12球団中9球団が1位指名の選手を公表した今年のドラフト会議。浅野翔吾(高松商高)に巨人と阪神、荘司康誠(立教大)に楽天とロッテが競合した以外は、各球団が意中の選手との交渉権を無難に獲得した。DeNAの三浦大輔監督(左)と握手する、1位指…

 12球団中9球団が1位指名の選手を公表した今年のドラフト会議。浅野翔吾(高松商高)に巨人と阪神、荘司康誠(立教大)に楽天とロッテが競合した以外は、各球団が意中の選手との交渉権を無難に獲得した。



DeNAの三浦大輔監督(左)と握手する、1位指名を受けた大阪桐蔭高の捕手・松尾汐恩

 長らく大洋ホエールズ(現・横浜DeNAベイスターズ)で活躍し、現在は野球解説者やYouTuberとして活動する高木豊氏は、どの球団の指名を高く評価したのか。

 高木氏は、「ドラフトが成功したか否かは獲得した選手の活躍次第。だから現時点での評価は"よさそうに見える"という印象になります」と前置きをしたうえで、こう語る。

「最もよかったのはDeNAだと思います。今季は嶺井博希、戸柱恭孝、伊藤光らを起用していましたが、キャッチャーというポジションが日替わりだと困るんですよ。強いチームは、だいたい主軸になるキャッチャーがいるものですから。

 その候補として1位指名した松尾汐恩(大阪桐蔭高/捕手)に対する期待は大きいです。今季、高卒1年目でロッテの松川虎生が活躍しましたが、ポテンシャルはそれに匹敵するか、それ以上じゃないかと思っています。昨年のドラフトではエース候補の小園健太を獲れていますし、順調にいけば数年後、小園や松尾がチームの看板選手になると思います。

 あと、吉野光樹(トヨタ自動車/投手)という1位でもおかしくないピッチャーを2位で獲れたこともよかった。4位の森下瑠大(京都国際高/投手)はまだ荒削りなピッチャーですが、DeNAは今永昇太や濵口遥大など、優秀な左投手の"生きた教材"がいるので成長に期待しています。5位の橋本達弥(投手)は慶応大ですが、最近はヤクルトの木澤尚文に代表されるように、比較的に整っているピッチャーが多い印象です」

育成も含めてDeNAは「柔軟性もあるドラフトができた」

 DeNAについて「将来性と即戦力のバランスがとれた指名だった」と評価する高木氏は、育成1位で指名した上甲凌大(愛媛マンダリンパイレーツ/捕手)にも注目する。

「育成1位で指名した上甲は、強肩強打の大型捕手。育成からのスタートになりますが、うまくいけば戦力になりそうです。仮に松尾のバッティングがよく、『打者に専念させるために他のポジションで』となった場合にも、上甲がキャッチャーを務めることが期待できます。

 松尾は基本的にキャッチャーで育ててほしいですが、内野も守れるポテンシャルがある。そう考えていくと、柔軟性もあるドラフトができたんじゃないかなと」

 松尾は甲子園での5本塁打を含め、高校通算で38本塁打。さらに強肩で50メートル6秒1の快足など、身体能力に優れたキャッチャーと評価されている。

「『キャッチャーは打てなくてもいい』と言われたりしますが、代打を出されるようじゃ困るし、打ってくれたほうがいい。打席で期待感が持てるキャッチャーは魅力的ですし、打線に厚みが出ますからね」

 一方、巨人と競合し抽選で浅野を外した阪神は、外れ1位で森下翔太(中央大/外野手)を指名したが、阪神にとって大きいと高木氏は言う。

「浅野は外しましたが、阪神はドラフトの戦略がブレませんでした。『外野手が獲れなかったから、ピッチャーをいこうか』とはならず、一貫して外野手だった。浅野を外しても森下がいるということで、おそらく最初に浅野を指名したんだと思うんです。即戦力ということを考えると、浅野より森下。高卒と大卒の4年の差は大きいでしょうし、大卒は木のバットにも慣れていますから。

 あと、牧秀悟に代表されるように、中大の選手はプロへのアジャストが早い傾向があるのも期待が膨らみますね。彼は大学日本代表で4番も打ったりした経験もある。過去に大学日本代表で4番を務めた打者は、吉田正尚や牧をはじめ、プロに入ってから成功している例も多いので、その点でも楽しみです」

西武5位、山田陽翔の評価は?

 岡田彰布新監督のもとで来季以降の巻き返しをはかる阪神は、日本ハムとのトレードで渡邉諒、髙濱祐仁を獲得するなど、補強ポイントだった右打者を着々と揃え始めている。

「トレードでもそうですし、ドラフトで即戦力候補である森下を獲って右打者を揃えてきていますよね。ドラフトでは、2位の門別啓人(東海大札幌/投手)など高校生を多く指名していますが、現有戦力がある程度充実しているからか、焦りはないんでしょう」

 さらに高木氏は、甲子園に出場した経験こそないものの、将来性を感じる高校生のピッチャーとして、広島が1位で指名した斉藤優汰(苫小牧中央高)にも注目する。

「育てるのに何年もかかる"未完の大器"という印象ですが、体も大きいですし(189cm・91kg)、素材に惚れ込んだんでしょう。今は高身長で上から角度のある真っ直ぐを投げ下ろし、ポンっとフォークを落とすピッチャーが主流になってきていますが、そういうピッチャーに育っていきそうな雰囲気はあります。

 それに対して3位以下は、3位の益田武尚(東京ガス/投手)、5位の河野佳(大阪ガス/投手)、6位の長谷部銀次(トヨタ自動車/投手)と社会人のピッチャーを多く指名しています。そのなかで長谷部は左腕ですし、バランスのいいドラフトができたんじゃないかと思います」

 一方、甲子園で元西武の松坂大輔らに並ぶ通算11勝を挙げた山田陽翔(近江高/投手)は、上位での指名も予想されていたが、西武に5位で指名された。

「彼は投手というよりも"選手"ですね。投手として見れば、(広島1位)の斉藤などと比べるとスケール感という点で物足りなさを感じますし、バッターとして見れば、オリックスに2位で指名された内藤鵬(日本航空石川高/内野手)と比べると、体格面でやっぱり内藤になる。トータルで見れば、ピッチャーもバッターも"そこそこ"という部分で5位になったのかなと思います。

 ただ、性格はプロ向きだと感じます。近江の中心にいて、山田がいなければ甲子園に行けなかったでしょうし、甲子園という舞台であれだけ勝てなかったと思います。キャプテンも務めてリーダーシップでチームを引っ張り、選抜では準優勝も成し遂げた。そうとう負けん気が強いだろうし、そういう性格はプロで生きていくうえで絶対に必要なことですから。

 個人的に、山田はピッチャーよりもバッターでいってほしいと思っているのですが、彼の性格だったら成功する可能性は十分にあると思います。バッターとしていく場合に肝心なのは、タイプを間違えないこと。自分がどういうタイプのバッターを目指すべきか、はっきりさせたほうがいいでしょうね。足も速いようなので、走塁面を磨いても面白いかもしれません」

 育成を含めて指名した10人のうち7人が投手を占めた楽天など、「各球団とも補強ポイントにマッチした指名をしていた」と語る高木氏。日本ハムが1位で指名した矢澤宏太(日体大/投手)も、チームにフィットすると考えているようだ。

「プロでも投打の二刀流に挑むとのことですが、大谷翔平が二刀流で成功したようにノウハウがあるでしょうから、いいチームに入ったなと思います。ピッチャーとしては三振が取れて、バッターとしては広角に打てるし、塁に出れば足を使える。非常にバランスのいい選手ですし、新庄剛志監督の野球にフィットするでしょう。

 2位指名の金村尚真(富士大/投手)もいいですね。とにかくコントロールがすばらしい。日本ハムは中継ぎ投手のやりくりにかなり困っていましたから、金村が獲れたことは大きいと思います。先発と中継ぎのどちらで起用するかわかりませんが、どちらもいけると思いますし、どの球種もコントロールがいいので何の心配もないです」

「目玉不在」「(9球団が事前に1位を公表して)盛り上がりに欠ける」などと言われた今年のドラフトだったが、プロは結果がすべて。それぞれのチームで躍動する選手たちの姿に期待したい。