「ドラフト順位はチャンスの順番」。そう語るプロ野球選手もいる。ドラフト順位が高ければ高いほど首脳陣から与えられるチャンスは多く、順位が低いほどチャンスをもらえないという意味だ。 だが、プロ野球は結果がすべての世界でもある。これまでドラフト下…

「ドラフト順位はチャンスの順番」。そう語るプロ野球選手もいる。ドラフト順位が高ければ高いほど首脳陣から与えられるチャンスは多く、順位が低いほどチャンスをもらえないという意味だ。

 だが、プロ野球は結果がすべての世界でもある。これまでドラフト下位指名を受けながら、スターダムにのし上がった選手も数多い。そこで今回は2022年のドラフト会議で各球団の最下位指名(育成ドラフトは除く)にスポットを当ててみたい。12人の「ドラフト最下位指名選手」のなかに、野球人生の下剋上を起こす選手は現れるのか?



日本ハム6位指名のサイドハイドの速球派・宮内春輝

日本ハム6位
宮内春輝(日本製紙石巻/投手/右投右打/26歳)

 じつに日本ハムらしい指名だった。社会人のひとクセある実戦派投手を下位指名するのは、日本ハムのお家芸と言っていい。2008年7位の谷元圭介(現・中日)など、その代表例だ。今年選んだのは、速球派サイドハンドの宮内。大卒4年目の今季に大幅にスピードアップし、評価が急上昇。スライダー、シンカーで両サイドを幅広く使えるリリーフタイプだ。来季はルーキーながら27歳になるだけに、1年目から勝負の年。新陳代謝の早い球団だけに、春季キャンプから体調万全で持ち味をアピールしたい。



中日から7位指名を受けた日本新薬のスラッガー・福永裕基

中日7位
福永裕基(日本新薬/二塁手・三塁手/右投右打/26歳)

 ドラフト会議中、中日の指名を見ながら「強打の内野手は獲らなくていいのか?」とハラハラしていた。だが、まさか最後にこんなウルトラCを残していたとは予想外だった。福永は社会人球界屈指の強打者であり、広角に長打を放てる打力は「プロで見てみたい」と思わせた。なぜ福永が12球団のドラフト最下位指名となる69番目まで残っていたかと言えば、26歳という年齢がネックになっていたから。これまで何度も指名漏れの憂き目に遭いながらも、今年は春先のJABA東京スポニチ大会で3打数連続本塁打を放つなど猛アピール。貧打に泣く中日にとって、起爆剤になる可能性がある。「負けたら終わり」のサバイバル要素の強い社会人野球で培った生命力を、晴れの舞台で存分に発揮してもらいたい。



今年春のセンバツでも活躍した浦和学院の金田優太

ロッテ5位
金田優太(浦和学院高/遊撃手/右投左打/17歳)

 育成選手を含め4人の遊撃手を指名したロッテ。"泣きどころ"を埋めるために、なりふり構わない姿勢を見せたドラフトだった。金田は今春のセンバツ4試合で打率.647、1本塁打、4打点と大暴れした遊撃手。昨秋までは細身な体格だったが、ビルドアップに成功した今春に進化を印象づけた。投手としても140キロ台の球速をマークする強肩に、ショートバウンド処理のうまいグラブさばきも一級品。ただし、入団後は育成ドラフトで指名された勝又琉偉(富士宮東)、黒川凱星(学法石川)と横一線での争いになる。近未来のレギュラーをかけた熾烈な戦いは、浦和・ロッテの新名物になるかもしれない。



広島から7位で指名された大阪観光大の俊足強肩の外野手・久保修

広島7位
久保修(大阪観光大/外野手/右投右打/22歳)

 大学で化けた好素材だ。高校時代は水谷瞬(現・ソフトバンク)が主軸に座る石見智翠館高で「6番・ライト」。高校野球で本格的な競技生活を終えることすら考えていたという。大阪観光大では特別アドバイザーの伊勢孝夫氏(元ヤクルトコーチ)の指導を受け、課題だった打撃が急成長。見る者をうならせる強肩も光り、ドラフト候補に浮上した。広島は右打ちの若手外野手が不足していただけに、育成1位指名の快足外野手・名原典彦(青森大)と出世レースが繰り広げられそうだ。



近江高校時代は甲子園でも活躍した林優樹

楽天6位
林優樹(西濃運輸/投手/左投左打/20歳)

 支配下で指名した6人中5人を投手で占めた楽天。"くせ者系"の投手を数多く指名するなか、最後に指名したのはダイナミックな二段モーションで投げ込む林だった。近江高時代は「魔球」と称されたチェンジアップを駆使して、甲子園のスターに。華奢だった体も名門社会人で鍛えられ、すっかりたくましくなった。球速も140キロ台後半をマークするまでになり、パワーで押す場面も増えている。ただし、本来の持ち味は緩急を使った駆け引きのはず。プロの強打者をいなすような投球を見せてくれれば、一軍戦力として戦えるイメージがはっきりと描ける。



サイドから150キロ前後の速球が武器の西濃運輸・船迫大雅

巨人5位
船迫大雅(西濃運輸/投手/右投左打/26歳)

 やっと、この投手をプロ野球ファンに見てもらえる......。そんな感慨を覚えずにはいられない。昨冬の都市対抗野球大会での船迫の投球を見て、「今すぐ第二次ドラフト会議を開いてもらえないか?」と強く願った。サイドハンドから150キロ前後の快速球をコーナーにビシビシと決める姿は、まさに圧巻。「こんな投手がアマチュアにいてはダメでしょう?」と思ってしまう実力者だ。170センチ台前半の小さな体と今年26歳の年齢がネックになっていたが、プロに入ってしまえば関係ない。不安定だった巨人リリーフ陣の救世主としては、うってつけの存在だ。



西武から6位指名を受けた社会人屈指の名手・児玉亮涼

西武6位
児玉亮涼(大阪ガス/遊撃手/右投右打/24歳)

 来年は外崎修汰、源田壮亮の二遊間コンビが30代に突入する。育成ドラフト出身の滝澤夏央が台頭したとはいえ、依然として二遊間の層は薄い。そこで守備力の高い児玉を補強。身長166センチの小兵ながら、正確かつ機敏な遊撃守備は九州産業大時代から光っていた。大阪ガスでは課題の打撃を磨き、少しずつレベルアップ。プロでは1年目から一軍の控え内野手・代走の役割を担いたい。源田の芸術的守備に触れることで、社会人きっての名手にどんな変化が訪れるのか楽しみでならない。



阪神から6位指名を受けた三菱自動車岡崎の富田蓮

阪神6位
富田蓮(三菱自動車岡崎/投手/左投左打/21歳)

 22歳前後の投手陣の充実度は12球団トップと言っていい阪神。中途半端な即戦力を獲得しても埋没する可能性が高いだけに、素材型であり特徴もある富田の指名に落ち着いたのだろう。力感のないフォームから、打者の想定を超えるスピード感のストレートを投げられるのが最大の魅力。21歳と若いだけに、高いレベルで実戦経験を積んで脱皮できれば面白い。伊藤将司という目指すべきモデルが身近にいる点も、今後プラスに作用しそうだ。



ソフトバンクが6位で指名した桐蔭横浜大の強肩捕手・吉田賢吾

ソフトバンク6位
吉田賢吾(桐蔭横浜大/捕手/右投右打/21歳)

 今年は育成選手を含めて20人もの選手を指名。独自路線をひた走るソフトバンクが支配下の最後に選んだのは、強打の捕手だった。どちらかといえば守備型の捕手が多いチーム事情から、吉田に白羽の矢を立てたのだろう。今春の神奈川大学リーグでは6本塁打を放っているが、本質的には広角にヒットを打ち分けるアベレージ型。打席数を重ねれば、プロの高いレベルでも順応できそうだ。課題は突出したもののない守備面になるが、まずは代打の切り札兼控え捕手として居場所を見つけたい。



大学日本代表の抑えを務めた慶應義塾大の橋本達弥

DeNA5位
橋本達弥(慶應義塾大/投手/右投右打/22歳)

 山﨑康晃のメジャー移籍が現実味を帯びており、三嶋一輝の難病手術も重なりリリーフ陣に不安があるDeNA。そこで大学日本代表のリリーバーを補強したのは、理にかなっている。常時150キロに迫る快速球とフォークで攻める投球が持ち味。春から秋にかけて三振奪取能力が高まってきており、右肩上がりでプロ入りできる点も頼もしい。下位指名とはいえ、編成陣は1年目から戦力として見込んでいるはず。早い段階から存在感を発揮したい。



今年夏の甲子園に出場した富島高校の日高暖己

オリックス5位
日高暖己(富島高/投手/右投右打/18歳)

 近年、投手育成にかけては球界随一のオリックス。素材型投手を次々と花開かせた育成力が、リーグ連覇の一因になったのは間違いない。そんな球団に新たに楽しみな原石が加わる。日高は今夏の甲子園に出場して話題になった本格派右腕だが、指にかかった快速球には夢がある。本格的な投手経験は高校2年秋からと、未知なる可能性が眠る。山本由伸のテイクバックを真似たところ、パフォーマンスが爆発的に向上したという縁もある。数年後、劇的に成長した姿を見せてくれるようだと、オリックスの黄金時代はしばらく続きそうだ。



右の長距離砲としての期待がかかるヤクルト5位指名の北村恵吾

ヤクルト5位
北村恵吾(中央大/三塁手/右投右打/21歳)

 西村瑠依斗(京都外大西高)を2位、澤井廉(中京大)を3位と上位指名したヤクルト。村上宗隆に「日本でやることがなくなった」といつ言われてもいいように、備えを始めたように見えた。そのダメ押しが北村の指名である。ツボにはまった時の飛距離は目を見張るものがあり、右打ちの内野手や代打が手薄というチーム事情もある。ただし、近江高時代は三塁を守っていたものの、中央大ではもっぱら一塁を守っている。プロで三塁を任せるには、相当な鍛錬が必要になりそうだ。