日米通算170勝の岩隈氏が、今春にボーイズチームを創設「うまい!」「今のいいじゃん!」。笑顔で中学生に声をかけながらノッ…
日米通算170勝の岩隈氏が、今春にボーイズチームを創設
「うまい!」「今のいいじゃん!」。笑顔で中学生に声をかけながらノックの列に並んでいるのは、つい数年前までメジャーリーグで活躍していた岩隈久志氏だ。自らもノックを捕球し、軽快なステップでキャッチャーに送球する。「自分も野球を通じて成長させてもらった。野球の楽しさを子どもたちに伝えたい」。今年5月、中学硬式ボーイズリーグのチーム「青山東京ボーイズ」を立ち上げた。
10月初旬時点で、部員は29人。近鉄や楽天、マリナーズなどで日米通算170勝を挙げ、2020年限りで現役を引退した元右腕から指導が受けられるとあって、同月に行われる体験会にも予約は殺到。定員はすぐに埋まってしまうほどの人気ぶりだ。
練習は週3日。土曜日と日曜日はグラウンドで、火曜日は室内施設で練習を行う。監督を務めるのは、岩隈氏の義父で、西武や楽天などで選手や指導者として長年プロに身を置いてきた広橋公寿氏。岩隈氏はオーナーという形で、練習時には選手に交じりながら技術を伝えている。
チームが第一に目指すのは、野球を通した人間教育。「一番は楽しくやること。野球だけでなく人として成長してほしいんです」。理念の裏には、異国での経験も生かされている。「メジャーでは、いかに野球を楽しんでやるかというのを思い出させてもらえた」。2011年オフにFAでマリナーズへ移籍。そこで日本との雰囲気の違いも感じた。
「アメリカは試合にはもちろん集中しますけど、攻守交代でいったんベンチに帰ってくると、和やかなムードを作ったりする。日本の場合はベンチで私語禁止くらいの勢いじゃないですか。結果が全ての世界ですけど、メジャーに行くと『楽しまないといけないよ』と言ってくれる選手もいて。小学校の時の野球の楽しさを思い出しました」
怒声罵声は一切無し「楽しくなかったら、辞めたくなる」
青山東京ボーイズでは、指導者が子どものミスに対して叱責することは一切ない。「やっぱり僕も小学生の時に野球が楽しいから、かっこいいから始めた。楽しくなかったら、辞めたくなりますよね」。野球人口が減る中、厳しい指導のせいで野球を辞めてしまう子どもも少なくない。チームの練習で聞こえてくるのはポジティブな言葉ばかりで、雰囲気はとても明るい。
もっと厳しく指導すれば、勝てるチームは作れると語る。「でも面白くないですから。失敗して、自分で考えて、課題を解決できたほうが自信に繋がります」。そのために、質問しやすいチームの雰囲気づくりも重視する。
「できるだけ1人、1人と会話して、技術のことだけでなく何気ない会話もするようにしています」。基本的に練習は顔を出し、コミュニケーションを図る。時には自らノックを打ち、一緒にフライ捕球の練習も行う。「一歩遅いな~」「今のは逆シングルじゃないの~?」。岩隈氏は常に明るい表情で、子どもたちと接する。
「技術を教えてもらう時でも指示待ちにならずに、自分から聞いてくる環境を作ってあげたいと思っています。自分たちで考えることができる人に育っていってほしい」
まだ始動して5か月ほど。中学1年生が多いため、試合であまり勝つこともできていないが、「勝つことが全てじゃないですから」と語る。「負けから色々なことを考えて、自分たちで何が足りないのか、その課題に取り組んでもらうほうが社会人になった時も生きると思うんです」。練習して、上手くなって終わりというわけではない。野球を通じて、子どもたちの主体性も育んでいく。(上野明洸 / Akihiro Ueno)