全勝対決を制したのは「紫紺」だった。 11月6日、埼玉・熊谷ラグビー場で関東大学ラグビー対抗戦の明治大対慶應大が行なわれた。近年は明治大のほうが順位では上位ながらも、過去5年を振り返ると慶應大が3勝2敗と勝ち越しているように、毎年クロスゲ…

 全勝対決を制したのは「紫紺」だった。

 11月6日、埼玉・熊谷ラグビー場で関東大学ラグビー対抗戦の明治大対慶應大が行なわれた。近年は明治大のほうが順位では上位ながらも、過去5年を振り返ると慶應大が3勝2敗と勝ち越しているように、毎年クロスゲームとなる伝統の「慶明戦」。しかも、今季はともに開幕4連勝での激突となった。



慶明戦で2トライを奪った明治大3年生の伊藤耕太郎

 澄みきった秋晴れのなか、紫紺のジャージーの明治大が今季一番のラグビーを見せた。「重戦車」が代名詞のFWによる奮闘もあったが、特に目立ったのはBK陣。アタックでは8トライ、守っては相手をノートライに抑え、54−3と快勝して開幕5連勝を飾った。

 就任2シーズン目を迎える明治大・神鳥裕之監督は試合を振り返り、「チームとしてのまとまりがあって、今日は非の打ちどころがなかった」と満足げ。一方、慶應大・栗原徹監督は「いい準備をしたと思ったが、明治大にそのはるか上をいかれた」と舌を巻いた。

 昨季、帝京大に敗れて大学選手権準優勝に終わった明治大だが、春からライバルの早稲田大に勝利し、帝京大にもリベンジを果たすなど、好調をキープしていた。しかし、チーム力を上げなければいけない夏の菅平合宿では、体調不良の選手が続出。天理大には引き分け、帝京大にも19−54で大敗するなど、不穏な空気が流れた。

 9月に開幕した関東対抗戦でも、筑波大とは33−22の接戦を演じ、青山学院大には3トライを奪われるなど、まだ本調子ではないように見えた。大学生唯一のオリンピアンであるキャプテンWTB(ウィング)石田吉平(4年)がケガで不在のなか、今季の明治大の真価が問われる「慶明戦」となった。

 しかし大黒柱がいなくとも、明治大は頼れる選手が揃っていた。アウトサイドCTB(センター)齊藤誉哉(4年)がゲームキャプテンとしてチームを牽引。「チームがスタートした段階から『日本一のBK』を目指そうと取り組んできた」との言葉どおり、好ランナーの揃うBK陣が序盤から存在感を示した。

田村優2世と呼ばれる20歳

 なかでも実力を遺憾なく発揮したのは、SO(スタンドオフ)伊藤耕太郎とインサイドCTB廣瀬雄也の「3年生コンビ」だ。

 伊藤は國學院栃木高の出身で、同じ高校→明治大の先輩になぞらえて「田村優2世」と称される選手。大学1年時はFB(フルバック)にもチャレンジしたのち、昨季から田村と同じ10番を背負って攻撃をリードする。ゲームコントロールだけでなく、隙があればランでトライも取れる攻撃的な司令塔で、細身に見えるがタックルもいとわない。

 一方、父がサニックスの選手だった廣瀬は、ラン、キック、パスのスキルが総じて高く、東福岡時代から将来を嘱望されていた選手。明治大入学後は身長179cmの体格を活かしたタックルを武器に、1年時から12番を背負い続けている。また、キックの精度や飛距離も伸びており、プレースキックでの安定感も増してきた。

 ディフェンスとタックルが強みの慶應大に対し、序盤の明治大は我慢の展開を強いられる。だが、伊藤は冷静にタクトを振り続けた。

「慶應大のディフェンスがよく、アタックで我慢し続けることは試合前からわかっていた。前半20分は厳しい時間が続くと思っていたので、焦ることもなかった」(伊藤)

 前半8分、FWとBKが一体となってボールを継続したのち、伊藤が15次攻撃で大外へロングパスを通してHO(フッカー)松下潤一郎(3年)のトライを演出。廣瀬も「慶應大の激しいディフェンスを我慢して1本取りきれたのは、今日の最終的なスコアにつながるいいアタックだった」と胸を張った。

 前半を23点リードで折り返したあとも、明治大の優位は変わらず。最終的に8トライを奪う猛攻で、慶応大を54−3で圧倒。伊藤は司令塔として攻撃を引っ張り、廣瀬もプレースキック8本中7本を決めて勝利に貢献した。

「試合前からやることが明確になっていたので、みんな思いっきりアタックできたのがよかった。フォーカスに挙げていたゲインラインや1vs1でいいアタックができた」(伊藤)

「2年前、面子の揃ったNo.8(ナンバーエイト)箸本龍雅(現・東京サンゴリアス)さんの代でも負けた慶明戦。実力以上のことが試合に出ると考えていたので、相手以上に準備できたことがこういう結果になった」(廣瀬)

次は帝京大との全勝対決

 クラブが伝統として大事にしている『前へ』の言葉を胸に、明治大の今季のスローガンは『AHead』に定めた。aheadは「先に」「前へ」という意味で、AとHを大文字にしたのは、All=チーム一丸、Head=頂点を取る、と意味合いを込めたという。

 まさしく今回の慶明戦は、明治大BK陣が「前へ」を体現し続けた試合となった。「BK、FWともに帝京大、早稲田大に負ける気はさらさらない。BKから前に出て、自分たちのラグビーができるようやっていきたい」と齊藤副将はキッパリと言った。

 12月4日、9シーズンぶりに国立競技場で行なわれるライバル早稲田大との「早明戦」の前に、11月20日には勝ち点差1で追う帝京大との全勝対決が待っている。勝利したほうが対抗戦優勝に大きく近づくのは間違いない。対抗戦で1位となったほうが大学選手権のトーナメントで優位となるため、何としても勝利したい一戦だ。

 そのころには、エースのWTB石田主将も戻ってくると予想される。慶明戦で得た大きな自信を胸に、FWだけでなくBKから「前へ」を身をもって示すことが、4シーズンぶりの大学日本一へとつながる。