フィン」の115mという自分のアジア記録を更新していきたいと思います。

—最後に周りでサポートしてくれる方々へ一言ください。

篠宮:一言じゃ足りないのですが、今まで、沢山の方に支えられてここまでこれました。会社員を辞めて12年くらいになりますが、よく路頭に迷うことなく、よくここまでこれたと思います。それは周りの方々が支えたくれたからだと感謝しています。
現在のスポンサー様にはもちろん感謝していますし、これまでのスポンサー様に対しても感謝しています。そしてダイビングメーカー様、周りでサポートしてくれる方など、このマイナースポーツを理解し支えてくれた方々には本当に感謝しています。自分は好きなことを沢山させてもらったので、今後は業界の発展、若い子を世界に送り込んでいくことで恩返していきたいです。